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爪先3
迎えに来てほしいなんて殊勝な電話をかけてくるからしようがなく待ち合わせ場所に向かっている。その声がいつもより弱々しいような感じがして無意識にため息をついた。何の考えもなしにバイクを転がしているのはいいのだが、彼はこれに乗る元気が残っているのだろうか。だからと言って公共機関が動いている時間ではないし、今のところ自分のアシになるものが家になかった。父親が在宅しているのなら車という手段もあったのだが生憎の所出かけていて借りることが出来なかったのだ。 もやもやする気持ちを心の隅に追いやってシカマルは約束の場所までバイクを走らせる。
俯く姿を確認してバス停にバイクを止める。 「ナルト」 声をかけて、元気がないなと思った。俯いていた視線がシカマルに移った瞬間に少しだけナルトの口角が上がる。 「こんな時間に迎えにこいとかふざけてんじゃねえぞ」 言葉にするように怒りは感じて居ないのだが、なんだか重たい空気を払拭したくて軽口を叩いた。 「ゴメン」 手を顔の前で合わせたナルトがニカっと笑う。ナルトの家には何人もの門弟達が住み込みで修行している。連絡すれば自宅へのアシなんてどうにもなりそうなものなのに、そうしないナルトに何かしら問題があるのだろう。また余分がモノを拾って身動きができないでいるのかと心配したのだが、シカマルの目から見てもそうは思えない。少しだけホッとした。動けない彼を括り付けてバイクの後ろに乗せるなんて無理なのだから。一応は応急処置ができるくらいの準備はウエストポーチに忍ばせてきているがそれも必要がないようだ。 「とりあえず乗れよ」 ナルトは無言で頷くとシカマルからメットを受け取り後部に跨る。その腕がシカマルの腰に回される。小さな声でありがとうと言われたような気がしたが、シカマルは来たときの勢いのまま発進して帰宅することに決める。何があったのかは知らないし、ナルトも話たくないかもしれない。それはそれでいいし、単純に自分を頼ってくれたのだからヨシとする事にした。
帰宅した息子とナルトを迎えたヨシノは、そのまま部屋に向かおうとするシカマルに湯気の出るカップを無理やり渡した。いつものように特に何をするではなくベッドの前に座り込んでいるナルトにそれを渡す。 「ココアだってばよ」 自然の笑みが浮かんで嬉しそうにカップに口をつけている。 「酔い醒ましに効くかどうかわかんねえけど、まいいんじゃねえの」 「ちょっとだけ飲んだだけだってばよ。チューハイ」 酒に強くない事は知っている。会話ができるくらいだから少しと言うのも強ち嘘ではないのかもしれない。シカマルにもナルトと同じようにココアが渡されたのだが、彼のカップの中のように砂糖は入れられてなかった。それだけが救いなのだが、あまり好きでない飲み物であることも確かである。ウエストポーチをベッドに投げ捨てて無意識のため息をついた。 「いきなり呼び出して悪かったってばよ」 「本気で思ってんのかっての」 「本当だけど……今日は帰りたくなくて」 「ふ〜ん、そか」 沈黙が流れた。ナルトはもじもじしながら、トレーの上にカップを乗せる。唇を尖らせてシカマルをじっと見つめてきた。そんな表情をされても可愛いとしか思えない程、シカマルはナルトに対して末期だ。最初は多分手のかかる弟のような存在。甘えてくるナルトに手がかかりながらも、しょうがねえとどこかで腹を括っていた。お偉いさんの息子だというのはシカマルにもわかっていたし、大人の事情を度外視してもナルトという存在が気にかかっていた。正直、最初の頃はナルトに封印されているモノの調伏の手伝いを自分が行わなければけないということにプレッシャーがなかった訳ではない。ただ、それ以外の接触は殆どなく頻繁にお互いの意思で会うようになったのは高校へ上がったくらいだったと思う。 ナルトを思う気持ちが恋愛感情だと気が付いたのはいつだったのか。シカマルにも確固とした自信がない。今となっては相手を思う気持ちがあることが前提で、彼に会っているだ。 「なあ、どうしてって聞かねえの?」 どうせくだらないことだろ?聞かなくてもなんとなくの想像がつく。庇護される事が当たり前に暮らしている彼はどこかまだ子供っぽい。 「別に泊まってけばいいし」 父親とケンカしたとか、嫌な事があったとか、きっと他愛のない理由じぇねえの?口にしようとして言葉を飲み込む。それを察知したのかナルトが口を開いた。 「今朝、父ちゃんとケンカしてさ」 シカマルはくすりと笑う。 「そんな理由で人の寝込み襲ってんじゃねえぞ」 「悪るかったってばよ」 思い出したら急に睡魔が襲ってきそうになる。寝込みというのは嘘ではない。提出ぎりぎりのレポートと格闘して、ようやく眠れるとベッドに入ってすぐにナルトからの電話があったのだ。 「父ちゃんがシカマルに迷惑かけるなって言うから」 シカマルの眠けが一気に吹っ飛んだ。話の中心に自分がいるとは思ってもみなかった。 「俺は迷惑だなんて思っちゃいねえからいいだろ」 「……父ちゃんはオレがいっつもシカマルに除霊頼んでんの知ってるから」 ナルトが雑霊をため込んでやってくるのはいつもの事だ。大抵自分でどうにも出来なくなって泣きついてくる。最初はどうにか出来る内に自分でどうにかしろと真剣に思った。それくらいの技量があるのだし、いつもいつもギリギリで倒れる寸前みたいにしてフラフラしているのに腹が立ったものだ。 「親父さんに頼みたくねえってのが気に入らねえんだろ。たまには親父さんに甘えてやれよ」 「違うってばよ。シカマルに甘えてんのが気に入らねえんだって」 「言ってる事同じじゃん」 「違うって」 「悪りぃ、めちゃ眠たくなってきたわ。お前自分で布団運べよ」 ナルトの呑気な話を聞いていたら、一瞬吹き飛んだはずの眠気が急に襲ってきた。ナルトを迎えに行くまでの緊張感がプツリとキレてしまった。ベッドに深く意識が落ちていきながら、掛布団から太陽の匂いがした。母親が干してくれたんだなんて思いながら、フッと意識が沈んだ。 「シカマル?」 体をゆすってみるだがシカマルは起きそうにない。 「シカマル」 シカマルの指先にそっと触れた。ナルトの中に急に切ない気持ちが湧き上がる。きゅっと握ってみると反射なのか、反対にナルトの指がシカマルに握り返される。 「……ッ」 どきりと鳴る心臓。鼓動がどんどん早くなる。これは醒めてないアルコールの所為ではない。月に一度会うだけの存在だった。だけれどそれだけでは足りなくなったのはいつだっただろう。友達になりたいなんて思った事はない。いつかしら、シカマルの一番になりたくなってしまった。下らないわがままも変なトコで頑固な自分の性格も、しょうがないと最後まで付き合ってくれるシカマルの事が好きになってしまった。 「好きなんだって……」 シカマルは規則的な寝息を立てながらナルトに背中を向けた。本当に疲れているのだと、もう一度心の中で謝る。それでも自分を迎えに来てくれた彼の行動が嬉しい。心のどこかで何かを期待してしまう自分がいる。ナルトはそっとベッドの空いたスペースに額を乗せる。 シカマルの匂いを吸い込んで目を閉じた。
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2015/06/05