名入れタオル

 

 

 

ハピバ!!2

 

 

「お前、割と大胆だな」

 次に執務室にやって来たシカマルは、呆れ顔で呟いた。せっかくネジが休みをくれると言うのだからと思い、必死になって仕事している途中だったのだが。

「……シカマル、ネジから何か聞いた?」

「聞かされたっつー方が正しいかもな」

「怒ってたってばよ、ネジ」

「お前が考えてる以上には………そんな事ねえんじゃねえの?」

 机の上に伏せられていた紙を取ったシカマルが、押し黙ってそれに目を通す。ナルトはネジの時とは違う緊張が走るのを感じた。さっとではなく、ゆっくりとナルトの出した立案書を読んでいるような気がする。

「ネジはさ……」

「休んでいいって言ったんだろ?」

 言葉の続きを持っていかれたナルトは、シカマルを見上げて頷く。

「これ、全部上げないとダメだけど…」

 ネジに厳選された議題の束。悪戦苦闘しているのだけれども。

「あいつが選考したんなら間違いねえだろ」

「…多分」

 ここまで上がってくる案件については、ネジもシカマルも同様に把握している。その中でも重要度の高いものをネジが選んだのだろう。

「ンで?…終わりそうか?」

「……多分、日付変わるまでには――」

 希望を込めての言葉だったのだが、ふっとシカマルが笑ったのが分かる。ナルトは一応机上に視線を向けているので、その顔まで見たわけではないのだが。なんとなく…というところ。

 夕飯はシカマルが用意してくれたおにぎりを食べた。なぜか、不思議なくらい誰も来訪してこないしシカマルがせっせと世話を焼いてくれたりする。もしかしたら、ネジはナルトの言い出した事の尻拭いに奔走しているのだろうか?それとも、シカマルに丸投げしたのだろうか。ナルトもネジのせっかくの気遣い(?)を無駄にしたくはない。それに、休みがもらえると言うのも正直に嬉しい。

「シカマルはさ…」

 机の上にコトリと湯呑が置かれた時に、気になっていた事を口にした。

「どう思ったってばよ、オレの考え」

「どうって。ま、お前らしいっつーか……呆れたな。別にサボって休みてえとか考えてんじゃねえ事は分かってたし、何をいきなりってのが素直な感想」

「ネジみたく、怒りたくならなかったってのかよ」

「怒りを通り越して呆れたんだわ」

 ある意味ネジよりもキツイ一言をお見舞いされた気分なのだが、ナルトは笑う事もできず口を歪める。

「……その役目はあいつが引き受けてくれてんだから、俺が余分に頭に血ぃのぼらせてもしょうがねえだろ?」

「ま、まあ…」

 お喋りは目の前の仕事を片した後でたっぷりとすればいい。ナルトは言いたい事を胸の奥にしまうと、火影としての仕事に没頭するために一生懸命になった。

 その間に、執務室を出入りするのはシカマルのみである。とっぷりと暮れた空はもう夜の姿をまとう。カチコチとなる秒針の音も気にならなくなった頃、ナルトはようやく筆を放り投げた。

「やったってばよ〜!!終わったっ!」

 軋む体を両手を上げて伸ばす。背筋から首にかけてがカチコチに固まっているように感じる。休憩も入れずに専念してみたのだが、目に入った時計の針はもうすぐ日にちが変わってしまうような時間。

「ぎりぎりセーフかなぁ…」

 首を回しながら肩を揉んでいると、シカマルが扉から顔を出す。ナルトはにかっと笑う事で、シカマルへの報告へ変えた。肩をすくめてから中へ入ってきたシカマルがナルトの後ろへまわる。どうしたのかと首を捻ろうとしたところで、ふわりと抱きしめられた。

「え…?あの…シカマル?」

 今日初めての恋人として触れる瞬間に顔が熱くなる。どもってしまったのも、その焦りの現れ。公私混同をしないというのがシカマルのポリシーなのか、例え二人っきりで居たとしても“火影”であるナルトに対しては、それなりの態度である。ナルトもそれが不服な訳ではない。オンとオフをしっかり分けているから、こうやって優しくされるとドキドキしてしまうのだけれど。

「お疲れさん。頑張ったな」

「……うん」

 ナルトはこくこくと頷いた。

 自分の休みをもぎ取るために必死になってしまったのだから当たり前のような気がするし、仕事は仕事だからと割り切っている。だから、こんな風に褒められると反対に照れてしまうのだ。

