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A story of the first love  番外編「恋風」

 

 

 今日という今日こそははっきりと言ってやらなければいけない。そんな気持ちでいたのだが、実際本人を目の前にすると何も言えなくなってしまった。

「あ〜…つまんねぇってばよ」

 ふさふさと揺れる金色の尻尾。それは九つに分かれている。彼は、着物の裾から出ている足をぶらぶらさせながら、小川に小石を投げ込んでいる。尻尾と同じ金の髪の間から、動物特有の三角の耳。

「お前、いつになったら完璧に変化できるようになんだよ?」

「オレのが聞きたいってばよ…気ぃ抜いてんと、耳と尻尾が出ちまって―― はぁ…」

「隠す気あんのか?」

「今はねぇってば…」

 金色の髪が風に揺れた。ナルトはちらりと横に座る幼馴染を見つめる。…というか羨望の眼差しで睨みつけた。純粋に羨ましい。自分と同じ年だと言うのに、この幼馴染の変化は完璧である。彼の本来の姿は八岐大蛇である。ナルトの一族同様、妖である事は同じだ。それと、人間からも崇められているという点でも同じだった。サスケの住む里にも、大きな社が建てられており彼はそこに住んでいるのだ。

 今日はたまたまナルトの父親への書簡を持って来た。ナルトの父親は妖狐の里の里長である。他の妖との交流も頻繁にしており、ナルトの住む屋敷にも毎日のように来客がある。

「なぁなぁ、サスケってばいくつ位で人型に変化できるようになったんだってば?」

「物心ついた頃には出来てた。お前だって、その尻尾と耳さえ隠れれば完璧なんだろ」

 ナルトは大袈裟に溜息をついてみせる。

「……サスケってば知らないのか?妖狐は成人の儀式ってのがすまねぇと、人間の里にはおりちゃいけねえの!」

「知るかよ、そんな事」

「サスケはいつも優しくねえよな。自分は完璧に人型になれるから、オレの気持ちなんて分かんねえんだって…」

 サスケにはナルトの気持ちは分からない。どうして人間と交わりたいと思うのかも、ちっとも理解できない。自分が久々にナルトに会いに来たと言うのに、彼の口から出る話と言えば「外」の世界についてばかりなのである。

「別にいいじゃねえかよ。変化できなくても問題ないだろ」

「大アリだってばっ!オレは早く人間の住む里に降りてみてえの!!」

「だから、行く事ねえだろって言ってんだ。このウスラトンカチ」

「なんでそんな決めつけた言い方すんだってばっ!アホサスケ」

「ウスラトンカチにアホ呼ばわりされる筋合いはないな」

 不敵な笑みを浮かべると、むっつりと頬を膨らませたナルトはサスケから視線を外すように明後日の方向を向いてしまう。いつもこうなのだ。サスケはナルトに会うと憎まれ口を聞いてしまう。

「別に変化出来なくても、いいだろ。安心しろよ、俺がお前を嫁にもらってやる」

「願い下げだってばよっ!ぜ〜ったいに、ノーセンキュだってば」

 初めてサスケと会った時、彼は髪の長いナルトの事を女の子だと勘違いしたのだ。サスケにしてみれば、衝撃的な出会いだったのである。ナルトからしてみれば、事あるごとに「嫁にしてやる」というサスケの気持ちが分からない。反対に馬鹿にされているような気持ちになって、サスケを睨みつけてしまう。

「お前、四代目と違ってこの里を継ぐ気がないんだろ。俺の嫁になる事に何の不満があるんだ?」

「サスケの思考回路のが、ぜってえおかしいし!オレは男だって!」

「しょうがねえ…刷り込みってやつだ」

 サスケは当たり前だと言わんばかりにナルトを見つめる。ナルトはこんな時、心底困ってしまうのだ。

 

 

 

 

 それは、時が遡る事十年ほど前の話。

 サスケは両親と共に妖狐の里に来ていた。三歳になったサスケのお披露目と言うか、お祝いをしてくれた妖狐の里長へのお礼参りのようなものだった。妖狐の里の四代目のミナトは、とても優しく温和な人物だった。堅物の自分の父親とは違い、性格が砕けているというか柔和なのである。見た事もない金色の髪に青い瞳。サスケが緊張しながら対面していると、襖の奥から子供と思われる笑い声が聞こえた。からりと開いた襖から顔を出した子供は、中を伺うようにミナトを見つめる。

「こら、ナルト。お客様が見えてるんだから…お母さんと奥にいなさい」

「ん〜〜〜〜だって、つまんねえんだもんっ」

 サスケは自分と同じ年くらいのナルトに興味深々で視線を移す。目が合うと、ナルトはにっこりと笑いかけてくれた。サスケも自然と笑顔になってしまう。ミナトと同じ金色の髪に、青い大きな瞳。吸い込まれてしまいそうなその瞳を、遠慮なく見つめてしまった。

