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赤い炎 後編
濡れた髪をタオルでこすりながら、ふと顔を上げる。 月明かりだけが光源である部屋。それでも、ベッドの上で空を見上げているナルトの背中はすぐに目視する事が出来た。 本当に眠れなかったのだろう。シカマルは、ふっと笑いながら彼の名前を呼ぶ。 「ナルト?」 ナルトは振り返らない。まるでシカマルの声が聞こえていないのか、完全に無視された形になった。不思議に思いながら、フローリングの床を歩く。静かな空間に聞こえるのは、シカマルのぺたりぺたりと言う足音だけ。 「ナルト…」 片膝をベッドに乗せて、ナルトの肩に手を乗せようとした瞬間。シカマルは咄嗟に身体を引く。キラリと光った切先。ナルトの手にしている物を見て、シカマルが眉をひそめる。そして、それは今まさに自分を狙った。 「なんの…つもりだよ。ナルト」 ゆっくり振り返った彼は、口元に笑みを乗せている。右手に握ったクナイを見て、またくすりと笑った。まるで無邪気な子供が面白いおもちゃを見つけた様な仕草に見える。 ナルトはシカマルの問いには答えようとはせずに、すぐに態勢を立て直し、シカマルに向かってくる。その動きには迷いはない。的確にシカマルの致命傷を狙う切先に、シカマルはちっと舌打ちをした。ナルトの顔はずっと楽しそうな笑顔を浮かべている。そして、蒼白な顔色に映えるのは赤い瞳。
(…また、この瞳?)
シカマルは印を結ぶ暇もない。影で縛ってナルトの動きを封じ込めるのが得策だと思うのに、隙を見せたら一瞬、その殺気にやられる事を本能で感じる。 「ふざけんなっ!」 手にしているのはタオルだけで、それをナルトに投げつけた。最初は不意を突かれたが、今は違う。シカマルがナルトの視界を奪った瞬間に印を結んだ。だが、それが途中で止まる。 ナルトはばさりとタオルを床に投げつけると、感情のない瞳でシカマルを見つめた。そして、シカマルに向けていたはずのクナイを自分に向けた。シカマルは驚いて目を見開くと、無意識にナルトの腕をかばう様に身体を向けていた。 「やっと…捕まえた……」 ナルトの手にしたクナイが、シカマルの腕にぐっさりと突き刺さる。ぐいっと力を入れられて、刃先が肉にめり込む。傷口から溢れた鮮血が、ナルトの顔を赤く染めた。 「くっ…」 クナイをシカマルから抜きとったナルトが、刃先に滴る赤い液体を舌で舐めとる。その赤い舌と、顔中血で濡れた肌色にぞっとしたものを感じた。なのに、視線を逸らす事はできない。 シカマルは膝を付きながら、ナルトを見上げる。ナルトが近付いてきて、同じように膝を折る。細い腕がシカマルの肩に掛けられた。シカマルを見てにっこりと笑ったナルトが幸せそうな表情を浮かべる。シカマルは迷いのある感情でナルトを見つめるしか出来ない。だけれど、傷ついた腕でナルトの身体を掻き抱く。 「何度も同じ手に引っ掛かるかよ、バカ野郎…」 シカマルの項でぴたりとクナイが止まる。 「影…か」 視線だけを合わせた二人は、口元に笑みを乗せる。 「ご名答。よく知ってんだろ?俺が影を使うってことは…」 ナルトは何が可笑しいのかくすくすと笑い始めた。目尻から流れた透明な雫が頬を伝い、シカマルの血と混ざる。 「何度でも、殺しにきてやる」 歪んだ赤い瞳がきつい閃光を放ったような気がする。睨みつけられて、すうっと感情が冷めて行く。 「いつでも来いよ。相手になってやるからな」 シカマルは拳に力を入れると、ナルトの鳩尾を突いた。かちゃりと鈍い音を立てて床に落ちたクナイ。くったりと意識を失った身体が、シカマルに倒れこんでくる。冷たいと感じる身体をぎゅっと抱きしめて、横たわらせた。落ちているタオルで腕の傷をきつく縛る。鋭い刃で切られた分、出血量がある。傷は多少深いが、致命傷をやられた訳ではない。