「それと、誕生日おめでとう。ナルト」

 シカマルに指を差されて視線を置時計に向けて、長い針が12の数字を回っている事に初めて気が付く。

「…も、お前は休みなんだろ?誕生日休暇だったっけ」

「―――― ってネジは言ってたけど。どうなんだろ?」

「あいつに限って二言はねえんじゃねえのか?」

「だよな〜。…ネジだし」

 思わず同時に吹き出す。ぎゅっと自分を抱きしめる腕に力が込められて、その暖かさにナルトはほうっとしてしまう。疲れた身体が癒されていくような気がしてしまうのだ。少し顔をずらすと、シカマルの唇が降りてきた。もちろんそれを拒む理由はナルトにはない。だから、そっと瞼を閉じる。

 触れるだけの唇。啄むみたいに数回唇を寄せられて、ナルトは自分から舌を差し出した。すぐに絡められたシカマルの熱に浮かされながら、口づけという行為に酔いしれる。

「オレさ……」

 言いかけたナルトの唇にシカマルの指が当てられた。彼には珍しい気障な仕草だ。だから、きょとんとしたナルトはシカマルを見つめ返してしまった。それに、ナルトの話は最後まで聞いてくれる事の方が多い。こんな風に止められる事は皆無に近い。

「どうしたんだってばよ?」

「寝室に行かねえか?せっかくもぎ取った“誕生日休暇”だろ。執務室に居なくてもいいんじゃねえの?」

「あ…そう言われたらそっか」

 火影の執務室から寝室までの距離は近い。殆どが隣接していると言っていいほどだ。手を引かれたナルトは少しだけ恥ずかしい気持ちになりながら、シカマルの指に自分の指を絡めた。扉を開いて、シカマルの指が電気のスイッチを探した。真っ暗な空間が人口の光に照らされた瞬間に、ナルトは口をぽかんと開ける。

「え?ええっ? な…なんだ、これ……」

 広い部屋が狭いと感じてしまうのは、寝相の悪いナルトの為の大きなベッドがあるからだ。必要最低限の荷物だけが運ばれているのだけれど、どうしてか生活感溢れるごちゃっとした空間になっている。ナルトからしたらそれが反対に心地よいのだが、ありがたいことに定期的に掃除もされていた。

 そのベッド脇にはいくつもの包みや箱。

「これって……」

「そりゃ、お前の誕生日だからだろ?お前に気が付かれねえように運び込むのに苦労したっつーの!」

「みんな…から?」

「ああ、サクラもいのも、チョウジにキバ……ヒナタだろ?他にも沢山ある」

「……うん」

 ナルトの声が震えていた。ぎょっとしてナルトの顔を覗き込むと、みるみる内に青い瞳が潤んだ。感動して感極まった……とは少し違う雰囲気を感じたシカマルが、そっと震える肩を抱き寄せる。

「どうしたんだ?」

 ぐずっと鼻をすする音。シカマルは心の中で溜息をつく。

「嬉しいけど……」

「なんだよ、そのケドってのは…素直に喜べばいいんじゃねえの?」

「喜んでるってばよっ!」

 シカマルは子供のように駄々をこねている様に見えるナルトを抱き寄せた。腕の中に抱いて、その身体の震えが止まらないことに眉をひそめる。それから、ナルトを抱き上げるとそのままベッドに移動する。まずは落ち着くまで彼の好きにさせるしかない。

 とんとんと背中を叩きながら、愛しい恋人の髪にキスを落とした。シカマルはベッドヘッドに背を預けながら、足の間にナルトを抱き込むようにして座っている。胸元に蹲ったナルトの顔は上がる事がない。

「どうした? もしかして、さっき話そうとした話の続きか?」

「……ん、かも?」

「そうか。 最後まで聞いてやるんだったな?悪りぃ……」

「シカマルは悪くねえし。 嬉しいし、みんなの気持ちは…」

 よしよしと頭を撫ぜると、自分を見つめていた瞳から新しい雫が零れた。シカマルはそれを舌で掬いながら、頬に唇を寄せる。

「泣くなよ…」

 ナルトの辛そうな表情を見ると、シカマルも胸が痛い。

「………オレの誕生日は ――――――― 生まれた日は… 」

 言葉を切ったナルトがふうっと長い息を吐く。

「木の葉にとって忘れられねえ日だろ?いきなり九尾が現れて、沢山の人が死んだり傷ついたり……」

「ナルト…?」

「思い出したくない忘れたい日だと……思うんだってばよ」

 シカマルは静かにナルトの話に耳を傾けた。

「めでてえ訳ねえのにさ」

「バカナルト」

 ナルトの杞憂は分かる。その辛さとか苦しみも。彼が生まれた日から背負わされた枷はとてもつもなく重たく暗く、とても冷たい感情だとも。それでも、運命にも宿命にも負けないで自分の歩むべき道を作り歩いて来たナルトに敬意を払う事ができる。

