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Do Me More 1

 

 

 身体を揺すられている。何度も何度も。

 夢の中にずっと居たいのに、どうしてそれは許されないんだろうか。

 

― すっげえ、疲れてるんだってばよ。眠らせってくれってば……

 

 心の中で叫んだ声は、声になっていない。願望に近い気持ちは、乱暴な腕に裏切られた。

「起きろって、言ってるだろうが!ナルトっ!」

「…ん〜っ。眠てえってば…」

 ごしごしと目を擦ると、太陽の光が差し込んで視界がちかちかした。机に突っ伏して寝ていた為か、身体が軋む。ナルトは大きく伸びをした。そして、大きな欠伸も。

「仕事をすませてから寝ろってんだよ。ったく…だから、昨日早く寝ろって言っただろ?」

 ナルトは腕を組みながら自分を見下ろす男をじっと見つめた。木の葉の中忍以上が着用するベストを着ているのだから、木の葉の忍である事は確かだ。

「えっと……」

 切れ長の目は鼻筋と同じですうっと通っている。黒い髪は一つに束ねられて、身なりはきっちりとしていた。木の葉の額当ては二の腕の辺りに留めてある。

 ナルトは眉をひそめる。馴れ馴れしい(…と言うか砕けた?)物言いから、親しい間柄なのではないかと推測できるが、当のナルトには覚えがない。いくら、アカデミー時代の成績が地を這うようなものであったとしても、人の名前と顔を忘れてしまえるだろうか。

「火影になってから忙しいつっても、睡眠時間はとれてるだろうが。昼寝までできると思うなよ」

「火影…?」

 ナルトは自分の身なりを確認した。それは三代目が着ていたような火影の正装のような服装である。

「オレってば、何時の間に火影になったんだってばよ」

「おい、まだ寝ぼけてんのか?もうすぐ、風影が到着すんぞ」

「風影…って我愛羅?」

「完全にボケてはねえみたいだな。ほら、行くぞ」

「ちょっと待っててば!……悪りぃけど、お前、誰?」

 扉の方まで行きかけていた身体が、ゆっくりと振り返る。じいっとナルトを見つめた瞳が、ふっと優しい笑みに変わった。剣呑だった表情が柔和なものに変わって、ナルトはどきりとする。

「……新手の嫌がらせか?」

「え、違う違う。マジなんだけど?オレってば、お前の事知ってるってば?」

「知ってるも何も…」

 言いかけた言葉がふいに止まる。ナルトは首を傾げて彼を見上げた。

「信じらんねぇ…」

 ぼそりと呟いた唇に、額に当てた指先。いかにも困っています、と言うように見える彼はふうっと息をつくと、ちらりとナルトに視線を移す。

「今なら、冗談で許せると思うんだけど?」

「冗談とか嫌がらせとかじゃねえし…」

 必死になるナルトに、彼も困ってしまったようだ。二人の間に沈黙が流れる。だが、すぐにその沈黙は破られてしまった。コンコンとノックしたのと同時くらいに扉が開く。

 その扉の向こうから来た見知った顔に、ナルトがあからさまにホッとしたような笑みを見せた。

「ネジ!」

 ナルトは思わずネジに近寄る。自分よりも随分背が高く見えるが、ネジはネジだ。彼は擦り寄ってくるナルトを両手で止めて、鋭い視線を目の前の男に向ける。

「シカマル。まさか、こんな時に痴話喧嘩…とか言わないだろうな?」

 ナルトはシカマルと呼ばれた男に顔を向ける。やはり、その名にも覚えがない。

「喧嘩にもならねえよ。ナルトは俺の事なんか、知らねえとよ」

「は…?やはり喧嘩じゃないか。そうゆう事は…」

「いや、マジで知らないってばよ?」

 ネジはナルトとシカマルの顔を交互に見てから、大袈裟に溜息をつく。これ見よがしと言った風だ。

「火影様……いや、ナルト。いい加減にしないと、俺も堪忍袋の緒が切れるぞ」

「そんな事言われても…」

 しゅんとしたナルトの頭を、ついいつもの癖でシカマルが撫ぜた。その行為に驚いたような顔をしたナルトに、一瞬傷つく。冗談ではないのだとその時確信した。

 その雰囲気をネジも感じ取ったのか、訝しげな表情に変わって行く。

「まさか…本当じゃないだろうな?」

「オレってば、そんな事で嘘つかねえよ?マジで知らねえもん」

 ナルトは伺うように、困った顔をしているシカマルに視線を移す。やはり、記憶の端にも引っ掛からない。

シカマルとネジは顔を見合せた。

 

 

 

 向かい合わせのソファにはナルトに対して、ネジとシカマルが二人で座っている。

「記憶がないとは……どこからどこまでがないんだ?」

「どこからって、オレ……なんで火影になってんのかも覚えねえけど?綱手のばあちゃんは?」

 ネジはじっとナルトを見つめる。

「五代目は相談役として木の葉におられる」

 ナルトのチャクラに乱れも見られない。それに、彼は嘘をつくのがとても苦手だ。と言うより下手なのだ。

「それで、いくつの時までの記憶があるんだ?」

 ナルトはう〜んと唸ると、ちらりとシカマルを盗み見た。話をするネジに対してシカマルは一言も口を開かない。

「いくつって…十六才だってばよ。オレ…」

「十六って言えば、六代目が自来也様と木の葉に帰ってきたくらいだな」

 シカマルの思い出す様な科白には何の感情もこもっていないように聞こえた。ナルトはそれだけでシカマルに苦手意識を覚える。どちらかと言うと、誰とでも仲良くなれるタイプだと思っていたのに、なんとなくの理由で彼の事が苦手だ。