ナルトの頬を指先で辿ると、ぬるりとした血液の感触。シカマルはぎゅっと手を握り締めると、乱暴にその血を拭う。ナルトの肌に付着した血液が毒々しいものに思えて、早くきれいにしてやりたかった。 傷口に止血薬を当てて、乱暴に包帯を巻きつけた。自分の身体に付着した血液は、汚れてしまったタオルで拭った。そこでまんじりともしなかったナルトが、もぞりと動く。 げほげほと咳込みながらゆっくりと起き上がった身体が、じっと自分の手を見つめて固まった。きょろきょろとしてシカマルの姿を見つけた顔がほっとしたような表情を見せる。 「シカマ…」 ナルトも暗闇に目が慣れてきたのだろう。近寄って来たシカマルの腕に白い包帯が巻かれている事に眉をひそめる。そして、その包帯がすぐに赤く染まった事にも。 「シカマル…任務で怪我とか、してねえよな……?」 「少し、黙ってろ…」 濡れたタオルが顔に当てられた。優しく何かを拭きとって行くその動作にナルトが黙る。そして、真っ赤に染まっている自分の手をじっと見つめた。 「これって、シカマルの…」 「黙ってろって…」 「シカマルの、血なのか?」 ナルトの視界に入った、血に濡れたクナイ。それで全てを理解したナルトの瞳から、ぽろぽろと涙が零れる。シカマルはその涙も一緒にタオルで拭った。顔を奇麗にしてやると、指先にこびり付いた汚れも取ろうとするが、上手くいかない。爪の間に入った血液はもう固まっていた。 「……教えてくれってば、オレは」 「…ナルト」 「オレは…シカマルを……」 涙に飲み込まれた言葉の続き。苦しそうに嗚咽を漏らす身体を抱き寄せた。震えの止まらない身体はシカマルに身を寄せて、涙を流す。 シカマルはふうっと息を吐いた。何も確かな事が分からない。だから、ナルトに説明する事すら見つからない。これが現状だ。 「お前、痩せたな」 抱き寄せた身体が随分と細い。シカマルが前に彼を抱いた頃に比べてだが、確実にウエイトが落ちているはずだ。 「まずは、お前の話を聞かせろ……落ち着いてからでいいからよ」 胸に顔を埋めるナルトがこくりと頷いた。シカマルはようやくほっとした気持ちになって、ナルトの髪にキスを落とす。 なにかしら自分も見落としている事が、あるのかもしれない。それに、チョウジやキバが揃ってナルトの様子が可笑しいと言っていた事も関係あるだろう。 それに、ナルトのきつい瞳が赤い光を放って居たことも気にかかる。そう、自分はどこかでナルトの異変を知っていたはずだ。知っていて知らないふりをした。シカマルは後悔の念を振り切る様に、ナルトを抱く腕に力を込めた。
汚れたパジャマを着替えさせて、シカマルは随分と落ち着いたナルトを抱きしめたままでいる。じっと押し黙った彼は、シカマルの胸に頬を預けながらぼうっとしていた。 「声が…聞こえた」 ぽつりと暗闇に攫われてしまいそうな声が聞こえた。 「ああ…」 ナルトの発する言葉に意識を集中させる。指は柔らかい金色の髪をすく。 「心の中の…ずっと深いとこから、聞こえんだってばよ。意味が分かんねえ言葉…最初はなんも分かんなかった」
――――― 赤い鮮血が、感覚を狂わせる。
肉を切る刃先の感覚が指先に伝わる度に、吐き気がこみ上げた。その赤い色に惹きつけられている自分に嫌気がさした。自分の中にいる何かが、確実に意識を侵食する感覚。脳髄に響く声は、時に酷く甘く誘惑する睦言のようで、意識がふっ…と飛んでしまう事が度々あったことも。もう一人の自分はこの身体が朽ちる事を望んでいるのではない。この身体を支配しようとしていると気が付いたのは、前の任務で深手を負った時だ。 「九尾…なのか?」 「分かんねえって…そうかもしれねえし、違うかも。オレ自身かもしんねえ…」 この世界に絶望する事は何度もあった。任務をこなす度に、誰かを傷つける度に、残酷な現実をナルトに叩きつけた。