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猫まんま
にゃーと可愛く鳴く声。 ナルトは思わず顔をあげる。自分の膝小僧に擦り寄るように、猫が身体をくねらせる。 「お前、どうしたってばよ?母ちゃんとはぐれちまったのか?」 成猫になりきってない小さな体は、子猫と言うには少し大きい。ふさふさの背中をひと撫ぜすると嬉しそうに、またにゃーと鳴いた。 「悪りぃ…オレ、食いもんなんて持ってねぇってばよ」 ナルトの言葉がわかっていない猫は、まだナルトに擦り寄ってくる。白と黒のぶち猫が、ちょこんとナルトの前に座った。 「ん〜…参ったてばよ。ホントにオレってば、食いもん持ってねぇし…猫ってラーメン食うのかな?」 家に連れ帰るのはいいが、この猫が何を食べるのかイマイチ分からない。ナルトは猫の前足を取ると、ひょいっと抱える。小さくて軽いが、温かい体。ふんわりとした塊を抱いていると、なんだか優しい気持ちになる。 「やっぱ、連れて帰るってばよ!」 にししと笑って目の前に猫の顔を近づけると、その小さな瞳がナルトをじっと見つめる。 「めちゃくちゃカワイイってばよ〜」 ナルトはその顔に自分の頬をくっつける。 すると、ぶち猫はぺろりとナルトの顔を舐める。くすぐったそうに笑うナルトの顔を猫はぺろぺろと舐め続けた。 「あははっ!オレってば食いもんじゃねえってばよ!」 ナルトは猫を抱え直すと、「やっぱ、腹へってんのかな〜」と呟いた。冷蔵庫にある牛乳は賞味期限が切れないはずだ。温めてあげればいいだろうか。そんな事を考えながら、じっと猫の顔を覗き込む。 「あら、ばかナルトじゃない?」 いつの間に現れたのか、目の前にできた影にナルトが顔を上げた。勝気な顔の両隣には、いつもの顔ぶれ。 「バカは余分だってばよ…」 「な〜に黄昏ちゃってんのよ。こんなとこで」 「いの…オレの話聞いてんのかってばよ」 「ばかにばかって言って何が悪いのよ」 ナルトはぷうっと頬を膨らませる。口で彼女に勝てるはずがなく、むすっとしながら明後日の方を向いた。 「ナルト、猫どうしたんだ?」 チョウジはスナック菓子の袋をごそごそやりながら、ナルトの抱いているぶちを覗き込んだ。ナルトはふとその菓子が気になった。この猫は食べるだろうか。そう考えてチョウジの前に猫を差し出す。 「こいつ多分、腹減ってんだってばよ。チョウジ、そのお菓子ちょっと分けてくんない?」 「…猫ってポテトチップス食べるの?」 思わずチョウジと見詰め合ったナルトは「さあ?」と首を傾げた。お腹が減っているなら何でも食べるのではないかと言うのが、ナルト的見解だ。 「食わねぇかな?」 「ナルトォ、いくらなんでもポテトチップスはないんじゃないの? ――ねぇ、シカマルどう思う?」 事の成り行きをただ後ろで見守っていたシカマルは、急に水を向けられて眉をしかめる。心の中で「めんどくせー」と呟いた。ただ口にすると、もっと面倒なことになりそうで適当に切り返す。 「知るかよ、そんな事…でも、一般的に猫って言や猫まんまじゃねえのか」 ナルトの前に立つ10班面々は、じっと黒ぶちの猫を見つめた。 「なぁ、シカマル。猫まんまってなんだってばよ?」 「あんた、ほんっとばかねぇ。猫まんまって言えば、お味噌汁をかけたご飯のことでしょ?」 「え…?いの、それ違うんじゃない。ご飯に鰹節を混ぜたご飯の事じゃないの」 いのとチョウジはパチっとあった視線をそのままシカマルに向ける。シカマルは面倒くさい事になったと思いながら、両手を頭の後ろで組んだ。自分が口にした「猫まんま」が渦中の問題だが、ハッキリしないのが本当だ。 