|
始まりの朝 番外編「keys」
ナルトは掌の中の鍵を見て、にんまりとする。自分の部屋の合鍵を作るなんて考えた事もなかった。今まで必要のない事だと思っていたのだ。 知らずと顔がにやにやしてしまうのを止められない。アパートの階段を上り、ズボンのポケットをごそごそやってはっと気がついた。今、自分が手にしているのも自分の家の鍵ではないか。当たり前の事に、またへへっと笑う。ぽんと放り投げた銀色の鍵をキャッチして、鍵穴に入れる。 「ナルト〜!」 急に名前を呼ばれて振りかえると、見慣れた姿が目に入る。ズボンのポケットに両手を突っ込んだポーズのままじっとナルトを見つめる瞳。 「シカマル!」 彼の名前を呼ぶと、身体が勝手に動いていた。どんっとぶつかる勢いでシカマルに抱きついたナルトをシカマルは難なく受け止める。 「なんだよ、機嫌いいじゃねえか」 「うん!いいってばよ」 至近距離で見上げた顔が近い。ナルトはちゅっと唇を合わせた。シカマルは驚いた顔をして、それから口元に笑みを乗せる。 「中…入っていいか?」 聞かれて、力強く頷いたナルトは慌てて鍵穴に差し込んだ鍵を回した。 「ちょっと、汚くしてるってばよ?」 この間片づけたばかりだと言うのに、知らずと汚れて行ってしまう部屋。最初に言い訳をしておこうと振り向いた所で、シカマルにぎゅっと抱きしめられる。玄関の三和土は広くはない。そんなスペースで密着し、抱きしめられる。 「シ…シカマ…」 名前を呼ぼうとして止められた。彼の唇で。口内にするりと入ってきた舌が、ナルトのそれを絡め取る。 「ん…」 角度を変えながら深くなる口づけにナルトの身体から力が抜けて行く。 「ふ、あ…」 口から洩れるのは言葉にならない声。鼻から抜ける甘い声にシカマルも気分が高潮していくのを感じる。ナルトの一挙手一投走に煽られる。絡め取る舌の甘さに酔いそうになってしまう。 唇を離すと、こてんと懐いて来る金色の頭を撫ぜた。 「……ビックリしたってば」 「よく言うぜ。廊下で派手にかましときながら」 「あ、あれはっ!!……すげえ近くにシカマルの顔があったから…」 会いたいと思っていた時に会えた嬉しさからきた思わずの行動である。そんな事はシカマルに通じる訳はなく、ナルトはしかたなく口を噤む。 「んじゃ、俺の理性に感謝してほしいくらいだな」 「なにが?」 「廊下で押し倒されなくて済んだだろ?」 意地悪な声色で囁かれて、ナルトは頬を真っ赤に染めた。シカマルとは、所謂…身体の関係がある。だが、それを面と向かって言われるとナルトは何も言い返せない。恥ずかしくてしょうがなくなる。だから、さらりと言ってのけるシカマルに感心してしまうのだ。 「は、恥ずかしいってばよ〜」 「なにが?」 「だって…!」 身体のつながりは、痛みよりも快楽の方を多く感じるようになってきた。最初は死ぬような思いをした気でいたのだが、慣れとは本当に恐ろしいものなのだ。シカマルに抱きしめられるだけで、キスされるだけで、その掌が身体を這うだけで、指先が触れるだけでも、快感が生まれる。そんな自分を初めて知り、困惑していた頃はいい。羞恥するよりも悦楽に飲み込まれてしまうようになってしまう自分が怖い。シカマルを求めてしまう自分が、とてもはしたないような気がしてならないのだ。痛みが快感にすり替わる瞬間は、ストンと感覚が落ちる様で……それでいて、とても心地いい。 「だって、オレってば…すげえエッチみたいじゃん」 「男なんて、所詮…スケベなもんだろ?いちいち気にすんなよ」 痛みだけを与える訳ではないと言ったシカマルは、有言実行でナルトに快感の芽を植え付けた。 「お前が感じてるとこ見ると、俺も気持ち悦いんだよ」 「ほんと?」 「嘘言って、俺になんか得があんのか?」 ナルトは首を振ると、サンダルの留め具をぱちんと外す。それに従いシカマルもナルトの後を付いてきた。部屋の中に入り、くるりと振り向いてシカマルを見上げた。 「…する?」 上目づかいで見つめてくる青い瞳にシカマルはくすりと笑う。 「人を年中、サカってるみたいに言うなよ?」 「ちち違う!そんな風には…」 「ま、人間はいつでも発情する欲深い生き物だけどな」 他の動物のように、決まった時期に発情期がある訳ではない。人間は他の生物に比べ、快楽に弱い生き物なのではないだろうか。シカマルがナルトの元へ来るのは、彼を抱きに来ている訳ではない。顔が見られればいいし、くだらない話をしながら過ぎて行く時間に身を任せるのが心地いいのだ。その延長上にセックスがあったのだとしても、それは成り行きであり、一緒にいる理由ではない。 「まぁ…ゆっくり茶でも飲もうぜ」 「うん!そうだってばよ」 「誘われてんなら、吝かじゃねえけどな」 にんまりと男臭い笑みを見せられたナルトは、顔じゅうを真っ赤にしてブンブンと首を振った。 「お茶…飲むってばよ」 きごちなく自分を見つめてくる瞳に、シカマルは吹き出す。からかわれたナルトはぷうっと頬を膨らませて、薬缶の火を付けに行った。 「おいナルト、膨れんなよ」 「べつに!」 顔をシカマルに向けようとしないで、かちゃかちゃと急須と湯のみの用意を始めたナルトを背中から抱きしめた。 「ヘソ曲げんなって…」 「曲げてねえし…」 「ふ〜ん…そうかよ」 十分に怒っているように見えるだが、ここで深く突っ込んでもナルトの機嫌が急降下するだけの話だ。