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KOI-GOKORO 5

 

 

 ナルトと一緒に、いつも通りの朝食を口にしている。

 普段と同じというには語弊があるかもしれない。いつも居るはずの両親の姿はなく、少しだけガランと感じるダイニングスペース。

 両親が居ない空間など、今まで何度も経験しているというのに……胸の鼓動がどくどくいって、その音がナルトにまで聞こえてしまうのでないかと思うくらいに動揺している。

「シカマル、なんか機嫌悪りぃの?」

 不意に聞かれて、また心臓がドクリ。

「は?…ンな事ねえけど?」

「ふーん。なんか口数がいつもより少ねえし……」

「そりゃ、寝起きだからな。そうゆうお前こそ、いつもより静かじゃねえか」

 ナルトもシカマルに痛いところを突かれた。自分から水を向けてしまったのだが、上手い言い訳など頭に浮かんでこない。シカマルと二人きりという“今“に緊張しているなんて口に出来ない。

「……別に、いつもと同じだってばよ」

「俺だって、同じだって…」

 お互いに緊張しながら納得したふりをして、会話の少ない食事を進める。食事と言っても、トーストとインスタントスープだけ。

 

ナルトはしたくても料理ができない。

シカマルは無精な性格から、料理をしようとはしない。

 

「ごちそーさまっ」

 ヨシノの教育の賜物か、パチンと手を合わせたナルトが食器を流しに下げに行く。それから、レンジの中に牛乳の入ったマグカップを入れる。そして、ふとシカマルを見つめてしまった。難しい顔をしながら新聞に目を通す様は父親のシカクによく似ている。キッチンとダイニングが対面になっているので、よく彼の表情が見えた。切れ長の眼差しに、長い指先が紙をめくる仕草。思い出したようにトーストを口にして咀嚼している。長い髪はまとめておらず、肩にかかっていた。それが鬱陶しいのか、大きな手がたまに髪を掻き上げる。その伏し目がちな顔つきにドキリとしてしまう。

 無意識にかっこいいなぁなんて、見つめてしまったのだ。

 そのシカマルが不意に紙面からナルトに眼差しを移した。ふっと合ってしまう視線。真っ直ぐに黒い瞳に見つめられたナルトは、口から心臓が飛び出してしまうのではないかと思うくらいに焦ってしまう。

「おい、ナルト」

「ななな…なんだってばよ」

「ぼけっとすんなよ。チンって鳴ったぞ?」

「へ?」

 電子レンジの中に入れたマグカップの存在を完全に忘れてシカマルに見入っていたナルトは、頬が熱くなるのを感じた。見つめていた事がばれているかもしれない。

「……あ、りがと。シカマルは、コーヒーおかわりする?」

「ああ、サンキュ」

 ナルトはこくこくと頷きながら、デカンターを持ってシカマルの隣に座った。ただの苦い飲み物がシカマルの好物の一つ。ナルトには理解できない。湯気のたつマグカップの中に、いつものように砂糖を入れる。

「なぁ、ナルト…」

 砂糖をスプーンでぐるぐる回して溶かしていたナルトは、シカマルの声に過敏に反応する。だけれど視線は彼には向けない。まだ、熱くなった頬の感覚が残っていた。

「………なんだってばよ?」

 気のない素振りで答えてみるが、シカマルの言葉は途切れたままで続かなかった。

「シカマル、なんか言いてえことあんの?」

 思わず聞いてしまって、シカマルが新聞を畳むのが見えた。

「…いや、なんもねえ」

 理由もなく名前を呼ぶとは考えられないのだが、ナルトもシカマルを追及できないでいた。

 つい先日の駅のホームでの出来事が頭から離れない。ストーカーみたいにしつこい野郎を牽制する意味で「好きな人がいる」と言ったつもりでいた。キバにそう吹き込まれたからだ。正しくは付き合っている娘がいると言えばいいというような内容だったけれど、嘘はつけない性分なのがナルト。牽制のつもりで口にしたことは一番の真実。

 好きな人がいる。ずっと好きな人。気が付いたら好きになっていた人。でも、あのストーカー野郎の事をナルトはバカには出来ない。気持ち悪いとは思うけれど。

自分だって、幼馴染で同居人で兄弟のように一緒に育った“男”を好きなのだ。その部分は一緒だし、彼がどれくらいの気持ちで自分を好きでいたのかは知らない。それに、アイツは堂々と自分に告白してきた。気持ちをぶつけてきた。ナルトにはそんな真似もできないし、そんな勇気もない。

