家族葬 仏壇

 

 

 

ハピバ!!

 

 

 廊下を颯爽と歩く姿が様になる。いつもまっすぐに前を向き、美しい黒髪が空気に流される立ち姿が一部ファンの福眼となっているのだが、本人には与り知らぬ事でもあるだろう。

 彼、日向ネジが火影の側近としての任に就いたのは、現在の木の葉隠れの里の火影であるうずまきナルトがその任に就いた時からだ。次期の上忍班長の第一候補に挙げられていたはずのネジは、ナルトが火影に就任すると同時に火影の補佐役として傍に就いたのである。火影の補佐役は一人ではない。ナルトと同期の奈良シカマルもその一人だ。

 今日のネジの歩く姿は、不機嫌を露わにした珍しいものである。ネジのポーカーフェイスはシカマルと同様に身についたものであった。その彼が、いかにもという風貌で居るのには訳があるのだろう。ツカツカと早足で歩くその行先は火影の執務室である。だから、すれ違う度に頭を下げる忍たちは心の中で火影であるナルトに同情していた。彼は、部下よりも上司であるナルトに対しての方がストレートに感情表現をしているように見える。遠慮がないと言うかなんと言うか、すっぱりバッサリと伝家の宝刀によってナルトを一刀両断しているのだ………というのが、外部者の見解。

 だが、火影・うずまきナルトは一筋縄ではいかない人間である。ネジからすれば、どうナルトと対峙してよいのかと真剣に頭を悩ませる夜もあるのだが、他人は呑気なもので。そんなネジの眠れぬ夜を理解してはくれない。

 周りの声(ヤジ)を気にしていては、ナルトの側近なんて努められないというのがシカマルの考えで、ネジも思わず賛同した。そして、重たい息を吐いてから右手にある紙をくしゃくしゃにしたい気分を抑え執務室の重厚な扉を軽くノックしたのだった。

 

 

 

ノックと同時に扉が開いて、難解な書類と対決していたナルトは少しだけほっと息をつく。だけれど、入ってきたネジのまとうオーラを目にして、なんだか嫌な予感が走ったのも本当である。

「ネジ……!あ、〜〜…ごくろーさんっ」

 ぴりぴりした空気を本能で感じとったナルトは、労いの言葉を笑顔でかけてみるのだが、反対に瞳の笑っていない笑顔を向けられて背筋がカチンと凍る。その笑顔のままで目の前までやって来たネジはナルトの座る前にある机に、白い紙をバシッと音を立てて置いた。

「……火影様!」

こめかみがピクピクしているが、ナルトはあえてそれを無視することに決めた。気が付かないふりをすれば、余分に気遣う必要もなくなるからだ。こんな狡いことを考えてしまうのは、堅物のお目付け役(もとい補佐役)の前だけなのだけれど。瞳が笑っていないだけではない。声も十分に、ヤバいですモードに入っている。こういった時のネジは非常に厄介なのだ。しかも、今部屋の中には二人きりで自分をフォローしてくれる人物の影すらなかった。

「…ネジ、なに機嫌悪そうなんだってばよ?」

 なるべく、なるべくネジの機嫌をこれ以上損ねないように…とナルトは、にっこりと笑う。

「これはなんですか!これはっ!」

ネジが目の前に差し出した書類を見て、ナルトはうむと唸る。とうとう来るべき時がやって来たという感じ。いつか、この紙切れがネジの目に入り彼の逆鱗に触れるだろう事は、さすがのナルトも少しだけ考えた。少しだけというのが、ナルトらしさなのだが。

「立案書」

「のうのうと言わないでください」

「……稟議書みたいなもん」

 ここは、堂々とした方がいいと勝手に判断したナルトは説明を口にして、チラリとネジを伺った。こめかみがまたピクっとした気がしたが、気の所為だと無視を続ける事に決める。

「わかりますよ。ええ、わかりますとも。最終的に決定権のあるあなたが、どうしてこのような議題について稟議書をまわすか、私には不明だと言いたいのですが?」

冷静な声色の奥に見えるネジの本音は「ふざけんな」と言ったところだろうか?

ナルトとしては真剣に考え、それなりに書類の書き方なども勉強して筆を取ったのだがネジの青筋は治まるようには見えなかった。

別に、自分が法律だとまでは思っていない。自分の意見を無理矢理にでも突き通そうなんて考えてもいない。だけれど、自分が火影だからと言って一個人として感じた事や考えをなかった事にするのも嫌だったのだ。

「なんてーか……オレだけの意向で決めるのもな〜って。なら、オレの意見をちゃんとみんなに知ってもらって、決めたほうがいいじゃん?」

ネジが口から発するのは重い重い、重たいため息。

それはナルトに対する精一杯の嫌味だ。

「あなたは、忍という仕事をよく知っていると思うのですが?」

丁寧な口調は崩さないままなのだが、声は真剣に怒りをはらんでいる。爆発寸前の風船みたいだ。ナルトは、きっと自分の失言が彼の怒りを買い、小さな針となってその風船を破裂させてしまうのではないかと、内心ひやひやする。

自分の気持ちを人に伝えるのは難しい。言葉のひとつでも、人によっては取り方も感じ方も違うもの。それは個性として好ましいものだと思う。だけれど、やっぱり理解してもらえないのは悲しかったりもする。意見に同意して欲しいとまでは思っていない。だた、理解はしてほしかった。

