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HANABI

 

 

 来年も一緒に花火を見に行こう…!

 

 そんな約束をしてから、一年という月日があっという間に流れてしまった。奇しくも昨年、仲間と過ごした花火大会に、今年もみんなで…という希望は打ち砕かれてしまったのである。

 忍の世界は厳しい。

 それなりの報酬をもらい仕事をするのだから、里の年中行事に合わせて忍が休みをもらえる訳ではないのだ。

 そう考えると、去年は本当にラッキーだったのだと思う。同期のメンバーとはもちろん、シカマルとも一緒に花火大会に行けたのだから。

任務を終えて、サクラやサイと別れたナルトは、夜空に浮かび上がる大輪の花を仰ぎながら口元に笑みを乗せたのだった。

 今夜帰るのは自分のアパートではない。自分の家に帰る様に見慣れた道を歩き、ドォンドォンと光の余韻が身体に響いて来る。

「あ〜…終わっちまうかなぁ?」

 それとも、川岸では仕掛け花火が煌めいているのだろうか。楽しい事を想像しながら歩く道のりはあっという間で、目的地に到着した。

 呼び鈴を鳴らすのが少しだけ気恥かしい。それでも、それを押すとパタパタという足音が聞こえた。扉が開くと、いつも通りの優しい笑顔がナルトを迎えるのである。

「ナルトくん、いらっしゃい。お疲れ様だったわね、さあ早く入って!」

「あんがとだってばよ、ヨシノのおばちゃん」

 埃臭い自分の身なりを見て、框を上がるのを躊躇ってしまう。

「おばちゃん、先に風呂借りてもいい?オレってば、さっき任務明けたばっかで……」

 ヨシノはふふっと笑うと頷いて、ナルトを浴室に向かわせたのだった。さっと汗を流すだけでも気分は違う。汗でべっとりとした不快感からも解放される。ガラリと浴室へ通じる引き戸を開けたナルトは、目の前の光景にぎょっと目を丸くした。籐の椅子に腰かけながら髪をゴシゴシやっているのは……

「シカマル?!」

 その声に顔を上げた彼は、目視でナルトを確認してにやりと笑った。

「お前も任務明け?」

「うん、できたら花火一緒にっておばちゃんとおっちゃんに誘われてて、図々しく来ちゃったんだってばよ。ギリギリセーフって感じだけどさ」

「そっか、お疲れさん」

「シカマルだって、任務明けじゃねえの?」

「そう。もう、汗だくでよ。我慢ならねえから先にシャワーでもってな」

 考える事は同じなのだろう。猛暑に見舞われた今年の夏は、任務を遂行するにも辛い季節で。

「オレもさっさと済ませちまうってばよ。今からでも、最後の打ち上げには間に合うだろ?」

 奈良邸の庭からでも打ち上げ花火は十分に堪能できる。もちろん、水際で行われる仕掛け花火は見る事が出来ないのだが、それは去年も同じ事だ。

 二人で仲間の輪を抜け出して肌を重ねた昨年は、最後の打ち上げ花火を見逃してしまっている。

 ナルトは半乾きのシカマルの黒髪に指を通した。

「シカマル、髪…伸びた気がするってば」

「そっか?」

 くすりと笑ったシカマルはそんな事にはお構いなしの様だ。見た目よりも柔らかくしっとりと指先に絡む髪の感触にナルトの背中に、一瞬せり上がって来る感覚を感じる。優しく髪をすくナルトの指をシカマルは捕まえると、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。

「シカマル! 汚れる……シャワー浴びたばっかなんだろ?」

 すっぽりとシカマルの腕の中に収まったナルトは、どきどきする気持ちを隠せないで視線を上に上げる。

「オレ…まだ、風呂済んでねえから、その…シカマル汚れ………」

 不意に落ちてきた唇に、ナルトは反射的に瞼を閉じた。柔らかい唇が重なって、すぐに熱い舌が咥内に侵入してきた。

「ン…っ……んん…っ……」

 絡められる熱い感触に心が満たされ、そして、身体の芯の部分が熱くなる。

「シカ…や…っ、だめ……はな、び……」

「ん〜?わーってる」

 唇は重なったままで交わされる言葉に、ぞくぞくとしたものを感じた。背中に回って、ゆったりと背筋を這う手の平に性的な興奮を隠せないでいる。

「あ…っ…シカぁ……」

 何を懇願しているのだろう。

 離してほしいのか、それとも、この先へ進みたいのか。曖昧な感情のままで、シカマルという存在に全てが侵された。

「お前の汗の匂い…好きなんだぜ?」

 耳元で囁かれた睦言に、含まれる甘い毒のようなものが交る。

「でも……花火、おばちゃんも……待ってんもん」

 精一杯の強がりを口にするけれど、こうやって求められる事も嬉しくて堪らない。建前を口にしているけれど、シカマルの腕の温もりや、指先や舌や唇が与えてくれる快感に酔いしれてしまいたい気分もあるのも本当の事。

