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いちばん
「おい、お前……なんか機嫌悪りぃだろ?」 思わず声をかけてしまったのは、いかにも「気にしてください」というナルトの態度からである。もちろん彼は、すぐにイエスだとは認めない。 少しだけツンとした表情で「別に」と短い返事が返ってきただけ。 シカマルは苦笑した。ここまでわかりやすい態度で“別に”はないだろう。だがここで、こちら側も素っ気ないフリなんてしようものなら、ナルトの機嫌が急降下するのは目に見えている。 「なんだよ、ハッキリ言えっての」 「だから、別に、なんにも、ないってばよっ!」 一言一句を区切るように主張するナルトの声色に、心の中でまたまた苦笑。バカみたいに素直すぎる(判りやすい)性格は、ナルトの長所である。嘘をつくのは下手だし、全体からにじみ出る構ってオーラがあるような幻覚まで見えてしまうのだ。惚れた弱みとはまさにこの事で、口では面倒だとか、ちょいうぜえとか思いつつも、ついついナルトに対しては寛大な態度を取ってしまうのが常であった。 「んじゃ、こっち来いよ」 シカマルの科白にじっとりとした視線を向けてくる。青い瞳が真っ直ぐに自分だけを見て、その色がキレイだなんて密かに思う。 「来ねえの?」 右手をひらひらと振りながら、ちょいちょいと手招きのポーズ。 ここはナルトのアパートのこれまた彼のベッドの上である。食事にでかけて一緒に帰宅して、そのままベッドの上に移動した次第だ。それは最初にナルトがベッドの端っこに座った事から、シカマルもそれに倣っただけの事なのだが。だから、他意はない。 ここまで機嫌の悪いナルトを押し倒そうとしたらきっと癇癪を起すだろう。
たまにある、彼なりのなんらかの主張。 少しだけワガママで、少しだけヒステリックで。 それはシカマルにしか見せない素のナルトの姿であるから、シカマルも受け止める事が出来るのだ。
別段と広いと言えないベッドの上で、端に寄ってしまっているナルトを抱き寄せるなんて簡単な事だ。強引に抱き寄せてしまうのも手なのだが、シカマルもそんな気分ではなかった。ナルトの方から自分を求めて欲しいし、ぶうたれながらもすり寄る彼の態度が可愛いなんて思えてしまう末期症状。 「……もうっ」 何に対して悪態をついているのかは不明だが、四つん這いになりながらナルトが近づいてくる。少しだけ上目づかいで、眉間にシワを寄せながら、唇は不満そうにむすりと結ばれている。ようやく自分の手の届く距離にナルトが近づいて来た事で、シカマルもそっと手を差し出した。ふわりと飛び込んでくるナルトが、胸元にぎゅうぎゅうと顔を押し付けてくる。 膝の間に彼を抱え込みながら、背中をあやすようにぽんぽんと叩いて、ついでに後頭部もヨシヨシ。 「ムクれてんじゃねえって…」 「そんなんじゃねえもんっ!」 「嘘つけ」 「嘘ついてない」 「素直じゃねえなぁ……」 うーとか、あーとか意味不明な声を出しながらぎゅうぎゅうとシカマルに抱きついてくるナルトが、やっぱり可愛い。同じ男に対してという意味ではなく、恋人に対しての“可愛い”。 「ちゃんと言葉にしねえと、わかんねえ」 「だって……」 甘えるような口調に変わったナルトの声色。そんな些細な変化だって見逃さない。ひとつひとつ与えてくれる彼なりのサインを見逃してしまったら後できっと後悔の嵐。他人にはどうでもいい事に、脳みそをフル稼働してちょっとした変化も見逃さない。 「オレの我儘なんだってばよ。だから、シカマルは悪くねえ」 「そうか?」 先刻までの強気な態度はどこへ行ってしまったのか?今は自分を責める事に一生懸命になっているナルトは勝手に一人で凹んでいる。 「だって、オレはシカマルの一番になれねえ」 「………―――― は?」 何に対しての一番なのかと聞き返したいのだが、とりあえず我慢してナルトの言葉の続きを聞く事に専念した。 「オレはシカマルの一番になりてえの!」 「一番、…ねえ」 難しい括りをするものだと首を傾げる。口にしないと伝わらない感情なのだけれど、言葉にされても曖昧で分かりにくい。 「お前だって俺が一番じゃねえだろ。