|
はーとまーくの事情
珍しく連休が取れ、シカマルは久しぶりにのんびりしている。ナルトが任務に就いている事は知っていたが、高ランクの任務でない為に早めに帰宅すると言っていた。彼が戻るであろう夕方に合わせて家を出て、今は彼のアパートで寛いでいる。 休みなのだからと笑われそうだが、結局は次期任務の資料を広げて読み漁っている。もちろん急ぎではないし、ナルトが帰宅するまでの暇つぶしも兼ねてシカマル的には一石二鳥。冷めてしまったマグカップの中身はもう渋いだけの液体になってしまっている。お湯でも沸かすかと腰を上げた所で、玄関の扉が開く音がした。 「ナルト?」 確認しなくても彼以外の何者でもないだろう。サンダルを脱いでいるごそごそという音が聞こえて、シカマルは口元に笑みを浮かべる。ガスに火を点けて薬缶をかけた。 ガチャリと空いたドア。人が歩いてくる気配にシカマルは振り返る。 「お疲れさん」 目の前のナルトは疲れたように溜息をついた。それを不思議に思いながら、おかえりのキスを落とす。触れるだけのそれに軽く答えたナルトは、大きな目でじっとシカマルを見つめた。 「ただいまだってばよ」 「おう、おかえり。今ちょうどお茶を淹れなおそうかと……」 「ふ〜ん、そっか」 シカマルは不思議な違和感を覚える。疲れている時に、素っ気ない態度になってしまう事は人間ならば誰でもあるだろう。それなのに、それだけでない何かを感じる。それはきっと本能で。 「なんかあったのか?」 「なんで?」 「……勘、みたいな」 正直には言えないが、ナルトの態度が全てを物語っている。ストレートに伝えると彼の機嫌が、もっと急降下しそうだ。 「なにそれ」 ナルトがくすりと笑った。……いや、笑っているように見えるのだが、目が笑っていない。シカマルは自分の最近の行動を思い返してみる。気が付いていない所でナルトの気に障る様な事をしたのだろうか?それは考え難い。少し前まではお互いに忙しくしていてすれ違いの毎日が続いていたのだ。こうやって、会うのも久しぶりだ。どちらかが休みでも、相手は任務…なんて生活を強いられてきた。時間がなくて顔を合わせるだけでも、キスをするだけでも、今みたいなぎすぎすした空気が流れた事はなかった。 結果、やっぱり分からない。だけれど、ナルトの態度が可笑しいのは確かである。そして迎えたティータイムは最悪なものだった。シカマルが話す事に相槌を打つみたいな返事しかもらえなくて、会話が続かない。そのポツリポツリの会話の間は、重たすぎる沈黙だ。「ああ」とか、「そう」とか、「ふ〜ん」とか。同じ返事が繰り返されるだけで、心ここに在らずなナルトはじっとカップを見つめるだけで、視線すらも向けてくれないのだ。テーブルを挟んで座っているのだが、この無機質な物体がなにかの境界線ではないかと思えるくらい二人の間には高い壁がそびえ立っている。 「シカマル、休みなのにまた仕事してたのかってばよ」 テーブルの上にある資料を見てナルトがポツリと呟く。やっと口を開いてくれたナルトにシカマルはホッとした。 「仕事なんて大したもんじゃねえよ。ちょっと次の任務の資料に目を通しておきたかっただけ」 「そっか。シカマルって用意周到って言うか、ぬかりがないって言うか、感心するってばよ」 チクリどころでない棘を感じるが、それはそれでぐっと堪える。そんな自分を褒めてやりたい。 「任務大変だったのか?」 「まあ、普通かな」 ナルトは散らばった冊子をペラペラめくって、すぐに興味なさそうに戻す。 「疲れてるみたいだけど」 「……どっと疲れたってばよ。任務の後に」 「後?」 「ウン」 ゆっくりとナルトの視線がシカマルに向けられる。意思の強そうな大きな瞳で無言のまま見つめられた。ロックオンされたまま動けなかったシカマルは、ナルトと暫く見つめ合ってからカップをテーブルに置く。 「あんな、ナルト。言いてえ事があるなら言えよ。遠まわしに威嚇されてもわかんねえ」 呆れたような声色にナルトの眉がぴくりと動く。こんなナルトにお目に掛かれる機会は少ない。まあ、あまりお目にかかりたくはないのだけれど。 ナルトは「動」である。なのに今日の彼は明らかに違う。だから、シカマルの中でしっくりこない。 「じゃあ、聞きてえだけどさ……――――――」 ナルトはポケットの中から白い封筒を取り出した。すっとシカマルの前に置かれたそれを、シカマルはじっと見つめる。