「でも、ダメだってばよ」

 むうっと膨れながら押し返した腕に、シカマルがくすりと笑った。

「お前って、分かりやすくて…すげー可愛いのな」

「し、シカマル!!」

 ナルトはむすりとしながら、シカマルの唇に自分のそれをちゅっと当てる。シカマルはしてやられたとばかりに口の端を上げてから、ナルトの背中を押してやった。

「浴衣、用意しといてやるよ」

「あ、オレ自分で着られねえから……」

「それも知ってる」

 シカマルの言葉に首を傾げながら、ナルトは衣服を脱ぎ捨てると浴槽へ足を進める。

「……ん?」

 勢いよく出たシャワーのお湯は少しだけ温い。温度調整は、前に風呂を済ませているシカマルがしたままだった。火照った身体にはその温度が心地よいものに感じられて、ふいに湧き上がった疑問はすぐにどこかに消えてしまう。十分に埃を洗い流したナルトは、シャンプーのボトルをがしがし押しながら鼻歌なんかを歌い始めたのだった。シャワーだけにしようと思っていたのだが、ヨシノの気遣いは行き届いていて湯船にお湯も入っていた。元々風呂は好きだ。

「少しだけ!」

 そう決めて湯船に浸かってしまった。じんわりと温まる感じが大好きで、思わず瞼が閉じる。最近は面倒でシャワーだけで済ませていた自分に反省しながら、やっぱり夏でも湯船は最高!という気分に浸ってしまったのかもしれない。だから、思い切りよく開いた扉に心底驚いてしまった。

「お前、おせーよ…」

「………ご、ごめ…」

 思わず謝ってから、はっとする。

「シカマル、もしかして…待ってたとか」

「当たり前だろ?」

「ええっ!」

 腕を組んだまま見下ろすシカマルは言葉ほど怒っていないようにも感じる。

「それって、オレが一人で浴衣着られねえから?」

「それもあるな」

「“も”?」

「あんな、おいしいシチュエーチョンほっぽって親父の相手すんの勿体ねえだろ?」

 風呂へ入る前の二人の状況を思い出したナルトは真っ赤になって、シカマルを見上げた。

「花火、見る…ってばよ。うん…」

 シカマルはくすりと笑っただけだ。

「早く上がってこいよ?」

 ナルトは無言のまま頷いた。

 今の本当の気持ちはどうなのだろう。シカクやヨシノと一緒に、もちろんシカマルとも一緒に花火を見たい。けれど、もし今度シカマルに求められたら、ナルトにはそれを断るだけの意志がなかった。自分だってシカマルと同じ気持ちなのだ。キスされて嬉しかったし、身体の奥で燻ぶった熱は今も尚…健在である。覚悟は決まらない。決まらないままで、湯船から上がった。

「お待たせだってばよ〜。シカ、悪りぃ!」

 ばさりと頭からバスタオルが降って来て、髪の毛をごしごしやられる。いきなりの無言なシカマルの行動にびっくりしながらも、彼のしたいままにさせた。粗方髪の雫が取れると、次は肩にタオルを掛けられた。

「シカマル?」

「ほら、浴衣着せてやる。親父も母ちゃんも待ってるぜ?」

「う…うん」

 ごくまともなシカマルの思考に、違う期待を抱いていたナルトは気恥かしくなった。襟を合わせられ、手慣れたように腰帯を締められる。さらりとした生地が肌に心地いい。

「母ちゃん、今年も張り切ってんな」

「なんで?」

 きゅっと帯を締められるのに苦しくは感じない。これも慣れと言うやつなのだろうか。去年も思ったのだが、シカマルに着付けてもらうと着崩れる事がないように思う。

「今年は生地に麻が交ってんなって思ってさ」

「そ、それって……おばちゃん、新しく作ってくれたって事?麻って高けーの?」

 一度に二つの質問をするナルトにシカマルはくすくりと笑う。

「俺のも誂えてあったぜ? 俺もお前も今日ここに居ねえかもしんねえのにな」

 もちろん、任務で里を離れているかもしれない…と言う事をシカマルは言いたいのだ。仕事が入っていることは告げていたので、間に合えば一緒に花火を見ようという軽い話になっていたはずなのに。シカマルはもちろんの事、自分にも新しい浴衣を用意してくれたヨシノに感謝の気持ちがいっぱいだ。

「すげえ、嬉しい」

「そう言ってやればいい。それだけで二人とも喜ぶから。俺としてはこのまま二人で居てえけど、それもな?」

 それでも首筋に落ちてくる柔らかい唇を拒む事も出来ない。舌で舐められる感触に快感が再び背筋からせり上がってくるのを感じた。ぎゅっと抱きしめられて、力の抜けるナルトの身体は崩れる事はない。

 シカマルの首に腕を回してナルトからも抱きつくと、首筋でふわりと空気の揺れる感覚。シカマルが笑ったのかもしれない。

「……しょうがねえから、親孝行してやるか」

 残念な声色で囁いたシカマルにナルトもこくこくと頷く事で応える。

「今夜、泊まってけるよな?」

「……うん」

 このまま離れてしまうなんて、ナルトにだって出来そうにない。

 