一楽のラーメンが好きだし、カカシ先生やイルカの事も好きだし、サクラの事は大好きじゃねえか。母ちゃんの作るメシも好きだし?任務も好きだし、木の葉も好き。お前の中の好きは沢山存在してんじゃねえのか?」 シカマルの科白に黙ってしまったナルトは浅い息を吐いた。ナルトがどうしてこんな事を言いだしたのかは不明だが、シカマルの一番は当の昔からナルトだ。それを分かっていない彼に深い溜息をつきたい。特別に好きなモノも嫌いなモノももない。そんな自分の世界に、特別だとかの感情を植え付けてくれたのは腕の中で瞬きをしているナルトである。 「一番になれねえって思ったら、すげー腹立ってさ。ごめん、八つ当たりだってばよ」 しおらしい態度で詫びを入れるナルトに苦笑してしまう。苛めてみたい気持ちもあるが、今は素直にナルトを甘やかしてやろう。 「あんな……お前って鈍感つうか」 「鈍感で悪かったってばよ!」 「一つだけ、確かな事があんだぜ?」 存在する気持ちは、たった一つ。胸の奥に仕舞い込んでいるが、たまに叫んで暴れ出したいくらいの熱量で気持ちの殆どを支配する厄介な感情。 「なに?」 顔を上げたナルトの瞳を覗き込む。綺麗な青が自分だけを見つめて、その瞬間に彼に容易く支配される。 「お前が一楽のラーメン好きだつっても、イルカのことやサクラの事好きだつって沢山の一番があってもよ……俺の中での譲れねえ一番はお前なんだぜ? それが、確かな事」 ナルトが望んだ言葉かどうかは分からないが、意味合い的には間違っていないと思う。きょとんとしてシカマルを見上げるナルトの頬が見る見るうちに赤くなる。 「照れんなよ」 「だって……」 「こっちのが照れてんだよ、バーカ。本っ当にお前ってバカだよな。知ってたけど。二度と口にしねえから、ちゃんと覚えとけ」 きゅっと唇を噛んだナルトがこくりと頷く。こんな仕草の一つでもシカマルの気持ちを鷲掴みにしている自覚なんてナルトにはなく、本当の本当に厄介で堪らない。 癇癪も我儘も全部受け止めるなんて容易い事。全部がナルトを形成する欠片であるから、全てを愛しく感じるのだ。そんな気持ちを認めてしまえば、ストンと憑き物が落ちるみたいに自分に正直になれた。変に気取る必要も誤魔化す必要も、偽る理由も存在理由がなくなった。 にやりと笑うと、その口唇にナルトのそれが当てられる。首に回された腕がぎゅっとしがみ付いてくる。 「シカマルだって、十分にバカだってばよ。オレだって、オレの一番はシカマルだってばよ」 ちゅっともう一度キスをされて、誘われている視線に気が付いた。ナルトの柔らかい唇を求めて、ゆっくりと瞼を閉じる。重なる感触に、舌が絡められる。ゆっくりとだけれど確かに熱を孕んだ口づけ。角度を変えて何度もキスを繰り返して、離れたナルトがほうっと息を吐いた。くてんとして肩口に額を預ける。 「も……シカマルが一番好きだってばよ」 囁くような小さな声で、腕の中の温もりが身じろいだ。だからシカマルはゆっくりとナルトの身体をベッドに寝かせる。見上げてくる瞳は予想を裏切らずにシカマルを魅了していた。 「イルカ先生やカカシ先生やサクラちゃんよりも、ヨシノのおばちゃんが作ってくれる飯よりも大好きだってばよ。木の葉も好きだし、忍としての自分だって好きだけど……でも、シカマルを好きなのはもっと違うトコでの好きだから」 「ああ」 分かっている。同じ天秤に乗せられない感情だと言う事を。ナルトのいう事は正論。それでも、たまに同じ天秤に乗せてもナルトという存在がかけがえがなく大切だと思えてしまう自分が居る事はナルトには秘密だ。 ゆっくりと閉じた瞼に隠れた、誘惑する青い瞳。吸い込まれるようにしてナルトに唇を落としたシカマルは、言葉に出来ない思いを行動で伝える事に決めた。
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いい夫婦の日だから、ちょっとラブいシカナルを書きたいと思った。
それが発端な話なんだけれど……ラブいか?どうしよう、自信がない。
すごく分かるのは、シカマルが超ナルを甘やかしててヨシヨシしてるってだけ。
この話がナルト視点よりシカナル側からの話になってるからかもしれないですが……
ちっ。
自分的に甘さ足りてません(*v.v)。