 正直、自分の気持ちを吐露してシカマルに拒否されるのが一番怖いのだ。そう思ってはぐらかしてきた日々の中で、シカマルから眠っている隙に告白された(気でいる)。

 嬉しくて嬉しくて。意識する気持ちがどんどんと大きくなって、心が軋んでいる。大きくなりすぎた感情に押しつぶされそうな音がする。あまりにいつもとは違う自分をシカマルに見せたら、勘の良い彼の事だ。隠している気持ちに気づかれてしまうかもしれない。

「……でも、そっちのがいいってばよ」

 思わず口にしてしまった心の内に、ナルトははっとした。

「なにがいいんだ?」

 そして、シカマルに突っ込まれてまたドキリ。

「べつに。独り言!」

 シカマルが自分の事を好きでいてくれるなら、この気持ちを彼に伝えて「両思い」に発展した方が都合がいい。だけれど、やっぱり怖い。キスされたあの夜から、ナルトの目から見てもシカマルに変わった節は見受けられない。もしかしたら完全に自分の妄想なのかもしれないと思う時も、しばしばあった。

 ナルトの軽い溜息に、シカマルは横目で彼を伺う。マグカップに口をつけながら、温めた牛乳をちびちびと飲んでいる。シカマルが口を噤んでしまったのは、ナルトの思い人の事を追及してしまいそうだったから。本当は聞きたくてしょうがない。自分が知らない、ナルトの思いに嫉妬で神経が焼き切れそうなくらいなのだ。動揺とかのレベルを超えた、はた迷惑なこの恋心。

 聞いてどうにかなる問題でもない。この気持ちをナルトにぶつけてしまうのは、あのストーカーと一緒の行為だとも言えた。

 そして、無意識に漏れた溜息がナルトのそれと重なる。思わずお互いの顔を見つめ合ってしまった。

「……朝っぱらからその重てー溜息はなんだよ」

「そ、それはシカマルも同じだってばよ!」

「つか、お前の態度…明らかにおかしいよな」

「えっ!」

 シカマルの科白にナルトは動揺した。やっぱりと言うか、ついにと言えばいいのか……バレているのだろうか?この気持ちが。気が付いているなら、どうして彼は自分に面と向かって告白してくれないのだろう。あのキスは?あの告白の意味は?キスをする好きは、恋愛感情とは違うのだろうか?ナルトは頭の中がぐしゃぐしゃになる感じに気分が悪くなる。

 はっきりしない自分と、はっきりしないシカマル。どうしてか食い違っている感情の行方はただの勘違いだったのだろうか?

「シカマルは……分かってんのに、なんも言ってくんねえよな?」

 ナルトは自棄になって心の内を言葉にする。それは本当の気持ち。

「オレの気持ちとか、本当は分かってんのに――――――― 」

「分かってる?何の話だよ。気持ちがどうのって…」

「今、オレの事“おかしい”って言ったじゃん!」

「ああ、言ったけどよ……」

 話の辻褄が合わない。何をナルトに求められているのかシカマルには理解できないでいた。

「シカマルってば、意地悪りぃ…」

 ぽつりと呟かれた一言にシカマルの眉が歪む。

「ちっとも意味が分かんねえよ!」

「シカマルは意地悪だって言ったんだってばよ」

 ナルトは乱暴にマグカップをテーブルの上に置いた。シカマルとは視線を合わせようともせず、ぷうと膨らませた頬が子供っぽい仕草に見える。シカマルは畳んだ新聞を放り投げると、むかむかする気持ちが腹の中の奥の方に溜まっていくのを感じた。

「ナルト、なんでストーカーの事…言わなかったんだよ」

「それは……」

「キバと一緒ん時に告られて、そのままあんな感じだったんだろ?」

「そうだけど……」

「キバには良くて、俺には知られたくなかった、隠したかったって事だろ?」

 シカマル以外の誰にも知られても構わないけれど、彼にだけは知られたくなかった。その理由は簡単。ナルトがシカマルの事を好きだからだ。シカマルの言う事は当たっている。その核心については知らなくても。

「昨日の帰りだって、キバがダメだから俺に都合よく頼んだんだろ?」

 ナルトの口から直接聞きたかった。最後の最後に自分を頼ってくれたのは嬉しい。だけれど、告白された事も、本人ではない友人の口から知らされたのだ。少し腹立たしかった。いや、少しではない。かなりムカついた。一番近くにいる存在だと思っていたのに、ちっともナルトの事を知らない自分について。友人にすら嫉妬心を覚えた。

「本当は、オレが……ちゃんと一人で解決する予定だったから、だから……その、終わってからシカマルに言おうと思ってたんだって。隠そうとか、都合よく利用しようとか…考えてねえってばよ」

