|
引力
頭の中が真っ白になる瞬間がある。 ふいに、というかいきなりというか。特に理由はなく曖昧なままで、突然訪れた焦燥感。 床の上にぺたりと座りこんでいたナルトは、思わずうなってしまった。
―――――― 任務のこと、友人のこと、自分のこと? 何を考えていたのだろうか。不可解な心と頭の中はやっぱり真っ白だ。
「あ…」 真っ白になってしまったはずの、頭の中に浮かび上がるビジョン。 何もかもわからなくなってしまった時空の中でも確かにある、温かい気持ち。
思わず、クスリと笑った唇に指先を当てる。 それから視線を、最近の彼の指定席に移した。 少し真剣な瞳は、洗いざらしになっている長い前髪に隠れている。 時々、うっとうしそうにソレをかきあげる指の節ですら、視線を引き付けられた。 「シカマル、髪の毛……くくればいいってばよ」
本当は、自然なままの彼が、 自分の前だけでさらけ出してくれるリアルな彼が、 好きなのだけれど。
「ん?」 手にしていた書物から、優しい眼差しがナルトへ向けられる。
トクリ、と鳴る心臓。 それだけで、胸が高鳴った。 たったそれだけの、些細な彼のモーションが自分の全てを止める。
視線も、呼吸も、身体を動かす機能が全てシカマルの支配下にあるような感覚。
この胸の高鳴りも、 この湧きあがる感情も、 瞳が思わず潤むような高揚感も。
さらけ出せるなら、全て彼に見せて自分の全てを見せて、それで……どうしよう?
やっぱり、白い世界の中にはシカマルと言う人間が一人存在しているだけで、思考回路はそれ以外に機能する事を拒否しているみたいだ。 「どーした、ナルト?」 ぼうっとしているナルトを不思議に思ったのか、シカマルが首を傾げた。 「シカマル……」 ほら、名前を呼ぶだけで胸が苦しい。 この痛みは、どんな感情から溢れてくるのか無意識のうちに知っている。
「オレ……」 「ナルト?」 「オレの事、こっから連れだしてくれってばよ」 ナルトの前後のつながらない言葉に、再び首を傾げたシカマルは、ふっと笑って書物を閉じた。 肩をすくめて、ひらりとベッドから降りたシカマルがナルトのすぐ前まで来ると、ナルトの手を取る。 「シカマル?」 「連れだして欲しいんだろ? どこか知らねーけど勝手にトリップしてんじゃねえよ」 「ん……ごめん。でも、シカマルは居るから」
白くなっても、黒くなっても、透明になっても、 この世界に彼は存在する。 絶対の存在は、なくなることがないのだ。
「シカマル」 脇から抱えられて抱きしめられる。 その瞬間に、ふっと繋がる「何か」が生まれた。 「わかった…ような、気ぃするかも」 「なんだよ、その”かも”ってのは」 「――――― シカマル、好きだってばよ」
儚げに聞こえた掠れる呟きが、シカマルの琴線に触れる。
「おい…」 「もっと、……離れるの、だめなんだってばよ…」 いつもいつもいつも、引き合っている存在なのだ。 対なんて贅沢な事は言わない。 ただ、彼の引力にいつも引き付けられていたいと心底思うのだ。
抱き合って、鼓動が重なって、温もりが混じり合う。
シカマルはナルトを抱く腕に力を入れた。 華奢な訳ではないから、そんなことでナルトが壊れてしまうことはない。 そうすることで、安堵の息を吐く恋人に愛しさが増すだけである。
くすっと笑うような声色で、ナルトがぽつりぽつりと話し始める。 「オレさ……人を愛するって意味、なんとなく分かる。きっと、シカマルを好きな気持ちが……」 「愛してる――――― 」 シカマルの言葉にびくりとナルトの身体が反応した。 「愛してるぜ、ナル…」 「―――――― うん、オレも」 「俺はここに居る、お前を抱いてる。お前は、どこに居るんだ?」 シカマルの問いかけに、ナルトがふふっと笑った。 「シカマルの腕の中」 「そんだけ分かってりゃ、上等!」 「なんでだろ……すっごい、なんか上手く言えねえけど、すっげえ嬉しい。 シカマルが好きだって……愛してるって」
心を動かすには十分に効力のある魔法のコトバ。 その言葉に、気持ちがこもっているから、心に響く。 不思議な、言霊。
抱きしめられるだけで、こんなに強く引きあう魂の奥にある本能。 だから、一緒に居られる時間は限られてしまう毎日なのだけれど……―――――
引きあう事が、必然。 偶然なんかじゃない、確かにある。 二人を繋ぎ止める、引力―――――
|
ブログSS用に書いていたんですが。
何故か無性にアップしたくなったのですよ(^.^)
少しいつものRUIパターンとは違う文体ですが…
雰囲気で読んで頂けたら嬉しいです!
意味不明な話ですが、雰囲気です(笑)