これは中を確認してみろという事なのだろうか。とりあえず手に取って、中身をチラリと伺う。 「……なんだこれ」 「シカマルに渡して欲しいって預かりものなんだけど、誰が見ても構わねえってことだったから先に見せてもらったってばよ」 淡々と語られてもシカマルは首を傾げるばかりだ。誰から預かったとも中身が何なのかともナルトは言わない。 「シカマル、中見てさ……どうゆうことだが説明してくれってばよ」 「説明って――――――」 シカマルは思い切って封筒の中のものを取り出す。取り出して、そして、固まった。数枚の写真と共に小さなメッセージカードも入っている。 「おい、こりゃ違うぞ。なんかすげー勘違いしてんだろお前」 先週の任務で小隊を組んだ隊員との食事風景。これは任務後に言った居酒屋かなにかだ。場所はしっかり覚えていないが、一緒に任務についたキバがお膳立てしてくれたのは覚えている。シカマルがその時の事を思い出して眉間にシワをよせると、ナルトがにっこりと笑った。 「シカマル隊長、お誕生日おめでとうございます、ハートマークふたつ」 「ナ、ナルト……」 「介抱させてしまってごめんなさい。また一緒にご飯食べにいきましょうね」 短い文面だが、一言一句間違っていない。シカマルの手にある写真をひったくると、テーブルの上に綺麗に並べる。 「すげー楽しそうだけど?」 「楽しいとかそうゆうんじゃねえよ」 「言い訳は?しねーの?」 「お前は俺がこいつらとなんかあったとか、真剣に思ってんのか?任務後に小隊組んだ面子でメシに行っただけ。ちなみに、キバがもうすぐ俺の誕生日だとかばらすからそのままなんとなく……」 シカマルはふうっと息をつく。自分を見据えて離さない青い瞳が潤んでいた。 「メシは食った。それだけ。言い訳も何もねえし、俺は浮気なんてしてねえよ」 「じゃあなんでっ、オレ以外の奴に誕生日祝ってもらってんだって!!それに、そのカードのハートマークはどう説明するんだってばよ」 「女はハートが好きなんだよ。深い意味はない」 「ひとつならまだしも二つもあんだけど?!それって深い意味じゃねえの?」 「そんなん俺にもわからねえよ」 ナルトの眉が潜む。不満はいっぱいあります、という視線がシカマルからはずれる事はない。 「だから、シカマルが気が付かなくたって……深い意味なんじゃねえのかよ」 ぽつりと呟いたナルトの声から今までの威勢が消えている。清廉潔白なはずのシカマルの胸にちくりとした何がが刺さる。恋人にこんな顔をさせて、こんな事を言わせている自分がとても情けない。 「……本当に、深い意味は、絶対に、ない」 納得するかどうかは分からないが、一言ずつ区切って強調してみる。しょんぼりと肩を落とした金色の旋毛を見ていると急に寂しくなる。叱責されている方がマシだ。しんとした空間も、その中に妙に溶け込んでいるナルトも見たくない。 「ナルト、俺の事信じないのか?」 「そうやって聞くの、すげーずるい……」 ため息交じりの声にシカマルも軽く息を吐く。狡い自覚なんて十分にある。あの手でもこの手でも、どんな手を使っても、バカげた誤解は解かなくてはいけない。つまらない事でナルトとの時間を邪魔されたくなんかないのだ。どれだけ自分勝手な都合を押し付けているのかという自覚はある。あるが、浮気もしていないしナルトに対して疚しい事はこれっぽちもないのだ。被害者は自分の方だと、わざわざ写真をくれた彼女に八つ当たりしたくなる。 「ナルト」 俯いたままのナルトの手を取る。言うまでもなくその手はふり払われた。テーブルの上から数枚の写真がパサリと床に落ちる。弱々しいその腕ももう一度取った。離す気はなく、ぐいっとナルトを抱き寄せる。今度は拒否されず恋人の身体が腕の中に納まる。 ナルトの匂いが鼻腔をふわりと撫ぜる。状況は無視して、それに落ち着いている自分がいた。シカマルはナルトをぎゅっと抱きしめる。 感じる体温と、その存在。確かめるように、その腕に無意識に力が入ってしまう。 「お前が考えてる事なんて、1ミリだってねえし」 泣かせてしまっている事には心が痛む。 「説明も、言い訳もないからな」 ずずっと鼻をすする音。 「泣くなって」 「―――――……ね…」 「ん?」 ナルトの呟きを聞こうと首を傾げた瞬間、ナルトが勢いよく顔をあげる。シカマルの鼻先を激痛が襲った。視線を下げたシカマルに激突したナルトは、驚愕したように大きく瞳をまん丸くさせる。 