 

 

「おお。やっと来たな、まだ終わってねえぞ」

 縁側には小さな蝋燭の炎がひとつあるだけで余分な光源はなかった。

「良かったってばよ〜」

 シカクは自分の隣の床を叩いてナルトを促す。ナルトはチラっとシカマルを見るが、彼は無視を決め込んでいるらしい。

「サンキュだって……あ! おっちゃん、おばちゃん。浴衣もすげえ嬉しい。ありがとだってば」

 忘れない内に二人にぺこりと頭を下げると、シカクとヨシノは顔を見合わせてにっこりと笑った。

「遠慮はなしよ、ナルトくん。つまめるものを用意してあるから、食べながら花火みましょう」

「やったー!オレ、腹ペコなんだって…」

 へへっと笑うと、好物になっている鳥の唐揚げをつまむ。あまり遠慮してしまうと、両親の楽しみを奪うと言ったのはシカマルだ。構いたいのだからそうさせておけばいいと言うのが彼なりの意見らしい。当然に好意を好意だと思わない訳ではない。本当に感謝しているし嬉しい。その喜びを伝えた時のシカクたちの顔も好きだった。

「ほら、見て。シカマルも。最後の打ち上げ花火に間に合ったみたいよ?」

 ヨシノの言葉を遮る様に、間もなく轟音が響く。光のあとにパラパラと音を立て、地面には轟く様な音。座っているだけで、それが身体に響いてくるから不思議だ。

 真っ暗な縁側で、言葉もなく真っ暗な空に咲く光の花を見上げる。その合間に隣に座っているシカマルを盗み見ると、暗闇の中に大好きな横顔。顔が赤くなっているのは、誰にも気づかれる事はないだろう。食事の手を休めながら息をつく暇もない光の祭典を見つめ続けた。

 ナルトは不意にそっと手を握られるのを感じる。もちろんそれはシカマルで……どきどきするのを感じながら、その手を握り返す。自分が盗み見たのも知っているのだろうか。知っているのに知らないふりをしたのだろうか。ほんの僅かな間だったけれど、視線に気が付かない彼ではないのかもしれない。

 二人きりでの花火観賞にはならなかったが、やはりシカクやヨシノと共に見るのも楽しく感じる。自分が経験した事のない家族の団らんを与えられているような気分になって、泣きたい気持ちになる。その事もシカマルは知っているのかもしれない。

 そして、光が消えた後に今年聞いた中で一番大きな音が響く。シンとする空間に、余韻みたいなものが残って寂しいような気がする。それに重なる溜息は誰のものだったのだろうか。

「今年は出店に行けなくて残念だったわね、ナルトくん」

 話を切り出したのはヨシノだ。だけれどナルトは否定する意味で首を振る。

「こうやって皆で花火見るのも、楽しいってばよ。おばちゃんのご飯うまいし!」

「花火、終わっちゃったけど。いっぱい食べてね。お父さんにはお酒でも持ってきましょうか?」

 機嫌のいい妻の笑顔にシカクは軽く頷いただけだ。

「祭りなら木の葉のあちこちでまだやるんじゃねえか? 近くの神社の祭りももうすぐだろ、ヨシノ」

「日にちを調べておきますよ。今度はシカマルと一緒に出店回りしてくるといいわ」

「おいおい、母ちゃん。俺たち、そんなガキじゃねえぞ?」

 うんざりとした顔のシカマルを睨みつけたヨシノは、作った様な笑みを張りつけた。

「いつまでも子供よ」

 一喝されてシカマルは肩をすくめる。

「そん時は付き合ってくれってばよ、シカマル」

 笑顔を向けられたシカマルも吝かではない。口では「しょうがねえぇ…」と言いつつも、優しい表情を浮かべていた。

「今年も終わっちまったなぁ…」

 夏の風物詩である、木の葉の花火大会。盛夏にひとときの涼を運んでくれる瞬間は、あっという間に終わってしまった。

 まだまだ夏は続くだろうけれど、この花火大会が終わると夏も終わりを迎えるという合図なような気がする。あと、半月もすれば朝晩も過ごしやすくなるのだろう。

「また、来年も見たいな。花火…」

「そうだな」

 ぽつりと独り言のような呟きにシカマルはしっかりと返事をくれる。ナルトは驚いた後、繋いだままになっていた手を握り締める。

「……サンキュ」

 焼き鳥の櫛を銜えたままのシカマルはふっと笑うと、少し照れたように顔を背けてしまう。ヨシノやシカクが居なかったら抱きついてしまうかもしれない衝動を抑えつつ、ナルトも焼き鳥の櫛を銜えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏なので、夏っぽい話を…第二段()

どうしても、夏の間にアップしたかったってか…ふと思いついてしまったので(^^

今年は奈良家族と御一緒のナルくんです!

ま、シカマルが一緒なのは当然なのでいいのです。

これでも、シカナル〜