シカマルはするりと腕を解くと、ベッドの上に移動した。ベストを脱ぎ捨てて、首を回す。本当は任務の間も気が気ではない。そんな事をナルトに言ったら必要以上に気にするだろうから口にはしないけれど、いつナルトが自来也と修行の旅にでても可笑しくないのだ。そう思うとざわつく感情がある。お互いで決めた道だと言うのに、どこかでそれに逆らいたいという気持ちもあって。とても、矛盾しているのだ。だから、来られる時にはナルトの家に足を運んでいる。 湯の沸いたのを知らせる音が聞こえる。それから暫くして、ナルトが湯呑を持ってシカマルの隣に座った。 「お疲れさんだってばよ」 にっこりと笑いかけられて、シカマルも湯呑を持った手を軽く上げる。年寄の集まりが縁側で茶をすすっているようであるが、シカマルにとってもナルトにとっても大事な時間の一つになっていた。奈良家の習慣だったのを、ナルトが気に入ったせいであるのだが。 「そうだ!」 ナルトは思い出したように、ポケットの中をごそごそと探る。それを不思議な顔で見つめていたシカマルは、眼前に差し出されたシルバーの鍵に視線を移す。 「…ンだ?」 「オレんちの鍵だってばよ」 「このアパートの鍵か?」 ナルトは嬉しそうに笑ってからこくりと頷く。 「えっと…シカマルに持ってて欲しいんだってばよ」 シカマルは目を丸くした。ただ純粋に驚いてしまったのである。ナルトの考える事に。 「オレは、これがあるから…」 ナルトは首にかけた一本の鍵をシカマルの前に差し出した。シカマルは首を捻る。この鍵がどうだというのだろうか。 「あ…これ、シカマルんちの鍵」 「は?」 一瞬耳を疑う。思わず聞き返してしまうくらいには。 「おばちゃんとおっちゃんが…くれたんだってば!お守りみたいなもんなんだって…。おばちゃんが、いっつも家に居る訳じゃないからって。おっちゃんもおばちゃんも、オレにいつでもお帰りを言いたいからって言ってくれたんだってばよ」 本心からの笑顔を見せるナルトに、シカマルは心の中で「やられた…」と呟く。自分の両親が、うずまきナルトという人間を相当気に入っている事は知っていた。知っていたが、まさかこんな話の展開になっているとは思わなかったのである。先を越されたようで悔しい気持ちになる。 「いいのか…?俺が持ってても」 「シカマルに持ってて欲しいんだってば。オレは、シカマルにただいまが言いたいんだってばよ」 真剣な顔つきでシカマルを見つめるナルトを抱き寄せた。 「わっ!シカマル、湯呑っ!」 「…ナルト」 「オレ、変な事…言ったってば?」 「いや?すげえ嬉しいけど、いきなり王手をくらった気分なんだよ」 「訳わかんねぇってば…」 シカマルの腕の中で、ナルトは「う〜っ」と唸った。 「…う、嬉しい?」 ナルトはヨシノから鍵を貰った時、本当に嬉しかった。シカマルも喜んでくれればいいと思って行動にでたのである。 「ったり前の事、聞くなって」 「良かったってば…」 ほっとして呟くと、急に唇を奪われた。シカマルは器用にナルトの手からも湯呑を奪う。息を継ぐ暇も与えてもらえないくらいに激しいキスに、ナルトの意識がぼうっとしてしまう。 「んん…っ」 それでもシカマルにキスされるのは嫌いではないから、必死になってそれに応える。 「ふ…んっ、ん」 絡められる熱い舌に、頭の中がシカマルの事で一杯になった。こんな瞬間が好きだ。相手の事しか考えられなくなるこの一瞬にほわりと心が温かくなる。 唇を解放されて、シカマルの胸に額を当てた。その息は少し荒い。ナルトの背中をぽんぽんと叩くシカマルの手のリズムにそっと目を閉じる。 「ナルト、前言撤回」 「なに…?」 「お前を、感じてえ」 直接的にではないけれど、はっきりと口にされてナルトの頬が朱に染まった。耳まで赤くなったナルトは、ぎゅうっとシカマルの胸に顔を埋める。 「そんな事…シカマルは頭いいんだから………もっと上手く言ってくれってばよっ!」 「しゃあねえ…余裕がねえんだからよ」 懐いて来るナルトの顔を自分の方に向ける。 「答えは?」 じっと瞳を見つめると、大好きな青が潤んでいるのが見えた。言葉にしなくても、ナルトの言いたい事が手に取る様に分かってしまう。 「ナルト?」 それでも、直接彼の口から聞きたい。自分を求めていると、聞きたい。 「し…たい」 小さな声は少し掠れていて、十分にシカマルを煽る要因となった。金色の前髪をかきあげて、額に唇を落とした。 「好きだ…」 「オレも」 何度この気持ちを口にしても、何度この気持ちを伝えあっても足りない気がする。簡単なはずなのに、言葉にするだけではいつの間にか足りなくなってしまったのだ。 慈しむように唇をナルトの肌に当てたシカマルは、飢える気持ちを形にする為に快楽の証を刻みこんだ。ベッドに沈んだナルト手から音を立てて、鍵がすり落ちる。それが合図かのように、ナルトの手がシカマルの背中に回った。
|
ヨシノとシカクから奈良家の自宅の鍵をもらったのを、
ナルトがシカマルに自分ちの鍵を渡す…というエピソードを
入れたかったのです。
書き終わって、はっと気がついた時には……遅いっての!
完全に出来上がってからの二人。
始まりの朝19の途中くらいの話になります。
やっと書けた〜(*^^)v