「そりゃ、それぞれの家によって違うんだろうぜ。特に猫用にメシを用意するんじゃなくて、残り物を猫にやってたってだけだろ?それに今はキャットフードっつー猫専用のメシも出てるじゃねぇか」 「シカマルの考えてた猫まんまってなんなのよ」 いのはシカマルの意見に納得していないらしい。今は、味噌汁かけご飯か鰹節ご飯かの問題を話しているのだ。 「はぁ?別にどうでもいいじゃねぇかよ。猫にしてみりゃ、食えるだけでラッキーだろ?」 「え〜、ボクも知りたいけど」 チョウジは別にしても、いのの目はちょっと真剣である。シカマルは渋々口を開いた。 「うちの母ちゃんは、出汁に使ったいりこを冷や飯に混ぜてたぜ?」 正直に口にすると、意外といのは納得したように頷いた。 「へぇ、三人三様ってやつね」 「基本、猫は猫舌で熱いのは苦手だから、冷や飯に味噌汁や鰹節混ぜるのもオッケーなんじゃねぇのか?」 「シカマルってやっぱ頭いいってばよ」 話を聞いていたナルトは関心してしまう。とりあえず、猫の好きそうなものは分かったし、早速帰って何かをあげよう。そう思って立ち上がった。 「シカマル、こいつにやる牛乳も温めた方がいいのか?」 「お前、飼うつもりかよ?」 驚いたようなシカマルに、ナルトは首を横に振った。自分の住んでいるアパートでは動物を飼う事は許されていない。それに、任務で家を空けることもあるので、家族のいないナルトには世話ができないのが実情だった。 「違うってば。ただ、こいつ腹減ってるみたいだからメシくらいやろうって思ってただけだってばよ」 「見たところ子猫じゃねぇし、牛乳よりも食えるもんのがいいんじゃないのか」 「そっか。確かに子猫じゃないってばよ。サンキュ」 向けられた笑顔にシカマルも口元が緩む。 「間違っても、熱いラーメン食わせようとか思うなよ」 シカマルの言葉を聞いて、ナルトは誤魔化すようにへへへと笑った。 「いの、ナルト…絶対ラーメンあげようと思ってたよね?」 「ポテトチップスあげようとか思ったくらいだから、そうなんじゃない?」 白けた視線でナルトを見る二人は、力なく笑う。 「ナルトらしいって言えば、そうなんだけど…」 「あ〜…だから、ラーメンはやらねぇってばよ」 「はいはい、分かったわよ。じゃあね、ナルト」 そわそわしているのが見ているだけでも伝わってくる。今にでも走り出しそうな背中を見て、いのがぷっと吹き出す。 「おう!ありがとな。いのもチョウジもシカマルも」 手を上げて礼を述べると、ナルトはくるりと後ろを向いた。 「サスケんとこ行くか……」 ナルトが無意識に呟いた瞬間、ものすごい力で両肩を引っ張られる。 「ちょっと、待ちなさい!」 「ちょっと、待て!」 もちろん両肩を引っ張られたナルトは見事に尻餅をついてしまった。猫を両手で抱えているため、受身を取る訳にもいかず派手に腰を打ち付けてしまう。 「なんであんたがサスケくんトコに行くのよ」 いのが怖い顔をしながらギロリとナルトを睨みつける。右側をいのに、左側は何故かシカマルの手がかかっている。 「その前に謝れってばよ!お前らの所為で、滅茶苦茶痛かったんだからな」 「理由を話したらいくらでも謝ってあげるわよ。それに待てって言ってるのに、行こうとしたあんたが悪いんでしょ」 「いや…待てって言われたのと引っ張られたの同時だってばよ……」 「この際、どうでもいいじゃない。ほら、白状しなさい」 「ええ〜〜?なんでそうなるんだってば…」 「ナルト。サスケ関係のことは素直にいのに言ったほうが身のためだと思うよ…」 蚊帳の外にいるチョウジにすら、よく分からない理由で責められる。ナルトは訳が飲み込めないまま口を開いた。 