「え〜っと……」

ネジの持っている紙きれをナルトが見つめる。不思議なことに、ほとんどの役職につくものが印を押しているではないか。それにはナルトも驚きだ。誰も彼もネジと同じで、あきれ顔で却下されると思っていた。それでも、最終的にナルトの前にやってくるはずのその書類には足りない印が二つある。

「あ。ネジとシカマルの印はねえってばよ」

「シカマルの前に、俺のところへ来た!」

 ナルトはどの順番でネジの目に触れることが良かったのか真剣に迷う。シカマルが先にこれを見た場合、彼はどうしただろう。それでも、これは意見の一つである。それだけはネジにも分かってほしい。

「いいじゃん、誕生日休暇」

しれっと口にしてまったナルトは、とうとうネジの逆鱗に触れた事を察知する。

プチン、と言う音がマジで聞こえた気がしたのだ。見てわかるネジの機嫌の急降下に、ナルトが肩をすくませる。きっと、怒鳴られて一喝されてしまうのだろう。

「任務の報酬をもらって仕事をしているのに、誕生日だからってそれを放り出すと?

それで、あなたはいいと思っているんですか? 火影様?」

「違うって!オレは火影としてでなくって、これは…木の葉の忍としての意見だってば!」

 

誕生日。

1年の中のたった1日。

毎年訪れる、他愛のない1日。

だけれど、それを特別に感じることができるようになった。

 

「べ…別に、全員がどうこうとかじゃなくってさ。交代制とかでもいいし、なんかいいじゃん!」

ナルトとて、火影である。

破天荒な影の一人なのだが(周知の事実的に)ちゃんと、隠れ里のトップの座としても考えた結果の立案書なのだ。賛同されるなんて、考えてもみなかった。だけれどふざけた訳でもない。ネジの言いたいことは一個人としてではなく、忍としてのものであろう。そして、“影”は忍のトップである者。だから、彼の求めている事も十分に理解できるのだ。

「忍として生きる以上、任務に就き親の死に目に会えない場合とてあるでしょう」

「……うん、それは、分かってる」

 そんな先輩も後輩も仲間も、たくさんの人々の涙を目にしてきた一人として頷く。

「極秘、長期、暗部としての任務。それぞれの役割があり、どうしようもない場合もあるとは考えなかったのですか?」

 忍としての職務は様々であり、一概にまとめてしまえない職である。

「…うん」

分かっている。十分にネジの言うことが正論だということも分かる。

ネジに諭されなくても、ナルトだって分かっているのだ。ナルトはきゅうっと鼻の頭が熱くなるのを感じた。無様にも涙が零れてしまいそうだ。

「ネジには、オレの言いたいことはわかんねえんだな……」

少しさみしくて呟くと、やっぱりと言うか絶妙のタイミングで、またため息が重なった。

「俺としては例外がないとは言えないのではないかと、言いたいのだが?」

 俯いたナルトに聞こえた声は、思っていたものと違う。随分と柔らかさを持った声の雰囲気にびっくりしてしまう。だから、思わず顔を上げてネジを見つめてしまった。

「…え?」

「全く……本当に何を言い出すのかと思えば。少しでも、自分の机の上にある山積みの書類に目を通してもらえないか?俺の意見としては……任意での申出を考慮するようにすればいいと思った。最初は腹も立ったが、火影でないナルトの言いたい事が、全部わからない訳ではないからな」

 苦笑したネジは目を見開いているナルトを見て、くすっと笑う。そして彼は机の上に乱雑に重ねてある書類の束をつかむと、さっさと目を通しながら手際よく分けていく。

そして、ネジによって先行する必要のあると思われる議題だけが、ナルトの前に置かれた。

「せめてこれだけは、済ませてくれないか?」

懇願に近いネジの声が、少しだけ優しい。ナルトが思わず書類に向けた視線を彼に戻すと、口の端を上げて笑うネジが見える。

「全面的に施行という前に、試験的に……と言うことだ。

その明日は―――――、…お前の誕生日だろ?」

「ネジ……?」

「だから、これだけは済ませて……だな…」

照れ隠しのように眉をひそめて視線をそらしたネジは、ナルトの手から立案書を取り上げるとさっと自分の判を押した。ナルトはびっくりして、背中を向けてしまったネジを茫然と見つめる。

それから、くすぐったくて思わず笑ってしまった。スマートそうで不器用な補佐役は、たまにナルトを驚かせる。分からない訳ではないと言われただけでも十分に嬉しい。それは、ネジ個人として自分の意見を前向きに見てくれたと言ってもいいのだろうか。

次に執務室にやってくるのは、もう一人の補佐役兼恋人のシカマルであろう。彼はいったいなんと言うだろうか?ネジのように叱咤されるかもしれない。それとも、もっと呆れられるのだろうか?

ナルトは少しだけワクワクする気持ちを隠しながら、ノックの音がするのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい〜タイトルはいい加減なまま…SSの時のまま引っ張ってきました(笑)

ああ、やっぱりね〜と思ったあなた!ビンゴです。

もともとは1本の話にしてたのですが(^^

ちょっと長いのと、雰囲気の違う事から強制分割してみました。

とりあえず、ナルくん誕生日おめでとうさんですよ(*^_^*)