キス

 

 

 玄関にカギを投げ捨てるように置いた。

「あれ?」

 今まで気が付かなかったのだが、そこには見慣れたシカマルの煙草が新しいパッケージのまま置かれていた。安物のライターと一緒に無造作に。

「シカマルの奴、忘れてったんだ」

 数日前に任務前に彼はアパートへ寄ってくれた。長期とまではいかないが早くも帰れないと珍しく零していたのを覚えている。その時のキスを思い出してナルトは一人で赤面してしまう。抱きしめられて何度も唇を交わした。それだけでは足りなくなってしまう欲張りなナルトにニヤリと笑ったシカマルの艶っぽい笑みが脳裏に過ぎる。ナルトはツンと煙草をつついた。

「早く帰って来ねえかな」

 思わず気持ちを言葉にしてしまう。そしてすぐに失敗したなと思ってしまった。思っているよりも言葉にする方がクルものがある。
 仕事なんだからしょうがないし、反対に任務で自分も里を空ける事なんてしょっちゅうだ。お互いに理解しているからこそ口にはしないし約束も出来ない。なのに、ほんの些細な本音が口をついただけで無性にシカマルに会いたくなってしまった。だから失敗。
 彼のくれる温もりや熱を思い出して寂しくなってしまった。ふうっとため息をついた瞬間、閉じたはずの扉が勢いよく開く。

「えっ?」

 ナルトは驚いであんぐりと口を開ける。今の今まで考えていた恋人が姿を現すなんて思ってもみなかった。

「お」

「なんで?早く帰れないって……」

 目の前に現れた恋人に思わず疑問をぶつける。それよりも先にいう言葉があるのかもしれないが、玄関先で感傷に浸っていたナルトからすれば自分の願望が具現化された気分になって慌ててしまっていた。そこでふわりと抱きしめられる。

「ただいま」

「お、おかえ…」

 ナルトの言葉の続きはシカマルの唇によって奪われる。触れるだけだった唇。何かを言いかけて口を開いたシカマルに貪るように自分の唇をぶつけた。舌を絡めとって先ほど自分がされたように彼の言葉の続きを奪う。シカマルは抱きしめる腕に力を込めてぎゅっと抱きしめてくれた。離れていたのは数日だ。もっと会えなかった事なんて何度もある。歯列を舌先で愛撫され上唇も下唇も同じように吸われる。

「…ンッ」

 ナルトの腕はシカマルの首に回されシカマルがしてくれるようにギュッと抱き着いた。二人の隙間がなくなるくらいに抱きしめあいながら唇を味わう。こんな事で離れていた時間が埋まるわけではないけれど、そうなればいいと思いながらキスに没頭する。

「あ…シカマル……う…ん」

「どした?」

 唇が離れてコツンと額が合わされる。間近で見上げて心なしか頬が熱くなるのを感じた。いつもなら、おかえりの挨拶をしてダイニングでお茶でも楽しんでいるはずだ。話せる範囲で任務の話をしたり。他愛のない会話を楽しんでいる。

「なんかいつもと味が違う」

「は?」

 シカマルは何を言われたのか分からないのか小首を傾げた。キスを中断された理由としてはあんまりだ。ナルトは顔をシカマルの肩口に埋めてスンと匂いを嗅ぐ。

「やっぱ違うってばよ。シカマルじゃないみてー」

 シカマルは合点がいったというように噴き出した。

「味や匂いが違うなんて動物的だな、お前」

 褒められているのかけなされているのか、判断に迷うような事を言われて唇を尖らせて抗議の視線を送って見る。

「さっき吸ったからかもな、煙草」

「煙草?」

「いつも吸ってんのがなかったんだよ。だから違う銘柄のやつ買ったからな」

「ええ?た、タバコ」

 シカマルが煙草を玄関に忘れていったのは先程気が付いた。たまたま買ったものがシカマルの愛煙している物と銘柄が違ったのだろう。

「味が違うとか、なんかやらしーのな」

「………」

 にんまりと笑うシカマルの腕の中から慌てて逃げ出す。背中を向けた所で腕を取られた。

「こら、逃げんなよ」

「逃げてなんか!」

 恥ずかしくて逃げ出したのだけれど指摘されると素直になれない。それに腕を振り払う事もできない。

「お湯沸しに行くんだってばよ。オレも今帰ってきたばっかで」

「そっか」

「煙草ならそこに置いてあるって。シカマル忘れていったんじゃねえの?」

 シカマルが可笑しそうにくすくす笑う。彼は上機嫌らしくまだ封の切られていない煙草をベストのポケットに仕舞っている。

「なあナルト」

 呼ばれて反射的に振り返ってしまった。

「いつもの煙草吸ってこようか?」

 意地悪に笑われてぶわっと顔に熱が集まる。キスをしながら覚えた違和感。シカマルでない誰かとキスした事なんかないけれど、まるでそうであるように感じてしまった。

「手前の腕の中にいる恋人に浮気されたような気分だぜ」

「ンな事言ってねえってばよッ!!」

「心細そうなお前も可愛くていいけどよ。なんとなく納得できねえ感もある」

「だから、違うって」

「俺じゃねえみてーだって言ったのお前な」

 急に真剣な顔つきになって、もの凄く近くで視線を合わせられた。ナルトは真っ赤な顔で困ったようにシカマルを見上げた。

「も、ごめんってばよ」

「しょうがねえから今回は許してやるよ」

 ちゅっちゅっと啄むみたいなキスをしたシカマルは、もう一度ナルトを抱きしめた。

 

 

 

 

 2015/06/07