 器用な性格でないナルトの言葉に偽りはないだろう。それでも、何もかもに当り散らしたい気持ちは治まらない。

「そうかよ」

「そうだってばよ……」

「ナルトに好きな奴が居るとか、初耳だけどアレも嘘か?それとも、好きな奴ってサクラの事さしてんじゃねえよな?誰だよ、言えよ。それとも俺には言えねえのか……?」

「……え?!」

 シカマルの攻めるような口調にナルトは目を見開く。シカマルの言い方では、彼はナルトの気持ちに気が付いていない。知られていると思って先走った事を口にしてしまったナルトは、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

「それは……」

「口から出任せってやつか?」

「あの、あれは……」

「お前は簡単に嘘をつけねえよな?性格的に」

「シカマル?」

「いるんだろ?好きな奴。付き合いてーとか思ってる奴」

 身体を少しだけナルトの方へ向けて、テーブルに肘を突きその上に顔を乗せている。斜めに映るシカマルの顔が、その眼差しが何故か痛い。

「それも俺だけ仲間外れってやつか?―――― キバやチョウジは知ってんのか?」

 小さな頃からつるんで遊んでいる仲間の名前を口にされて、ナルトはぶんぶんと首を横に振った。顔が熱くなる。もしかしたらこれはチャンスかもしれない。しれないけれど、シカマルの気持ちが変わっている可能性だって無きにしも非ず。博打みたいな告白を口にする事ができない。ぎゅっと口を噤んだナルトに、シカマルはわざとらしい溜息を付いた。

 その溜息を耳にしてナルトの身体が緊張する。どんどん感情が胸からせりあがってきた。そして、鼻の奥がきゅうっと痛くなる。視界も歪んだ。

「……―――――――― 居るってばよ」

「ナルト?」

「好きな奴、居るってばよっ!」

 顔を上げてキッと睨みつけてくる青い瞳を受け止めたシカマルが、驚いたようにぽかんと口を開けている。ナルトの声色は逆切れのような感じで、シカマルが無理に問い詰めた結果、切れた…というようにしか見えなかった。そして、目尻からぽろりと零れた透明な雫。シカマルはぎょっとしてしまった。顔を真っ赤にして、強気な視線だけがシカマルを捉えているけれど、それは強がり。零れた涙がその証拠なような気がする。

「ナルト、悪りぃ……無理に言えとかじゃねえんだ」

 ごくりと唾を飲み込んだシカマルは、嫉妬に駆られてナルトに対してひどい物言いをしてしまった事に後悔していた。

「な、くなよ…」

 泣かせているのは自分なのだろうか?

 この自分の気持ちが、ナルトを傷つけているのだろうか。すうっと心の中で渦巻いていた何かが消えていく感覚…。

「悪りぃ……」

 怒りなのかぷるぷると震えるナルトの唇が、噛みしめられて真っ赤になっている。

「ナルト」

「オレの好きな奴は……」

 聞きたいのか聞きたくないのか。知ってしまって、また醜い嫉妬心が湧き上がってくるのではないか。焦燥している心の中で暴れまわるもう一人の自分。

「別に無理に言えとか…ンなんじゃねえよ」

 聞きたいけれど、聞きたくない。知ってしまったら、自分はどうすればいい?昨日以上の空しさに途方にくれてしまうんじゃないか。

「言うな…よ、ナル」

「なんで?聞きたいんじゃねえの?」

 すんっと鼻をすすったナルトが、じっとりと見つめてきて、そんな仕草さえも可愛くてしょうがなくて……ナルトを抱きしめてもいい理由になるような気がした。

「ナルト」

 思わず差し出した指先で、頬に伝った涙を掬い目じりにまだ溜まる雫も親指の腹で拭う。頼りなさそうな青い瞳が潤んでいる。困ったように眉をひそめている姿が、二人が最初に出会った日の事を思い起こさせた。

「聞けってばよ」

「聞かねえよ」

「言うのも駄目なのかよ?」

「…俺がキレたからって言う必要ねえってコトだって」

「……違うってばよ」

 ナルトは軽く首を横に振った。

「オレ、言いたくても今までシカマルに言えなかったし……ほんとはちょい怖いけど」

「怖い?」

「うん。ちょっとじゃなくて、すげー怖い…」

 昨日の今日で最悪の気分を味わうかも知れない…。シカマルはやっぱり首を縦には振れない。

「俺も聞くの、こえーよ……だから言わなくていい」

「シカマルも怖い?…何で?」

 好きな人の口から、自分ではない誰かの名前が出るコトが怖い。知っている人物でも嫌だし、自分の知らない誰かだったらもっと嫌だ。とても我侭で傲慢で自分勝手なのは重々承知。