「シカマ…」 「ってえ」 「……よな」 シカマルは踏んだり蹴ったりな自分に泣きたくなる。ひりひりとする鼻に手を当てて、溜息をついた。 「タイミング最悪」 「大丈夫かってばよ?」 優しく触れてくるナルトの指。その眼はシカマルを心配するものに変わっている。 「いてえよ」 「思いっきりガンって言ったってば」 ナルトと一緒に床にへたへたと座り込むと、シカマルはふっと笑う。 「なあ、ナルト」 「……なに?」 「介抱っての、思い出した」 「介抱?」 首を傾げたナルトはメッセージカードの一文を思い浮かべて、一瞬のうちにむっとしてしまう。 「あの日、キバが悪酔いしてさ。俺はあいつの介抱に回った訳」 なぜがご機嫌でハイペースで酒を煽ったキバが早々に潰れたのだ。シカマルは落ちている写真の一枚を引き寄せると、トントンとそれを指先で叩く。 「この子」 「オレに写真渡してくれって言った女の子だってばよ」 笑顔が可愛くて雰囲気がキラキラしていて、ナルトの目から見てもひいき目なしに可愛いと思えた。封筒の中身を見て、その可愛い彼女のキラキラしている理由がシカマルにあると感じてしまった。 シカマルの指がすっと写真の上を滑る。 「あの子はこいつの事が好きだった訳」 「……へ?」 シカマルは合点が言ったというように、ははっと笑う。 「だから、俺はキバを連れて早々に退散した。食事はほぼ終わってたし、俺とキバが二人の事邪魔してもしょうがねえだろ」 「…邪魔って、それって……」 「お互いに脈ありって感じだったからな。俺とキバは邪魔だろ?」 全ての状況を飲み込んだのか、先程とは違う意味でナルトが口を噤む。 「泣いてねえな」 瞼にそっと触れるとナルトの頬が赤く染まる。 「だから、泣いてねえって言ったのに……鼻水でただけだってばよ」 「そうか」 「……そうだって」 近い距離で視線が絡まった。何が合図なのか、もとから合図なんてないのか、自然と引き寄せられるように二人の唇が重なる。触れるだけの唇が啄むようにキスを繰り返す。当たり前のように差し出された舌が、どちらからでもなく絡まった。 優しくて柔らかい口づけ。深くなるにつれ夢中になって貪り合う。時折聞こえる水音が鼓膜に心地よい。 「シカマル……」 「ンだ?」 潤んだ瞳で見つめられシカマルが首を傾げた。 大好きな人が傍にいて、腕の中にいて、濡れた瞳でじっと見つめてくる。紅い唇から漏れる吐息みたいな囁きが艶を含んでいるように感じた。 「誕生日、おめでとうだってばよ」 「ああ、サンキュ」 こつんと額がぶつかる。そのまま、ちゅっとキスをした。誰から祝われるよりナルトからの一言が嬉しい。その言葉には色んな感情がこもっている。それを感じる事ができるから、心が嬉しいのだと思う。 「ホントは一番最初に言いたかったんだけど」 しょんぼりとナルトが肩を落とす。 「俺がお前に誤解させたんだろ?それって、愛されてる証拠みたいな感じ?」 「ヤキモチ妬いてごめん」 自分の非を認めて素直に謝れるのはナルトの美徳だ。 「今となっちゃ…ま、可愛いから全部許す」 たまに起こす癇癪にも慣れてきたつもりでいたけれど、その原因がどこからやってくるか分からない事は忘れていた。かなり焦った事も忘れて、余裕でナルトを受け止める事が出来ると虚勢を張りたい。 「あのさ、ケーキ買ってきたんだって!」 思い出したように立ち上がろうとした腕を思わず取る。不思議な顔でシカマルを見つめてくる青い瞳。自分だけを映すそれにクラリとしてしまった。 「後でいい」 「あと?」 「先にお前だろ。当たり前な事言わせんな」 「えっ?……あの、」 優しいだけのキスでなく、激しく奪うみたいに唇を重ねる。びくりと震えた身体を、もう一度深く抱き込んだ。 「ん…っ……っ、けー…きあるって……」 両手を床に張り付けて首筋に唇を落とした。舌先でペロリと舐めると、切ないような息が漏れる。熟れた果実みたいに熱くなる肌に指先を滑らせた。
ナルトが買ってくれたこぶりなケーキは、少しだけ酸っぱくてとても甘かったという誕生日の思い出。
|
シカ誕2013年vrです(笑)
赤文字でないのは最初からの予定。
ホントですよ〜
とりあえず、二人が相思相愛でいられたらOKです!
喧嘩するほどナントヤラってより、喧嘩しても仲の良い二人が好き。
今年もシカマルの誕生日をお祝いできることに感謝(*´∇`*)