「そんな事考えんなって」

「……シカマル」

「お前はどうして根っこの部分がそうも純粋なんだよ。お前の心の奥底にあるモン全部、俺が引き受ける覚悟は当にできてんだっての。バカの癖に、下らねえ事ばっか考えて泣きべそかいてるお前なんてらしくねえんだって。お前を一人にしねえし、お前の涙も笑顔も、永遠に俺のもんなんだぜ?悲しい事も嬉しい事も、痛てーことも……全部、俺のもんだ」

「難しすぎて…分かんねえよ」

「全部の感情、俺が引き受けてやる」

「シカマル……オレ」

「お前が生まれてきてくれて、嬉しい。お前が俺を好きになってくれて嬉しい。お前を好きな自分が…誇らしくも思える。自信なんて持たなくてもいい。でも、俺のモンなんだって自覚はそろそろ持てって。だから、今日って日は俺にとってすげえ特別なんだよ」

 不安そうにシカマルを見上げるナルトに向かって笑みを向ける。

「誰が何と言おうと、お前の生まれた日は俺にとってはすげえ大切なんだっての」

「よく言うってばよ。自分の誕生日なんて全然気にしてねえくせに!」

「そうだな。俺は自分の事より、お前のが大切みてーだわ」

 さらりと言ってのけたシカマルの科白にナルトの頬が真っ赤になる。いつの間にか涙が止まっていて、まだ赤い瞳は変わらないのだけれど少しだけ表情が柔らかくなっている。

「オレ……自分の誕生日なんて、そのシカマル怒るけど……祝いたいとかじゃなくってさ。シカマルを好きになって――――― すごい日なんだって気が付いたから。だから、オレの大切な里の仲間にもすげー幸せな気持ちになってほしくてさ。シカマルが居なかったら、生まれた日なんて何の意味も持ってなかったとオレは思うから。だからさ!」

「分かった」

 ナルトの言いたい事は綺麗事ではなく、率直な気持ちだと感じた。本当に人間の持っている醜さや汚さや醜悪な部分を知っているからこそ持てる優しさ。

「それでも、お前が生まれた日を俺は祝いたい。癪だけど、お前にプレゼントよこした奴らも同じかもしれねえんだけどな」

 不服そうに呟くシカマルにようやくナルトが笑みを見せた。癪だと思いながら、自分へのプレゼントを運んでくれた彼に感謝したい。

「ま、火影であるお前が休みっつー事で、俺も休みなんだぜ?」

「は?…なにそれ」

「煩い日向ネジが言うんだから、本当じゃねえのか?冗談でもなんでもねえだろ。お前が休みイコール俺の休みっつーこと」

 にやりと笑ったシカマルは策士の顔付。ネジとどんなやり取りがあったのかは知らないけれど……

「……でも、う、嬉しい」

「喜んどけ。俺の誕生日休暇があるんなら、お前の生まれた日に使いてえな」

「さ…サンキュだってばよ」

 ようやく心からの笑顔を見せたナルトに、シカマルもほっとする。そして、もう一度気持ちを伝えるために彼の甘い唇を奪った。

 他愛のないやり取り、会話も、視線も、全てを自分のものにしてしまいたい。それくらい了見の狭い自分がナルトの前だけで存在する。どうせ、朝が来ればナルトを祝うために外野が煩いのだ。

 それならば、今と言う瞬間の全部を自分だけのものに変えてしまいたい。

「どんどん欲張りになってくんな……」

 それはシカマルの自分への呟き。

 くったりした身体をベッドに横たえたシカマルは、今夜は寝かせられそうにもないナルトを優しく抱きしめた。

 

 心から、彼が生まれてきた今日と言う日に感謝しながら。

 

 

 

 

  

 

 

 

ここまで読んでくださった方には、前半と後半の話の違いを分かっていただけたかと。

とりあえず、前半はネジ。後半はシカマル担当みたいな?

書き上げたらそんな感じになってまして。

悩んだけど、分割して一気にアップすればいいか!というトコに落ち着きました。

なんか、シカに甘えちゃうナルがシリアスで……てか、シカナル自体がシリアスモードに。

おかしいなぁ。もっとバカなラブ〜な感じ希望だったのですけど。

一応、これでもラブラブです!!恥ずかしいくらいに〜…

なんとなく不完全燃焼感がするのは、シテないからでしょうか?(笑)