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赤い炎 前編

 

 

 シカマルは銜えたままの煙草に火を点けるのを忘れたかのように、じっと幼馴染の顔を見つめた。

「なんだって…?」

 思わず聞き返してしまうくらいには、驚いていた。確認したと言う意味なのかもしれない。チョウジは苦々しく顔を歪めた。

「うん…だからさ。キバとも話してたんだけど……最近のナルトって何か変だよね」

「変、か…?」

 シカマルから見れば、普段と変わりなく見えるのだが。ナルトの様子が可笑しいとして、それを自分でない他人から指摘された事に、なんだか胸に嫌なものが湧きあがる。

「ボクとキバとナルト……前の任務で一緒だったんだ」

「ああ、知ってる」

 そして、今日帰還した事も。

「今は木の葉病院にいるよ」

「あいつ……怪我、したのか?」

 思わずぽろりと口から煙草が落ちた。チョウジはそれを拾うと、シカマルに渡す。シカマルは変に動揺してしまった事を隠せない自分自身にまた嫌気がさした。ナルトは九尾の妖狐の恩恵で、軽い傷はすぐに塞がってしまう。病院に居ると言う事は、それなりの深手を負ったと言う事だ。

「ボクは、それをシカマルに伝えにきたんだけどね……やっぱ一言、言っておきたくて」

「ああ…」

 煙草に火を点ける。噛み潰したフィルターから入ってくる煙が苦い。

「なんて言うんだろう……ちょっとぼうっとしてるって言うか、とにかくナルトらしくないんだ。最初はシカマルと喧嘩でもしたのかなぁなんて思ってたんだけどさ」

 この場の雰囲気を感じ取っているチョウジは、少し冗談交じりに話を進める。シカマルは思わず苦笑して、煙草の火をすぐに消した。

「そうか、会ってみねえと俺もなんとも言えないけどな……とりあえず、気に留めとくからよ。サンキュな…チョウジ」

「あ、でも……シカマルこれから――――― 」

 シカマルは軽く頷く。これからすぐに任務の為に木の葉を立つ。ナルトの元に寄る時間もないだろう。ナルトの事は気になるが、彼も子供ではない。病院に居る間は大人しくしているだろうし、自分がいなくても心配してくれる仲間も居る。

「悪りぃな…タイムリミットだ」

 ちっと舌打ちしたシカマルは、チョウジに軽く手を上げる。

「ナルトの事、頼むわ」

「う…うん。退院したら、一楽にでも誘うよ!」

 ナルトにはそれが一番の薬になるだろう。無理やり笑った様に見えたチョウジに背を向けると、シカマルは集合の場所へ急ぐ事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 リンゴの皮をむく手つきが手慣れたものになっている。食べやすいサイズにそれを切ったサクラが、皿をナルトに差し出した。

「ほんっと、あんたってバカなんだから。無茶しすぎなのよ!」

 ナルトはじいっと皿を見つめる。

「なによ…食べないの?食べさせてくれ〜とか言わないでよ」

「――――― あ…、サクラちゃんありがとだってば」

 サクラは肩透かしをくらった気分で、眉をひそめる。

「あんた、頭の打ちどころでも悪かったの?」

 怪我をして病院のベッドに縛り付けられても元気なはずのナルトの元気がない。怪我をして入院しているのだから、元気ではないのかもしれないが、それは身体的にと言う事だ。

「オレってば…いつ退院できんのかな」

 ぽつりと呟いたその声に、サクラの顔がまた曇る。

「いつも強気なあんたらしくないわよ。すぐに怪我なんて治るでしょ」

「そうだよな…オレってば、何言ってんだろ」

 笑みを浮かべるナルトの顔は浮かないものだ。サクラは訝しげな視線を彼に向ける。目の前の彼はアカデミー時代からよく知るナルトのはずなのに、どこかで違和感を感じる。こんな風に作り笑いをするような奴だったろうか。

「気弱になってないで、早く回復しなさいよ。あんたのトリエなんだから!」

「うん」

 しゃりっと言う音を立てて、かじられたリンゴが甘い匂いを放つ。ぼうっと咀嚼するナルトを見つめながら、やっぱりサクラは眉をひそめてしまう。いつも無茶をするナルトだが、入院するほどの深手を負う事も久し振りである。元々回復力は超人的である事に変わりはないが、心配でないかと言われたらそうではない。

