SEO

 

 

 

桜雨

 

 

 怪しかった空から降り出した雨。

 予報通りに泣き出した灰色の雲にナルトは溜息をつきながら、ビニール傘を広げた。左手にはコンビニのビニール袋、右手にはビニール傘。

 てくてくと歩く道にはもう水たまりができつつある。少しずつ強くなる雨脚にナルトの歩調もだんだんと早くなっていった。

「あ…!」

 そして、顔を上げて思わず声を上げる。遠くからぶらぶら歩いてくる風体は、見間違えるはずもないシカマルだ。彼は雨に濡れながらも急ぐ訳でもなく、いつものようにゆったりと歩いている。

 思わず立ち止まったナルトに気が付いたのか、近づいてくる彼がゆったりと右手を上げた。ナルトはハッとしてシカマルに駆け寄ると、ビニール傘の中に彼を入れる。

「シカマル、すっげー濡れてんじゃん!」

「別に春の雨だぜ?冷たくもねえし、今日は気温もあるから大したことねえって…」

 慌てたナルトにくすりとわらったシカマル。呑気な彼にナルトは唇を歪めた。

「風邪ひくってばよ」

「そんなにヤワにできてねえよ」

「……心配してんだって!」

「そりゃ悪りぃな。サンキュ」

「…うん」

 非番であるナルトは軽装である。それに比べ木の葉のベストを着ているシカマルは任務だったのだろう。

「帰り?」

「ああ、任務明け」

「シカマル、濡れてるし……オレんちで風呂でも入ってけばいいってばよ」

 思わずシカマルのベストの裾を握ったナルトは、ちろっと彼をを見上げる。シカマルは小首を傾げながらも、自分を伺ってくるナルトに頬を緩ませた。

「そーだな。ま、その前に花見でもしようや」

「……花見?」

 シカマルは人差し指を天に向ける。それにつられるようにナルトの視線も上がった。

「ホントだ」

 ナルトはそこで初めて自分が桜並木を歩いている事に気が付いた。家路を急ぐあまり辺りの景色が目に入ってなかったのだ。雨に打たれた花びらが道端に散っている。そして、透明のビニール傘にも花びらが張り付いていた。

「盛りは終わってるけどな」

 満開を迎えた桜の花は雨に打たれてその花弁を散らしている。花よりも新緑の方が目に鮮やかなほどであり、花見と言っていいのか迷うのだが。

「今年はまともに花見もできなかったなぁ…」

 ナルトは無意識に呟いた。なんだか忙しかったような毎日。

「ん〜…それも違うかも」

「ん?」

 一人で納得したように話すナルトは、何かを思い出すようにふっと笑った。

「そんな暇なかったくれーに思ったんだけどさ。それってば、違うかなって」

「いきなりどうしたんだ?」

「今だってさ、見ようと思えば見れる訳じゃん。それって今日まで何回もあった事なんだと思うんだってばよ。オレが見えてるのに、見てなかった桜なのかなとか……」

「お前って時々難しいコト考えてんよな?」

 シカマルはナルトの濡れていない肩を抱き寄せた。小さなビニール傘に大人が二人並んで入るのには無理がある。自分はすでに濡れてしまっているので構わないのだが、ナルトまで濡らしてしまうのは嫌だった。

「シカマルが濡れるってばよ!」

「俺は最初から濡れてんだって」

「んじゃ、今からは濡れなくてもいいって事で」

「よくわかんねーの」

 寄り添っても小さすぎるこの空間では二人が濡れないでいる事は難しい。寄り添うのではなく抱き合えばそれも可能なのだろうか。そんな事を考えた瞬間にナルトの温もりが急に懐かしくなる。懐かしむ程彼と離れていただろうか?否、それは違う。いつでもナルトの体温を感じていたいというのが本心。

 触れる肩に縮まる二人の距離がなんとなく嬉しい。

「シカマル、なんかにやにやしてるってばよ?」

 機嫌良さそうに歩くシカマルを見上げたナルトは首を捻った。視線だけをナルトに向けたシカマルはにやりと口元に笑みを浮かべる。

「思わず顔にでちまったな」

「なにが?」

「お前と一緒だから、浮かれてんだろ?俺が」

「……シカマル、が?」

 瞬時に真っ赤になったナルトの頬と見開かれた青い瞳。

「なんだよ、そんなにおかしい事か?」

「正直、似合わねえ言葉だなって……」

 そんな事を言われて頬が緩むのはナルトも同じだった。

「オレも嬉しいし、浮かれてるかもしれねえってばよ」

 訳もなく二人で吹き出して家路を急ぐ。きっと、この瞬間からお互いの気持ちは重なっていたのかもしれない。言葉にしないだけで、心の奥の方で欲してる相手の存在があって満たされていく。

