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悪戯 1
蝋燭の炎がゆらめく。部屋の中にはそれ以外の光源はない。あると言えば、カーテンを閉めていない窓から入ってくる月の明かりくらいのもんだろう。 「……で、その子は一人で布団に入って寝る事に決めたんだ。真っ暗になった部屋には…そうだな、今みたいに月明かりが細い影を作っていた…」 シカマルは声をひそめて、じっと蝋燭を見つめる。 「そうして、暫く立った時……」 「シカマル!もういいってば…オレってば聞きたくねえし」 思わず声を上げたナルトを、三対の瞳がじいっと見つめた。 「うるせえな、ナルト。今からがいいとこだろうが!」 キバは少し怒ったような声で、ナルトの頭を小突く。 「あ〜…ナルト、怖いんだ?」 チョウジがにやりと笑うと、ナルトはうっと言葉に詰まった。部屋の中にあるテーブルの周りには、ナルト、シカマル、チョウジ、キバが蝋燭を囲むように座っている。怪談話をしようと言いだしたのは誰だったろうか。ナルトはその手の話に滅法弱いのだが、バカにされるのが嫌でいやいや参加する運びとなってしまったのである。 「怖い…ってか、そうゆうんじゃなくって……その」 「じゃあ、いいよね。シカマル、話の続きが気になるよ」 のんびりとしたチョウジの声がナルトの言葉を遮る。ナルトは、どきどきしながらそっと隣に座っていたシカマルの手を探った。暗がりの中では誰も気がつかないだろう。当の本人以外は。シカマルはちらりとナルトに視線を送ると、ナルトの手を握り返してくれる。ほっとしたナルトはしょうがなく、話の続きを聞く事に決めたのだ。 「じゃ、話を戻すぞ?……その子が布団で寝てると、誰かがその足をさわ…」 「ぎゃあっ!」 ナルトが大きな声を出す。 「ナルト、いい加減にしねえとキレるぞ?」 「違う!今、誰かがオレの足触ったんだってばよっ!」 もうこの際、意地もプライドも関係ない。必死な思いでキバを見るナルトの目は涙目だった。 「ンな訳ねえだろ。怖いって思うから、怖いんだ。お前の錯覚だっつうの。シカマル、続けろよ」 「錯覚とかじゃねえってばよ〜!」 「まぁ、静かにしてろって。ナルト」 「シカマル〜」 ナルトは耳を塞ぎたい気持ちになる。どうして態々、部屋を暗くして怖い話を聞かなくてはいけないのか。それに錯覚ではなく、確かに誰かが自分の足に触った。 そして、畏れ慄くナルトをよそにシカマルの怪談話は続いていったのである。内容的には簡単だった。一人で眠った少女が金縛りにあい、幽霊に襲われるというもの。どこにでもあるようなチンケな話だ。ただ、場を盛り上げようとしているこの雰囲気が、他愛のない話をより面白くさせているだけの事。じっと耳をすませて、シカマルの話が終わるのを待つ。そして、ナルトはある事にふと気がつく。自分の身体が動かないのだ。まるで話の中の少女のように、誰かに押さえつけられているように。ナルトは唯一自由になる視線を前に座るチョウジとキバに向ける。話に夢中な彼らはナルトの視線に気がつく事はなかったが。 「それで、その子は大声を出して助けを呼ぼうとした…」 シカマルの話にナルトはふっと思う。そうだ、声を出せばいいではないか。簡単な事に気がついて溜息をついたところで、口元に何かの気配を感じる。 「だけど、それは出来なかったんだ。幽霊にしっかりと口を押さえられて」 ナルトも必死に声を上げようとするが、何かに口を押さえられている。さーっと血の気が引く。今の状況に誰も気がついてくれない。それどころか、助けも呼べない。それは確かに、人間の手のような感触。背筋にぞっとするものが走る。 誰も自分の状況に気が付いてくれない。ナルトは限界だった。目尻にたまった雫がポロリと落ちる。それは重力に逆らわず、頬から顎に伝ってぽたりと落ちた。それはシカマルと繋いだ手の上に。シカマルがふっと視線をナルトに移す。その瞬間、身体の金縛りが解ける。 「…ってことで、俺の話は終わり」 シカマルがふうっと蝋燭の火を吹き消すのと、襖が開いたのはほぼ同時だった。 「シカマル。もう、夜も遅いわよ。いい加減に…」 部屋の中は真っ暗なので、逆光でよくヨシノの顔は見えないが、眉間に青筋が浮かんでいる事は確かめなくてもいいだろう。シカマルは何時もの如く溜息をつく。チョウジとキバが顔を見合わせて立ち上がった。 「んじゃ、おばさん俺ら帰るし。ども、ごちそーさんしたっ」 キバがぺこりと頭を下げると、ヨシノが不思議そうに首を傾げる。 