キャッシング

 

 

 

 

キンモクセイ2

 

 

「シカマル!」

 庭先から顔を出したナルトが、縁側に座っているシカマルに手を振った。まさか庭からやってくるとは思っておらず、シカマルは少し驚いたようだ。

「遅かったな、お前」

「悪りぃ、途中ヨシノのおばちゃんと会ったってばよ。なんか夕飯食べてくように言われたってば」

 だから来訪が遅かったのかと納得してしまう。ヨシノのナルト贔屓は今に始まった事ではない。シカマルはちょいちょいと手招きをしてナルトを呼んだ。

 ナルトは笑顔のまま、シカマルの隣に腰を下ろす。それからシカマルを見上げてへへっと笑った。

「なんだよ、機嫌いいじゃねえか」

「まあな。なんか、シカマルんちの庭が落ち着くんだって」

 ナルトは植物が好きである。花や観葉植物や、自然に生えている樹木にすら癒しを感じるらしい。奈良邸の庭が好きであると言うのも本当で、時間が見つかるとちょいちょいやって来たりするのだ。四季折々に変化する庭の風景を眺めながら茶をすすっているような地味な時間なのだけれど。

 誰もいないからか、ナルトがシカマルの肩にコツンと頭をあてる。寄り掛かるようにしてきたナルトの肩にシカマルも腕を回した。

「庭の木とか花とか、冬支度始める前って感じだってばよ」

「難しい事考えながら見てんだな、お前」

「ん? なんとなくの感覚だって……」

 特に難しい事を考えて観賞している訳ではない。シカマルと二人きりで居る事で安心している気持ちがあるのは本当だけれど、率直にこの庭が好きなのだけなのだ。

「あ〜あ、金木犀…もう終わりかけてるって感じだってばよ」

 まだ緑の中にオレンジ色の小さな花の群集は見える。ほわりと漂う甘い香りも健在なのだが、やはり盛りを過ぎてしまった感があった。

「先週あたりに来れたら良かったのにな。今年もすごかったぜ? あの匂い」

「甘い匂いって幸せになんない?シカマルの言い方だと、あんま歓迎してねえように聞こえるけど……」

 盛りは過ぎたとは言え、金木犀の香りは庭全体に広がっているような気がした。時折風が吹くと、その香を強く感じる程度になってはいるのだが。花なんかよりも腕の中のナルトの存在の方がシカマルには十分気になる。

「そういや近い内に庭師入れるとか言ってたな……」

 真夏を越したので庭木の手入れをしようと両親が話していた。まさに、ナルトの言うように冬支度である。剪定後には庭の雑草などもきれいに処理されて、暫くの間は落ち葉の掃除から解放されるのだ。

「金木犀も散るからいいタイミングだったんじゃねえの」

「うん、見られてすげー嬉しい。良かったってばよ」

 ナルトの声色が甘ったるく感じる。甘い香気を放つのは、オレンジの小花でなくナルトなのではないかと言う錯覚を覚えた。鼻先をくすぐる金糸からはいつものナルトの匂いがする。シカマルが好きな香りで、彼特有の匂い。

「ナルト」

 名前を呼んだのは、彼にキスしたいと思ったから。

 ナルトは顔を上げてシカマルに青い瞳を向ける。上目使いな丸い瞳の澄んだ色はキレイな空色で、吸い込まれてしまいそうだ。言葉にはしないけれど首を傾げて、シカマルの科白の続きを待っている。薄らと開いた唇につい視線が辿りついた。

 言葉のない会話。たまに二人の間に生まれる意思の疎通のようなもの。以心伝心で伝わる気持ちがある。まつ毛が伏せられて好きな青色が隠れた。それが合図かのように、シカマルもナルトの口唇を求めてしまう。最初は重ねるだけ。ちゅ、ちゅっと啄むみたいに口づけを楽しんで、差し出した舌を絡める。いつの間にか深く交わる唇に呼吸すら忘れてしまいそうなくらい夢中になってしまった。

 最初はシカマルの上衣をぎゅっと握っているだけだったナルトの身体から、力が抜けてくったりとしてくる。全てをシカマルに預けるように温もりを寄せられ、キスだけでは済まないような熱情が生まれた。