 

 

 

 何かに急かされるように家路を急ぐシカマルとナルトは、扉の鍵を閉めて三和土で抱き合う。合図も必要ない熱い抱擁と口づけ。吐息が溶けて、舌が絡まり、身体の熱がたまっていく。

「…んっ…あ…」

 時折漏れるナルトの声にも甘い響きが交じっていた。ナルトを抱くシカマルの腕も、彼の温もりを感じたい欲求を我慢できずに乱暴に身体をかき抱く。

 衝動的な何かが存在していた。

 それに理由も意味も必要としていない。なによりも手にしたいのは、感じたいのはきっとお互いの熱さだけなのだと思う。シカマルの手のひらが背中を愛撫するように背筋をなぞる。ぴくりと反応したナルトの手からビニール袋がぱさりと落ちた。

「シカマ…も、無理っ……」

「ンなの俺も一緒に決まってんだろ?我慢できねえ」

 濡れて冷えた身体も、洋服も。全てが邪魔でしかない。二人を隔てている薄い肌の薄皮だって交わるには邪魔だと思えてしまう事もある。全てが溶けてしまう瞬間には、呼吸することすら忘れてしまうくらいに互いの存在だけに魅入られるのだ。

 シカマルは我慢できないという言葉通りにナルトを抱えると、奥の部屋へと移動した。本当は場所など構わずにナルトを抱きたい。きっとそうしても彼も怒る事はないだろう。だけれど、頭の隅っこで働いた理性がそれを抑制する。どうせなら、ゆっくりとできる場所でナルトを味わいたい。

 何度も何度も、離さないで……ずっと彼とつながっていたい。それならば、落ち着ける場所(ナルトの家なのでベッド)へ移動するのが今後の事も含め都合がいい。

 優しくナルトをベッドに寝かせると、彼の口からはあっと息が漏れた。潤んだ瞳で見つめられて、シカマルが眉を上げる。

「どうした?」

「…シカマル」

 名前を呼ぶナルトの舌足らずな口調が愛しく感じた。

「も……無理って言ったじゃん」

「だから、俺も我慢できねえって言ってんだろうが」

「……ウン」

 コツンと額を合わせる。鼻先が触れて唇も触れる。重なる唇の間から紅い舌が自然と絡まる。ナルトの腕がシカマルの首に回って、ぐいっと彼の身体を引き寄せた。ぎゅうぎゅうと抱きついてくるナルトの息遣いが耳元に聞こえる。

「シカマル……抱いて欲しいって……言ったら、オレんこと軽蔑する?」

 消えそうな声なのにはっきりと聞こえる。シカマルもナルトの耳朶を唇に挟みながら、彼の欲求に答える。抱きたくてしょうがない。めちゃくちゃにしたいような激情の中でも、ナルトを大切に扱いたい気持ちもあっって、はけ口のない感情が暴走しそうで暴れている。

「なんでだよ、ンな事ねえし。反対に軽蔑されんの……俺の方じゃねえの」

「どうして?」

「今も、お前の事…めちゃくちゃにしちまいそうでヤバイ」

 こうやって言葉を交わすこの時間も長く感じてしまうほどに。

「……そんな事したら、お前の事壊しちまう」

「―――――― …それでもいいって言ったら?」

「わかんねえな」

 窓の外は雨。

打ち付けるその雨音が鼓膜の奥へ消える。時間が一瞬だけ止まったように感じたのは唇が再び触れたからだろうか。現実のようで夢のようで。不確かで曖昧で、それでいて確かに感じているのは腕の中の温もりと触れる肌の熱さ。