「ナ…」

 サクラが口を開こうとした所で、ガラリと扉が開いた。

「ナルト〜!大人しく寝てるか?」

 いつもの調子で話しかけるキバに、チョウジが隣にいる。

「お見舞いに来たよ、ナルト」

 果物の籠を手にした二人はニシシと笑って、ナルトの座っているベッドに腰かけた。

「全く、やっぱお前はぼけぼけしてんよな〜」

「うるせえってばよっ!」

「いいんじゃない、キバ。それがナルトらしいってことじゃない?」

「ま、下忍ちゃんは世話がかかるなぁ」

「キバ!」

 二人が来た事で、病室の雰囲気が一気に明るくなる。サクラはナルトの様子を見て、内心ほっとしてしまった。軽口を叩くナルトは、やっぱり自分の知っているうずまきナルトだ。

「私は帰るわ。じゃ、キバ、チョウジまたね」

 二人ににっこりと笑うと、彼らは同時に顔を見合わせた。その一瞬の事に、サクラは「ん?」と思う。だけれど、スル―する事に決める。

「ナルト!大人しくしてれば、ソッコーに退院なんだから、大人しく療養することね」

「あんがと、サクラちゃん」

 ナルトがにかっと笑った。その笑顔にサクラの気も少しは晴れる。後は、アカデミー時代からの親友に任せればいい。サクラは安堵しながら、三人に背を向けた。

 サクラが退室した部屋は一気に重苦しい雰囲気に陥った。何かナルトに対して、よそよそしい様なキバとチョウジ。

 特に会話はないが、互いに意識している事は確かである。

「ナルト。お前、今回のはちょい無茶しすぎだって…出血多量でポックリなんて笑えねえぜ?」

「……うん、そうだよな。なんか、一瞬気が飛んじまったって言うかさ」

 敵の刃をまともに受けたナルトはかなりの深手を負った。それでも、呆然と立ちすくむナルトにキバもチョウジもどこかで安心している部分が会った事確かである。傷を確かめて、敵の返り血ではなくナルト自身の傷口から出ている血液の量にびっくりしてしまったくらいだ。

「サクラちゃんにも、無理すんなって言われたってば」

 むうっと口元を歪ませたナルトは、少し不満そうだ。もちろん敵の刃には毒が塗られていて、居合わせた医療忍者の応急処置で大事を免れたのだ。

「そうだ、シカマル…これから任務だからって。さっき、会ったんだけどさ」

「シカマルと?」

「うん、時間がないからここには寄れないみたいだったよ。心配…してたよ?」

 ナルトは押し黙る。

「そっか…」

 それでも振り絞る様な声に、チョウジは苦しい気持ちに襲われる。今、ナルトが近くに居て欲しいのはシカマルなのだと言う事が分かるから。それでも、自分たちは木の葉の忍で任務を投げ出す事は許されない。シカマルの取った行動は至極当たり前の事だ。それを責める権利は誰にもない。

「ナルト、退院したら一楽に行こうよ。味噌チャーシュー大盛り!病院食にも飽き飽きしてんじないの?」

「ん〜…ホントだってばよ。こってりしたもん食いたいなぁ…一楽はサイコーだってばよ」

 ナルトの手元にある皿からは、リンゴが減っていない。一口かじった欠片がころりと転がっている。チョウジはそれを不思議な気持ちで見つめた。口で言っている程、ナルトに食欲があるようには感じられない。

「あ、キバも一緒に行こうね」

「しゃーねえなぁ…付き合ってやるか!」

 キバもナルトの異変に気が付いている一人だ。アイコンタクトを取りながら、ナルトを伺う。心ここにあらずと言ったナルトは、病室の窓の外をじっと見つめている。

 その姿が儚いような気がして、見た事もないナルトの姿に心底驚いていた。他愛の会話を続けながら、やはりナルトの様子に気が行ってしまう。

 太陽が傾き始めて、チョウジとキバはナルトの病室を後にした。心に引っかかった何かを振り切る様に、ぶらぶらと歩く。

「やっぱ…ナルトの様子、おかしいよね」

「だな…いつものあいつらしくねえよ……」

 言葉にしなくても、彼を心配している気持ちは二人とも同じで。顔を見合わせて、くすりと笑った。

「シカマルがさ、帰ってくる頃にはナルトも自宅療養に変わってるよ」

「……ナルトは、シカマルにべったりだからな」

 彼に任せておけば、きっと大丈夫。そんな確信が二人の中にはある。自分たちの前では弱みを見せようとしないナルトでも、シカマルの前なら素直になれるだろう。二人の中の認識はそうなのだ。いつでも、さり気なくナルトをフォローしてきたシカマルになら、ナルトの心の奥底にあるものを払拭する力があるのだと、信じてしまう何かがある。