 甘いナルトの咥内を十分に味わい、シカマルは愉悦に浸る。唇が離れた瞬間にナルトが甘い吐息をついた。

「もっと近くに行けば、まだ花の匂いするぞ?」

「……キンモクセイ?」

「ああ、行くか?」

 シカマルに引き上げられて立ち上がったナルトの顔を覗き込むと、頬が仄かに上気している。そんな恋人に触れるだけのキスをもう一度して、手を引く。

 金木犀の木の近くまでやってくると、風に乗らなくてもまだ特有の甘ったるい香りが十分にする。

「あ、ホントだってばよ。近くの方が匂いきついってばね」

 嬉しそうに笑って上を仰いだナルトに微笑んで、咄嗟に彼を抱きしめる。

「え?」

 突然、強い風が吹いた。

「シカマル、どうしたって……」

 肩越しに見える風景。思わず見入ってしまって、慌ててぎゅっと目を瞑る。シカマルが自分を庇うみたいに抱きしめてくれた理由を知った。

 花の盛りが終わっている金木犀。強い風が吹くとその花がパラパラと落ちる。だけれど細かい花が目に入りそうになって驚いてしまう。小さな花なので、まるでオレンジ色のシャワーのようだ。

「シカマル、ありがとだってばよ」

 風がやんでシカマルから身体を離すと、彼を見上げてぷっと笑ってしまった。シャワーのように降り注いだ花冠の雨。小さなオレンジの花冠が、髪や洋服やところどころくっついてしまっている。

「シカマル、いっぱい着いてる」

 手のひらでぽんぽんとシカマルの頭についている花を払った。

「そりゃお前も一緒だろうが……それより、目に入らなかったか?」

「入ってねえよ」

 金色の髪に絡まるいくつもの花冠。ぶんぶんとナルトは頭を振ったのだが、そんな事では全部は落ち切らない。指で髪をすいてやると、名残惜しそうに花たちが地面に落ちた。

 金木犀の木の周りには自然と落ちたオレンジで埋まっている。さながら花冠でできたカーペットのようだ。落ちても尚甘い香りは変わらず、さらさらと風に流されて庭の中を踊っている。

「へへっ、キンモクセイシャワーだってばよ!」

 嬉しそうに笑うナルトがとても楽しそうに見える。いつも元気で明るくて、素直で、そんなところがバカっぽくて大好きだ。だけれど、時折見せる儚い雰囲気も好き。今みたいに浮かべた笑みすら、空気に自然に溶け込んでいってしまいそうで思わずナルトの手を取った。

「シカマル?」

「どこにも行くなよ」

「行かねえよ、シカマルの前に居るじゃん。オレ」

「あ、ああ……そうなんだけどよ」

 ナルトの愛でる物すべてに嫉妬してしまうなんて了見の狭い事を言ったら、彼を困らせてしまうだろうか。シカマルは言葉を飲み込み、笑みを作る。ナルトは、やっぱり首を傾げながらきょとんとしていた。それからふっと笑って、シカマルの胴体に抱きつく。

「シカマルのばーか」

「バカにバカって言われたくねえ……」

「だいじょぶだいじょぶ、オレはどこにも行かねえし。今も、シカマルの傍にいるってばよ?」

 ナルトなりにシカマルを慰めているつもりだろうか。そんな自分が情けなくもあるのだが、今のナルトに強がりを見せる必要もない気持ちになれた。だから、シカマルもナルトの背に腕を回す。

「どこにも、行くなよ」

「も…しつけーなぁ」

 呆れたような声なのに、くすくすと笑うナルトは嬉しそうにも見えた。

「シカマル大好きだってばよ」

 そう呟いたナルトが顔を上げてシカマルに唇を寄せる。甘えているのは自分なのに、反対にナルトから甘えられているような気分になるのは彼の計略なのだろうか。否、計略なんて出来ないのがナルトであり自分とは正反対にピュアな部分を持っているのだ。勘ぐるのは止めにして、ナルトがくれたキスに酔う事に決める。

「俺も、……愛してる」

 言葉では伝えられない気持ちを、触れた唇から伝えたい。

 

秋が深まる、ある日の告白。

 

 

 

 

このお話が「2」になっているのは「1」が存在するからです。

忘れられてるかもしれないですが、ブログSSに存在しとります(笑)

ブログ内の検索を「キンモクセイ」でしてもらうとヒットしますので

良かったらそちらもお楽しみください。今回の半分以下の文章なんですが(^^

バカップルはいいね。やっぱり!!

シカナルラブっ〜