 目を閉じたナルトの首筋にシカマルの唇が落ちた。

「すげ…っ…シカマルに、抱かれてえ……」

 譫言のように口唇から漏れる本音。

「めちゃくちゃでも、壊しても……いいって…てか、オレってばそんなヤワじゃねえから壊れねえし…」

 饒舌なナルトとは反対にシカマルは彼の言葉をしっかりと聞きながらも、指先と唇と舌でナルトを愛撫する。

 何も考えられなくなって、感じるのは快感と歓喜だけでいいと思えてしまう。

 遠くで雷鳴が轟いたような気がした。そんな事を思ったのはほんの一瞬で、二人だけの時間に誘われた。

「あ…っ」

 ナルトの悦い場所にシカマルが触れる度に、身体が跳ねた。丹念に味わいながらも早くつながりたくてしょうがない。シカマルは焦燥に近いような感情を持て余した。こうやってナルトに触れているのに、もっともっと奥へ触れたいと思っている。それは身体の奥なのか、それとももっともっとナルトの深い場所なのだろうか。

 双丘に指を潜り込ませて、汗ばんだ谷間の奥に指先を挿入する。

「ん……あ…っ」

 足りない潤滑にナルトの声色が辛そうに聞こえたシカマルは、指を抜くと自分の舌をそこへあてがった。

「やっ…い、やっ……って、やあっ…あっ……」

 シカマルの息遣いを感じた瞬間に腰を引いたナルトを止める。自分から逃げる事なんて許さない。舌を窄めて後腔の中へ挿れる。きゅっと締まった孔の奥へ一緒に指先も挿れた。唾液が少しずつ中を湿らせて、指を動かすたびにくちくちと音が鳴る。

「だ…め…っ……」

 愛しくてしょうがないナルトの声は、拒絶の言葉を口にしてもそれに艶が交じっていた。抱え上げた内股が引きつっている。指の本数を増やしながら柔らかい肌に赤い花を咲かせる。ちゅっと吸うと面白いように散る花弁に舌を這わせて甘噛みする。

「……シカぁ…」

 ナルトは自分の中で蠢くシカマルの指が快感を掘り出すように動くのを心待ちにしている自分に気が付いた。そして、指ではないシカマル自信を欲している自分を。

「もう…っ!シカマル…無理って言ったのに!」

 生理的に流れた涙。すんと鼻をすすると、シカマルのキスが口唇を塞いだ。

「ん、ん…っ……」

 開いた足の間にシカマルの身体が入り込んで来る。そして、シカマルの指と舌で解された後腔に、熱いものが当てられた。

「は………っ、あっ……」

 早くと、言いかけて唇を噛みしめる。言葉の変わりにシカマルの首に腕を絡めて抱き寄せた。彼の耳元に軽いハグをする。

 熱に浮かされて自分がどうにかなる前に、シカマルの存在を感じたい。全部絡めて、全部交わって溶けて一緒になって浮遊したい。

 ゆっくりと自分の中へ入ってくる、熱い楔。誇示しているかのようにナルトを犯すシカマルに身体の力が自然と抜けた。奥まで時間をかけて進んだシカマルがふっと笑ったような気がした。

 それからの記憶はあやふやでしかない。揺らされて、浮かんで落とされて、焦らされて責められて。どんな浅ましい言葉を口にしたのかも覚えていない。ただ、シカマルの名前を浮かされながら呼んでいた事だけがしっかりと記憶に刻み込まれた。

 何度も何度も。意識がなくなっても、すぐに襲いかかる快感に現実に引き戻された。ナルトにもそれが現実なのかどうかも曖昧だ。夢だとは思えない劣情だけが在ったのは確か。

 浅く沈んだ身体を救われて抱きしめられて、息を落ち着かせる頃には何回絶頂を迎えたのかも分からなくなっていた。

「ナルト…」

 シカマルの声に瞼を開ける。

「シカ…マ…」

 声が枯れている。コホンと咳き込んで、身体を摺り寄せた。

「オレ、寝てた?」

「ちょい違げーかな。イッった後に、少しだけ気ぃ失ってた感じ…」

「……そうなんだ」

 肌の上で汗が乾いている。でも、シカマルが先程まで入っていた場所がじんじんと熱かった。そして彼の放った残滓で中がいっぱいになっているのも感じる。

「…キツかったか?」

 ナルトは緩く首を振る。

「いつもシカマルは優しいってばよ」

 胸元を滑るシカマルの手のひら。まだ快感の残る肌はそんな触れ合いにすら敏感に反応してしまう。

「シャワー浴びてえだろ?」

「なんで?」

 きょとんとしたナルトにシカマルがにやりと笑う。

「い、いい。自分で……するから、ぜってーにいいからっ!」

 シカマルのしようとしている事に気が付いたナルトが頬を真っ赤に染めて頭を振った。結局は、くすくすと笑ったシカマルに風呂場に抱えられて行く事になってしまったのだが、それが問題なのではない。行為の名残を洗い流す為にシカマルの指が再び自分の中を触れるのに問題があるのだ。落ち着きある快感を再び呼び起こされて、キスからまた始まってしまう燻る熱の余韻。