「でも、言う!」

「だから、言わなくていいって言ってんだろ?言わなくていい!」

「なんだってばよ!言えとか言うなとか………でも、オレは言うってばよッ!」

「言うなって言ってんだから、言うなよ。聞かねえぞ、俺は」

「聞けってばよ、シカマルのバカ!オレの好きなやつは、シカマルなんだからっ―― …あっ」

 勢いづいたナルトは自分の口を手のひらで覆う。

「……え?」

 ナルトの言葉を聞き直すようなシカマルの声に、頭の中がパニックを起こす。

「あ…あのっ……」

 勢い余って口にしてしまったのはいいが、次の言葉が見つからない。シカマルの目が大きく見開かれている。それだけが鮮明に映って、ナルトは再び血液が顔に集まってくるのを感じた。本能的に逃げるしかないと感じたナルトが立ち上がる。だけれど、すぐにシカマルに手首を捕まれて再び座らせられた。

「逃げんなよ!今、すげー大事な話してんだろ……」

「だ、だって……」

「だってもクソもねえ!…ナルト」

「はいっ!」

 思わず返事をしてしまったナルトは、真剣な顔つきで自分を見つめてくるシカマルの視線を真正面から受け止める形になる。

「お前が好きなのは、同居人で兄弟みたいに一緒に暮らしてきて、幼馴染で、それで男の俺っての本当なのか?」

 シカマルの表情があまりにも真剣過ぎるから、ナルトは嘘を付けない。素直にこくりと頷くと、シカマルが軽く息を吐く。ナルトの心の中に、「どうしよう?」が渦巻いた。やはり、伝えては行けない気持ちだったのかもしれない。あの夜の告白も、自分の聞き間違いだったのかもしれない。心臓がばくばく言い始めて今にも口から飛び出しそうだ。

「ごめ……一緒に暮らしてて、男のオレがシカマルの事好きになって!でも、気持ち悪いとか迷惑とか…そんなんだったらオレ…――――――― 」

 シカマルの腕がナルトの体を引き寄せて、抱きしめる。

「シカマル…?あの……」

「謝るなよ、なかったことにもすんなよ。気持ち悪くもねえし迷惑なんかじゃねえよ。そんな事、ある訳ねえだろ?」

 ぎゅっと抱きしめられて放心してしまった。シカマルの声が言葉が、すうっと頭の中に入ってくるのに理解するまでに時間がかかる。それよりもダイレクトに感じているシカマルの温かさにクラクラしていた。

「俺だって、お前がずっと好きだったんだから」

 シカマルは、言葉にして気持ちが急に楽になる。腕の中のナルトの体が緊張して強張っていたはずなのに、ふっと力の抜けるのを感じた。

「俺は、お前が好きなんだ。ナルト……」

「シカマル?」

「みっともねえくらい、お前に告ったストーカーにもダチにも嫉妬するくれーに、…お前が好きだ」

「…んとに?」

「ん?」

「本当にかって……オレが好きになっても、シカマルは嫌じゃねえの?」

「ったり前だろ?…年季入ってんだぞ。俺の気持ちには」

「そんなん、オレだって……同じだってばよ」

 恥ずかしいのに、嬉しい。嬉しい気持ちをどうやって表現していいのか分からないくらいに、嬉しくてしょうがない。シカマルに抱きしめられて、ドキドキが治まらないのに……でも嬉しい。

「えっと、オレも好きでシカマルも好きなら……オレら付き合ってるみたいな感じ?」

「お前が嫌じゃないならな」

 意地悪して言って見るが、ここで付き合うのは嫌だと言われても引けそうにない。

「ナルト」

「なに…?」

 腕の中のナルトの声が、シャツに吸い込まれて消えていく感覚。全てに酔ってしまいそうなのは、急に訪れた幸せの所為なのだろうか。

「キスして、いいか?」

 ノーだと言われても奪うつもりはある。盗み取ったキスでなく、ナルトと心が通じ合ってする最初のキス。

「そ、そ、そーゆうの…聞くなってばよ。雰囲気とかなんかよくわかんねえけど、そーゆうので…」

 恥ずかしがっているが嫌そうに感じない口調にシカマルは便乗することに決めた。

 

 

 重ねた唇は柔らかくて、

 淡い恋心の叶った瞬間。

 

 

 

 

  

 

 

 

やっとこさの完結です()

1〜4は拍手のお礼用のSSだったので、ラスト5とは少しだけ雰囲気ってかが違います。

うまく説明できないですけど(^^

ちなみに拘りとしては、本文中に1回は「恋心」ってゆう単語を入れることでした!

すごいくだらないけど、小さな拘りってやつです。

この二人の恋の続きは「KOI-GOKORO2」で!

続くんですか?とか呆れないで下さい。最近のウチパターンです(汗)