「あら、明日は合同演習なんでしょう?キバくんもチョウジくんも泊まっていかないの?」 久々に任務とは違う、七、八、十班で行われる合同演習。だからこそ、休み重なって珍しく悪戯仲間が寄り集まったと思っていたヨシノは、てっきりキバやチョウジが奈良家に泊まっていくものだと思っていた。しかも、明日の集合場所は同じなのだし、その方が都合がいいのではないだろうかと単純に思ったのだ。 「ナルトは直でここに来たからいいかもしんねぇけど、チョウジや俺は忍具とか家に置きっぱなしだから…帰るって話になってんだ」 「あら、そうなの?ナルトくんはどうするの?」 ヨシノが水を向けた事で視線がナルトに集まる。その時ナルトは俯きながら、目元をごしごし擦っていた。 「あ、ナルト。もしかして、怖くて泣いちゃったの?」 「え?あんなんでかよ。だらしねぇな〜」 同期の仲間の呟きに、ナルトが慌てて顔を上げる。 「ち…違うってば!目に埃が入って、そんで痛かっただけだってばっ!」 キバとチョウジが白い目を向けるが、それをナルトはぎろりと睨みかえす。 「そんで、お前どうする?泊まってくか?」 すぐ隣で、シカマルの声が聞こえる。ちょうど死角になっていて、繋いだままの手は誰にも見られてはにない。ナルトは返答に困る。本当は、怪談話の余韻が残っていて一人で帰りたくはない。だけれど、このまま泊まると言えば、キバやチョウジに馬鹿にされるかもしれない。 「泊まって行きなさいよ、ナルトくん」 ヨシノは当たり前のように勧める。 「ナルトの事だから、寝坊とか遅刻とか当たり前にしそうだもんなぁ。泊まってけよ」 「ボクもその方がいいと思うよ〜」 ナルトは拍子抜けした気分だった。キバやチョウジからそんな言葉が聞けるとは思っていなかったのである。 「いや…オレってば」 「いいんじゃねぇの、泊まってけよ。ナルト」 シカマルも至極普通に調子を合わせる。そして、握ったナルト手にぎゅっと力を入れた。 「う〜ん〜…じゃ、お世話になるってばよ!」 ちょっとだけ恥ずかしいが、このまま今の雰囲気の乗った方がいい事はナルトにも分かる。一人のアパートに帰っても、ベッドに蹲って眠ってしまうのは目に見えていたし。 手を上げて帰るキバとチョウジを見送り、ナルトは思わず溜息をつく。それを盗み見ていたシカマルは、ナルトの視線まで顔を寄せた。 「どうしたんだよ。そんなにびびってんのか?」 少しだけ揶揄するような口調に、ナルトは視線を背ける。 「反撃なしって事は、そうゆうことか…」 ナルトはむくれる。だけれど、シカマルの言う事は尤もなので、反撃出来ないのが本当の所だったりする。皆で集まっていた和室を片づけて、シカマルの部屋に向かう。その途中で、ナルトは思い出したように呟いた。 「さっきさ〜…シカマルが話してる時、オレってば金縛りみたくなったんだってばよ」 「へぇ〜」 シカマルは相手にしてないと言う感じだ。 「ホントだってばよ!」 ナルトは思わず、シカマルの袖を引っ張った。その事でシカマルが振り向く。 「分かったよ。怖かったって事だろ」 「信じてないってばよ…」 ナルトはじっとりとシカマルを見つめた。シカマルは信じていないのではない。知っているのだ。だから、呑気な気持ちでナルトを見つめる。 「声、出そうとしても…誰かに口を塞がれて…」 「誰かって、誰だよ?」 「考えたくないってばっ!」 ナルトの顔から血の気が引いていく。それが見ているだけで、分かる。シカマルはくすりと笑った。部屋の中の僅かな光を使って、ナルトの影を縛ったのは自分である。話のタイミングを見計らって、影首縛りで、ナルトの口を塞いだ。もちろん、怖がりのナルトが泊まって行くと言うのを計算に入れて。 任務が(と言っても合同演習なのだが)一緒になる事なんて皆無に近いし、合同なのだからナルトの身体を気遣う事もできる。即ち、今日の夜はゆっくりナルトと過ごせると思ったのだ。中忍になってから、一緒に居る事も少なくなったのだから、これくらいの事は許されてもいいだろう。 怖がるナルトに便乗して、ぐいっと身体を抱き寄せる。もちろん、ナルトは文句も言わずにシカマルの腕の中に収まった。
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うちのシカマルって、すごいナルトの事が好きなんですね。
…分かってたけど、シカマルがここまでするかなぁ(-“-)
いや、ナルトもシカマルの事が好きなんだけど。
初めて、キバを登場させました!
悪戯っ子4人組は好きなシチュエーチョンなんです。