 何度もイカされた揚句に、最後の最後まで精を振り絞られてナルトは心底ぐったりとしてしまう。湯あたりに似た感覚に首筋に冷たい感触。

「あ、……それ、気持ちいい」

 首筋に当てられた冷たいペットボトル。

「気持ちいい?」

 瞬間の既視感。

「うん…気持ちい……」

 何度も口にした言葉で、先程まで絡まっていた事を思い出してナルトは一人で赤面してしまった。蓋を開けられて口元に当てられた飲み口に喉を鳴らす。

 汗を流したさっぱりした肌には何も身に着けていない。シーツに包まりながら、ナルトはシカマルに体重をかける。伝わってくる彼の温もりと鼓動が、疲れた身体を眠りに誘おうとしていた。

「…雨、まだ降ってる」

「そーだな」

 ベッドから見える窓には、打ち付ける雨粒。本格的に降り始めた春の雨はやみそうにない。それを理由にしてこうやって部屋にこもっているのもいいものだと思えてしまくらいには。

「穀雨ってな…春の雨は穀物や植物の助ける春の雨って言うんだぜ?」

「へえ、聞いた事ねえってばよ」

「ウチが色々古りぃんだよ。二十四節季とか」

「う〜〜っ……難しい事ばっか言ってるってばよ」

 それでも、シカマルの話を聞くのは好きだ。季節に関する習わしや、古くから大切にしているしきたりを教えてくれる。ナルトには無縁なものばかりだから、聞いていても退屈することもない。

「春の雨は全てを潤す雨だって母ちゃんが言ってたっけ?」

「えっと、二十四…ナントカのコクウの次はなんだってばよ」

 シカマルの指先がナルトの金糸を絡めて遊びだす。

「ん?次は立夏…夏の始まりだな。その前に八十八夜があんだ。新茶の季節だろ。母ちゃんからなんか聞いてねえか?」

 奈良家で飲んでいる茶葉を分けてもらっているナルトは、ヨシノが新茶の話をしていた事を思い出す。たまには遊びに来いというニュアンスでお茶に誘われていた。

「聞いてる」

 ふふっと笑ってシカマルの鎖骨に頬を寄せる。体中で感じるシカマルの存在が嬉しい。

 春の雨はナルトにとってシカマルの存在と同じだ。自分を潤してくれる大切なもの。夏が始まろうとする春の終わりに降る雨。豊穣を願う四季の贈り物。

「シカマル、来年は葉っぱが出てくる前に花見するってばよ。できたら一緒がいい」

「ンな余裕な生活してるか疑問だな」

「それでもさ、約束するのはタダじゃん」

 花が散り緑が眩しくなる桜の木を見ても、それが散り雪に映る樹木を見ても、蕾がふくらみ花が咲くのはまだかと待つ日々も。全てがシカマルと一緒に居ようと言う約束を思い出させてくれる。

「……そうだな、約束すんのはタダだな」

 それでも、その約束を果たしたいと思っている。

「ちょっと寝ようぜ?」

 体力は使い尽くした感じだ。心地よい倦怠感を疲労と呼んでもいいのだろうか。

「起きたらなんか食って……」

「ん…、そうだな…」

 寄り添う体温が心地よくて、指を絡めて瞳を閉じる。

 すぐに呼吸が安らかなものにかわり、二人で夢の中へ落ちた。

 

 桜の花びらも雨粒と一緒に地へ降り注ぐ。さながら、雨のように…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花見関係ないとか…分かってます。

今年は出来なかったので、来年こそは花見してくれ!って感じで。

花見できなくて残念だったねって話です(笑)

それにプラスがあって、そっちのが割合多くなってんのは謎。

ちょうど穀雨の頃にアップできる予定だったんですが、……ねえ。

いつものことながら悲しいくらい季節感無視です。

とにかくシカとナルがラブラブしてりゃいいんです(*^_^*)