「オレんとこにはメシないし」 普段、自炊というものをしないナルトは炊飯ジャーを使うことがない。ごくまれにしか使用しない電気製品のひとつだ。 「サスケは、おかかのおにぎりが好きだから鰹節とかすぐに出てきそうじゃん」 「えー!サスケくん、おかかのおにぎりが好きなの?そうなんだ〜!ふうん、そっかぁ」 サスケ情報を聞いたいのは、少し頬を赤らめながらうんうんと頷いている。 「いの、知らなかったのかってばよ?サクラちゃんはよく、おかかのおにぎり作って―――――」 「あ、ナルト…それ禁句だよ」 チョウジはのんびりと言いながら、新しい菓子の袋に手をかける。 「禁句…?」 ぽかんと口を開けたままのナルトの頭上に、鋭い突きが襲い掛かかった。 「くっそ〜!あのデコブスサクラ!!そんな事で自分の株上げようって算段なのね〜!ムカツク」 数回突きを繰り返したいのは、鋭い視線をナルトに向けた。 「あんた、サスケくんに関して隠してる事があったら素直に喋った方がいいわよ?」 「いの…目が笑ってないってば…」 ナルトは恐ろしいものを見てしまった様な気がして、ぶんぶんと頭を振る。 「オ、オレってばオレってば、別に隠し事なんてしてねーし。サスケの事なんて何も知らないってばよ」 「はぁ?サスケくんがおかかのおにぎりが好きって隠してたじゃない」 「隠すとかそんなんじゃないってば!!サスケは同じ班だし、昼飯とかみんなで食うから知ってただけで…」 「じゃ、嫌いなものはなに?」 「知らないってば…」 いのは両手でナルトの胸倉を掴みあげる。 「正直に吐けってんだよ、ばかナルト!」 「うわああっ…」 ぐいっと引き寄せられてたところで、ナルトの腕から猫が飛び出す。いのの迫力に負けたのか、それとも飽きてしまったのか…スタスタと行ってしまう。ナルトはその黒ぶちの背中を見て少しだけ悲しくなった。 「いの。もう止めろよ…めんどくせぇだろ」 「なによシカマル!ここ大事なとこなのよ。あんたには乙女心がわかんないのっ!!」 「あ〜あ。猫、行っちゃったね…いのの迫力にびっくりしたのかも」 チョウジの言葉にいのの手がナルトから離れた。鼻息はまだ荒いものの、少し冷静さを取り戻したようだ。 「ま、いいわ。今後のためにも、ナルト!!」 いのはナルトの顔の前にぴっと人差し指を立てる。 「サスケくんのことリサーチしときなさいよ」 「ええ!なんでオレが…」 いのはにっこりと笑うと、瞬時に顔つきを変える。もちろんその様にナルトは頷くしかなかったのだが。
先ほどの表情とは打って変わった笑顔を見せたいのは、じゃあねと手を振るとさっさと行ってしまった。それを見て安堵の息を吐いたナルトは、目の前に差し出された手の主を見上げる。 「ほら」 シカマルは仏頂面をしながら、右手を差し出していた。有難くその手を取ったナルトは腰をさすりながら、よろよろと立ち上がる。 「全く、女ってのはめんどくせーな」 「サクラちゃんもいのも、サスケの事になると反応しすぎだってばよ」 「そりゃしょうがねえだろ。いのはサクラがサスケと同じ班ってこと気に入らないんだから」 「そんな事言ったって…オレには全然関係ねぇってば」 「ばかだなぁ、ナルト。それが乙女心ってやつだよ、いのの言ってた。これからは、いのの前でサクラとサスケの話はしないことだね」 のんびりしているように見えるが、チョウジは彼なりによく観察しているらしい。ナルトは力なく頷きながら、忠告として受け取って置くことに決めた。たった数分の間の出来事なのに、どっと疲れが襲ってくるような気がする。そして、ふと思い出したようにシカマルを見つめた。 「あ!そう言えば、シカマルはオレに何の用だったんだってばよ?」 