「ナルト、お前は今年で二十六になってる」

「え?!」

 大きく見開かれる青い瞳。じっと考え込むように伏せられた睫毛に隠れた青い瞳が、戸惑った様な光を灯していた。

「話にならんな。十年の記憶をどこに置いてきたんだ?」

「そんな事言われても……」

「それに、記憶が混乱しているのは良いとしてもシカマルの事を覚えていないと言う事も納得できない」

 ネジはじろりとシカマルを睨みつける。

「お前に心当たりはないのか?」

「ねえな。俺の記憶がある限り、こいつは午前中まで普通だったぜ?別に外傷があるようにも見えねえし、どこかで頭ぶつけたとか考えられねえ」

「忘れられて拗ねてるのか?」

「まさか!」

 シカマルは失笑した。皮肉を含んだその笑みにナルトは眉をひそめる。居心地が悪い。どうしてなのか訳もわからない。

「火影がこんな状態で、我愛羅に会える訳もねえからな。俺は、会議を明日に伸ばせるように手配してくる。ネジ、火影様はお前に任せたぜ」

 シカマルは用件だけ言うと、すっと立ち上がった。そのまま振り返らないで部屋を出て行く。それを見たナルトはふうっと安堵の息を吐いた。

「なんか…キンチョーした」

「ナルト。十六までの記憶の中に…シカマルは」

「悪りぃけど、知らねえもんは知らねえし。忘れたとかの次元じゃねえって感じ」

「他に忘れてる人物がいないか、確認する必要がありそうだな……」

 呟いたネジの声に、ナルトはもう一度溜息をつく。自分も、目の前のネジも年を重ねて成長しているというのは事実だ。うんざりする気持ちを隠せないままナルトは口を噤む。

「……オレ、シカマルって苦手かもしんねえ」

 ぽつりと呟いたナルトにネジは驚いたように顔を上げる。

「何言ってるんだ。お前が誰よりも信用して、傍に置いた人間だぞ。シカマルとナルトは同期で仲も良かったと聞いている。そして、俺が知っているナルトとシカマルも……」

「そんな風には思えねえもん」

「それは……」

 ネジは複雑な気分になり、ナルトを見つめた。もし、大切にしている人の中から自分の記憶が消えてしまったとしたら。それも、自分だけの記憶がなくなってしまったとしたら、その思いの分だけ辛いのではないだろうか。それを、今のナルトに求めるのは難しい事なのだろうか。かなりシカマルの事が気の毒に感じてしまう。

「とにかく…この事は内密にする必要がある。分かるか、ここからが大事なところだ。お前は覚えていなくても、六代目火影である事は変えられない事実だ。それ相応に振る舞え」

「……それ相応って」

「フォローは俺もする。それにシカマルも」

 ネジの口から出た名前にナルトが不機嫌そうな顔つきになる。

「俺は、理由もなくナルトが人を嫌いになるはずはないと思うが?」

「そ、それは……」

「シカマルとは普通に接しろ。お前が避けているのは、とても不自然だからな」

「不自然って……」

 ネジの向ける視線に、納得いかなくてもナルトは頷くしかない。ナルトとしては、自分に対するシカマルの方がとても不自然に見える。仲が良かったと言うのに、すっぽり記憶から抜け落ちている事は悪いと思う。だが、シカマルは自分の事を「うずまきナルト」としてではなく、「六代目火影」としか見ていないではないか。

「あいつってば…オレの事、嫌いなんだってばよ」

 だから、あんな冷たい目で自分を見るのだ。今の自分を否定する様な眼差し。ナルトにはそれが耐えられない。

「普通って……知らない奴と友達ごっこしろって言うのか?」

「ナルト……混乱していることは察するが、少しおかしいんじゃないのか。お前の口から出る言葉とは思えないな」

 ナルトはぎゅっと唇を噛みしめた。どうしてなのか分からない。今までの記憶が無くなってしまっても、新しく関係を築くという選択肢もあるのに、シカマルに対してそんな気持ちになれない。その理由がわからないのだ。

「教えて欲しいのは…オレの方だってばっ!」

 きつく白い着物を握ったナルトの手が震えている。ネジは、しょうがないようと言うように口元に笑みを乗せる。

「悪い…こちらの都合ばかり押し付けたな。お前は…まだ十六、と言う事なのを忘れてた。これからの事は、そうだな………今夜にでも俺の家に来ないか?夕食を食べながら、今までの事も話そう。思い出すきっかけになるかもしれないしな」

 ナルトはこくりと頷く。ふいに、夢から目覚めた時のシカマルが浮かんできた。自分を見て優しく笑ってくれた彼の顔を思い出す。それなのに、今の自分にはシカマルは目も向けてくれないのだ。だから、癇癪を起してネジに当たってしまった。

「風影の事は、シカマルがどうにかするから任せろと言ったんだ。放っておけ」

「ネジ…」

「安心しろ。シカマルはそれが出来る男だからな」

 ネジは自信あり気な笑みを見せた。ネジにそう言わせるシカマルと言う男の事を、ナルトは何も知らない。また、理由もなく胸の奥が痛んだ。

 ナルトはひきつる顔を隠すように、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがちなシチュエーチョンで話を書こうぜシリーズ()

記憶喪失ネタ。一度はやってみたいじゃないですか!

でも、続きものになっちゃいました…あれ?みたいな。

ま〜…RUIの悪い癖なので。

どっちの記憶をなくそうか考えて、シカマル。

なぜって、RUIがシカマルを好きだから。という我儘ルール。