「俺たちゃ、役不足かもな」

「そうでもないよ」

 チョウジの笑みにキバもふっと笑う。

「だといいけどな…」

「悪戯四人組じゃん」

「あはは…忘れるとこだったぜ」

 夕日が山の端にかかっている。毒々しいほどの赤が、ふっとナルトの影に重なった。言葉少なめに別れた二人は、とぼとぼと帰路についたのだった。

 

 

 

 

 眠るナルトの頬をぺちぺちと叩く。

 普段ならそんな事は絶対にしない。彼の寝顔を見ているだけで、帰るべき場所に返ってきたのだと安堵できるからだ。それでも、心の片隅にチョウジの言葉が引っ掛かっていた。

 ぼんやりと瞼を空けるナルトに、シカマルは唇を落とす。それは触れるだけの物だったけれど、その瞬間にナルトがくすりと笑った気配を感じる。

「おかえり……」

「ああ」

「今回は長かったってばね」

「ちょい手こずったんだよ。予定より帰還が遅れちまった…」

 ふうっと息を吐くと、ナルトの両手がシカマルの首にかかる。

「入院したって聞いた時は驚いたぜ?」

「ん…ドジ踏んじまったんだって…」

「お前はすぐに気ぃ抜くからな」

 月明かりの中に照らされるナルトの顔が、蒼白しているように見える。額にかかった髪が汗で濡れている。それを掻きあげながら、額にキスをした。

「夢見が悪かったか?」

「分かんねえよ。覚えてねえし……夢の内容なんか」

 その口調に、ナルトが嘘を付いていると本能で感じたシカマルは、内心不機嫌になりながら深い口付けを落とす。

「ん…」

 それに応えるナルトをゆっくりと味わう。そっと目を明けたナルトはシカマルの姿を見て、目を丸くする。

「すぐにオレんとこ…来たの?」

「すぐにお前に会いたかったんだから、埃くさいのは我慢しろよ」

「うん…」

 はにかむ様な笑みを見せるナルトに安心したシカマルは、優しくナルトの髪を撫ぜる。うっとりとしたように目を閉じたナルトに「寝てもいいぜ」と囁いた。シカマルはせめて風呂に入るまでは、眠るなんて考えられない。ナルトのアパートのベッドの横には大きな窓がある。月明かりが照らすナルトの顔に、シカマルがはっと目を凝らした。

 炎の様に赤い瞳。

 これを見た事がある。前に一緒に任務に就いた時だ。それを振り切る様にぎゅっと目を瞑って、もう一度ナルトを見ると、その瞳の色はシカマルのよく知る深い青色。闇を含んだ、濃い青色だ。

「悪りぃな、起しちまってよ」

「全然、悪くなんかねえってばよ。それよか、嬉しいし…」

 目を明けた時に、シカマルの存在を感じられて心底ほっとした。ナルトの心を埋め尽くしていた闇から、救ってくれる優しい存在。

「シャワーだけ浴びてくるから、お前は寝ろよ。話はゆっくり明日にでもしようぜ」

「……うん」

 ナルトはきゅっとシカマルの袖を掴む。シカマルは片眉をあげた。

「なんだよ、今更一人で眠れねえとか言うんじゃねえだろうな?」

「そ、そんなんじゃ…ねえもん」

 むうっとしたナルトにくすりと笑って、もう一度触れるだけのキスを落とす。

「眠れねえなら、大人しく待ってろ」

 寧ろ、構い倒したいのはシカマルの方なのだ。ただ病み上がりの彼に負担を掛ける事はしたくないだけで。抱きしめて眠れるだけでも良い。少しメンタル的に落ち込んで見えるナルトを背に、シカマルは慣れた様に風呂場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっとですね、これはブログで書いたSSの続きです()

もちろん、そっちを読まなくても全然話はわかりますよ。

気になる人は、ブログのカテゴリの「SS」をクリックしてください。

短いお話ですが、序章って感じで読めます。

ちょっとだけ暗い(?)話になるのかなぁ…?

RUIはこうゆう雰囲気が大好きです。

長くなったので、「前編」で切ってみました(>_<)

あれ…?また墓穴掘ってんのかな(汗)