ナルトは両肩を掴まれたから、尻餅をついてしまったのだ。いくらナルトがいのに身長が負けるといっても、ちょっと引っ張られたくらいでは倒れたりしない。 「あ?……ああ」 シカマルは渋い顔つきになった。サスケの名前が出て、咄嗟に手と口が出たとは口が裂けても言えない。 「うちは毎朝、味噌汁だからよ。いりこならあるって言おうと思ったんだ。近所にゃ野良猫も多いから、母ちゃんがエサやってたこと思い出して…」 「へ〜。だからシカマルは猫にも詳しいんだな」 苦しい紛れの言い訳に、ナルトは素直に納得したようだ。シカマルはほっと胸を撫で下ろす。嘘は言っていないが、少しだけ心苦しい。 「まぁな。次に野良猫みつけたら、俺んとこ来い」 サスケの家に行くなとは言えない。 バカ正直なナルト事だから、本当にシカマルの所へ来るだろうという算段もある。 「え!? いいのか?次からはそうするってばよ」 「…ナルトって単純だよね」 チョウジのその声はシカマルにだけ聞こえる小さな声だった。シカマルは一瞬ドキリとしてチョウジを横目で伺う。彼はシカマルには目もくれずポテトチップスをパリパリ食べていた。 「なぁなぁ、今度シカマルんとこに猫見にいってもいいか?」 「野良だから気ままにゴロゴロしてるだろ。それにうちで飼ってる訳じゃねぇぞ」 「いいってばよ」 余程、野良猫を可愛がりたいのか…。それでも、ナルトが遊びに来ると言っているのだからよしとしよう。母親にいりこを取って置くように頼むことも忘れてはならない。なかなかこれはポイントが高そうだ。 「ナルトは野良猫を餌付けしようとか思ってるの?」 「そうゆうんじゃないけど、オレんちの辺りは野良猫もいないってばよ。かわいいじゃん、猫」 「へ〜。お前が猫好きだとは意外だったな」 ナルトは動物全般が好きだと答えた。 「だけど…」 ナルトは何かを思い出したように、うんざりするような顔を見せる。 「アレは苦手だってばよ。黒くてカサカサするあいつ…時々いるんだけど、目があった瞬間に飛んで向かってくるところも大嫌いだってば……ついこないだもカクトーしたばっかだってばよ」 シカマルとチョウジは顔を見合わせる。思っていることが同じなのか、力なく笑った。 「ソレは動物じゃなくて、ゴキブリじゃないの?ナルトが部屋を汚くしてるからいけないんだよ」 「カカシ先生にも同じこと言われたってばよ…」 「ゴキブリくらい何言ってんだ」 「はぁ?シカマルはあいつの恐ろしさを知らないから、そんな事言えるんだってば。やっつけようと思っても、飛ぶし。シカマルはゴキブリ平気なのかよっ!」 「…ったり前だろ?男のくせに情けないな」 「ふ〜ん…じゃあ、シカマルが退治しに行ってあげれば?」 チョウジの科白にナルトは縋るような視線をシカマルに向ける。シカマルはぽりぽりと鼻の頭をかくと、「しょうがねぇな、めんどくせーけど…」と呟いた。 「あ、ボクはゴキブリ嫌いだから行かないよ」 思わずチョウジを見ると、今度は視線を外さずに「今度、奢ってよね」と付け加えられた。内心を見透かされたシカマルはばつが悪い。一応、頷く事でチョウジの言葉を肯定した。
三人が下らない話を続ける塀の上で、黒ぶち猫がにゃーと鳴いたのだが、その声はナルトに届かず夕暮れの中に消えていったのだった。
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すご〜く、くだらない話でごめんなさい…
シカ→ナル風味です。
ちょっと勘違い気味かもしれないorz
アニメのビコウ虫(漢字忘れた…;)の回で、
ナルトがゴキブリのこと言ってたなぁとか…思いまして。
10班ズ、大好きです。