葛藤を繰り返す心の中で生まれたものは、きっともう一人の自分でもある。 ナルトはそこで顔を上げる。自分を覗きこむように見つめていたシカマルの瞳を確認して、悲しそうに瞳を潤ませる。それは、シカマルの知っている青い瞳。 「オレはシカマルを、傷つけた」 「正確に言うと、俺を殺そうとしてたな」 その言葉にナルトの身体がびくりと震える。 「お前の瞳が赤くなってた。俺がそれを見たのは、二度目だ……」 ナルトの身体をぎゅっと抱き寄せる。それで、この細い身体の震えが止まればいいのに、そう思いながら。 「この世界に、誰かが決めた正義なんて存在しねえよ。自分が信じたものが、正義になる。お前は造られた秩序に何かしら迷いを感じてたのは知ってる……知ってた。それでも、俺たちゃ忍だから時には感情を押し殺さなけりゃやってけねえって事も、分かってる」
――――― 誰も傷つかない世界は、存在しない。
時には苦汁を飲み込み、感情を殺し。手にこびり付いた赤黒い染みを、洗い流し。そして、また……明日を見つめるしかない。 「お前が、妖狐の衣をまとう時、瞳が真っ赤になってたのは知ってる。だから、九尾の仕業かとも思ったんだけどな…」 「シカマル…オレが、オレじゃなくなったら」 「それ以上言うなよ」 「頼むってばよ。オレを、殺して欲しい…頼めるのはシカマルしか居ねえし、オレはシカマルに……」 「言うなって言っただろうが…」 柔らかい唇を求めて、シカマルがそっとナルトの顎に手を掛ける。頬を伝った新しい雫を舌で舐めとった。生温かい涙が止まる様に、そっとキスを交わす。甘い唇はシカマルを容易く酔わせた。 「俺の存在が…お前のストッパーになれるか?」 ナルトの中のもう一人の彼は、自分の存在が邪魔だと思っている。そして、ナルト自身の手でシカマルを殺す事で、ナルトの意識を乗っ取れると思っている。
この世界に絶望しているなら、それを救える様な存在になりたい。ナルトの心の休まる場所で居たい。この感情は、終わりの見えない迷路のようにぐるぐると回って出口を探す。それは、一生見つからないかもしれないし、今すぐにでも見つかるかもしれない。
「寒いか?」 ナルトは首を振る。 「震えてんぞ…?」 やっぱりナルトは首を振った。 「怖い…だけだってばよ」 九尾に心を支配されると、どうしようもない破壊衝動が心に満ちてくる。全てを壊して、全てを傷つけて、そして自分も朽ちてしまいたい感情に襲われる。 それでも、今自分を抱いてくれるこの腕を失くしたくないと心から願ってしまうから。自分はどこまでも弱くなれる。それと反対に、どこまでも強くなれる。 彼を守る為ならば、どんな言い訳も口にしない。もう、迷わない。 「お前は、九尾の力で傷はすぐ塞がるって言うけどな……それでも、傷ついて痛いのは変わらねえだろ?俺はお前が傷つくのを見てられねえよ。身体も、心も…な」 「シカマル…」 「物理的に無理だって分かってても、そう思っちまうんだよ」 ナルトが自分の名前を呼ぶ度に、感情が満たされていく。心に響くなにかが、身体を震わせる。 「シカマル、好きだってばよ」 首に両腕を絡めて、シカマルの身体を抱き寄せる。感じている伝わるこの温もりを手放す事は出来ない。
赤い炎が、心の中に灯る。 闇を明るく照らす、 ――――― 名前の存在しない、感覚と共に。
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元々、特に意味のない話でした。
そして謎が謎のまま終わる……?
あれ、またどこかへ続くの?分かんないです(笑)
ナルトの瞳が赤くなるのは、何かに支配されてる時ですね〜多分。
意味ないし。それだけは変わらないわ…
タイトルとかけただけだし(汗)
あと、信念みたいなもの?かな。すんません。変なお話で。
でも、これもシカナル♪