「サスケくんは、ナルトと会うのは初めてだったかな?」

 ミナトの問いにサスケは頷いた。

「そうか…ナルト。こっちにきて挨拶しなさい。できるかな?」

 ミナトの言葉にナルトはぷうっと頬を膨らませた。

「できるってばよ!」

 ナルトはちょこんとサスケの前に座った。サスケはナルトの風貌を見て、また驚く。ふさふさの金色の尻尾が揺らめいていたのだ。それは髪の色と同じで、金色である。

「波風ナルトです」

 深々と頭を下げたナルトにサスケも慌てて頭を下げる。

「うちはサスケ…です」

「父ちゃん!サスケと遊んでもいいってば?」

 期待を込めた瞳でミナトを見つめると、彼はにっこりと笑う。サスケの父親であるフガクは、サスケを見ると軽く頷いた。

「ナルト殿がいいのなら、遊んで頂きなさい。サスケ」

「はい、父上」

 ナルトは嬉しそうにサスケの手を取る。明るい色の着物を身につけて、さらさらの金色の長い髪がとてもきれいだった。ぐいぐいと引っ張られて廊下に出ると、ナルトはにかっと笑ってサスケを四方八方から見つめる。

「サスケってば、すごいってばよ!もう人型に変化できるんだってば?」

「おう、まぁな」

「いいなぁ。オレってば、まだだめなんだってばよ〜」

 ナルトはそう言うと変化を解く。まだ長い間は変化出来ないのだ。そのナルトの姿にサスケは驚いたように目を丸くした。金色のふさふさの毛に、幾重にも別れた尻尾。妖狐の姿になったナルトは、ちょこちょことサスケの周りを回る。

「遊ぼうってばよ〜サスケ!」

「ナルト!」

 廊下の奥から、ナルトを呼ぶ声が聞こえたと思ったら髪の長い美人が現れる。サスケはまたびっくりしてしまった。彼女は膝を折ると、サスケと同じ目線になる。

「ごめんなさいね。サスケくん…大きくなったわね。私の事は覚えていないかしら」

 サスケは頷く。一見、少女のように見える風貌に覚えはない。

「母ちゃん!オレってばサスケと遊ぶんだってばよ」

「お父さんの所へ行ってはいけないと言ったでしょう?」

「だって、父ちゃんもサスケの父ちゃんもいいって言ってくれたってばよ?」

 目の前の美人はナルトの母親だと言う。それにしては随分と幼く見えてしまうのはどうしてなのだろうか。妖狐という種族は年をとるのがゆっくりだと聞いた事はあったが、自分の母親と比べれば随分と若く見えた。

「まぁ、そうなの?サスケくんは、無事に三歳の誕生日を迎えられたのね」

「はい、そうです。あの…立派なお祝いをいただいてありがとうございます」

 サスケは両親に言い含められた言葉を口にする。

「母ちゃん!誕生日が来るといいことあるんだってば?」

 くすりと笑ったクシナは、金色の背中をふわりと撫ぜてやる。

「そうよ。お披露目をしたら、他の妖の里への出入りが許されるの。ナルトもあと少しで、三歳の誕生日だから、まだこの里を出る事はできないけれどね」

「なんだ…そうなんだ」

 がっかりしたようなナルトの科白にサスケは、慰めるような言葉をかける。

「問題ない。俺が遊びに来てやるから、いいだろ?」

「ホントだってば?嬉しいってばよ〜」

 初めてナルトを見た時から、サスケには一つの望みが心に生まれた。

「クシナ様、俺はナルトを嫁にしたいんです」

「え…?」

 さすがのクシナも驚いた様だ。ナルトはその意味が分からずに、首を傾げている。

「母ちゃん〜!ヨメってなんだってばよ?」

「そうねぇ。大好きな人とずっと一緒にいるっていう、約束みたいなものかしらね」

「そっかあ〜!ヤクソクなんだってばね。じゃあ、オレはサスケのヨメになるってば!」

 まだ何の意味も分からない子供の思いつきにクシナは吹き出してしまう。くすくすと笑いながら、まだ幼い子供たちの頭を撫ぜてやる。

「ずうっと仲良くしてね、サスケくん」

「はい!」

 サスケは照れたような笑みをクシナに返したのだった。

 

 

 

 

 ナルトが嫁と言うものが何なのかはっきりと知ると、サスケの言動が不思議で堪らなくなった。最初は自分の事を女の子だと思っていたのであり、嫁にするといったサスケの言葉を冗談だと思っていた。だけれど、ナルトが自分と同じ性別だと知った今も、サスケはナルトを嫁にすると憚らないのだ。

「サスケってば、オレのどこがいいんだってばよ。サスケは女の子にも、めちゃもてるじゃん」

「ンなの、関係ない。お前にしか興味ないし…」

「おかしいってば…」

「しょうがないだろ。お前の事が好きなんだから」

 会う度にナルトの事が気になるようになり、彼の存在が自分の中を占める割合が増えてきた。性別とかは関係ないのだ。

「オレにはサスケの言う様な好きの意味はわかんねえもん」

 両親の事が好き、遊んでくれる臣下たちも好きだ。もちろん、教育係であるカカシの事も好きである。この先もずっと変わらない好き。けれど、サスケが自分に向ける好きは、少し種類が違うような気がする。

たった一人に向ける、好き。クシナは結婚というものが、大好きな人とずっと一緒にいる約束だと言っていた。それが、特定の誰かだという意識はナルトには全くなかったのだ。

「ったく…お前はいつまでお子様なんだよ」

 サスケのじっとりとした眼差しを受けて、ナルトはべーっと赤い舌を出した。

「別に、オレはいつまででもお子様でケッコーだってばよ〜」

「……ま、いいけどな。俺がお前をヨメにするって気持ちは変わんねえし」

「いや…いい加減変われよ、それ。おかしいってば」

 ナルトの長い金の髪が風に揺れる。それが、サスケの鼻先を掠めた。ふわりと漂ってきたナルトの気配にサスケの頬が少しだけ赤くなる。

「俺がどれだけ本気なのかって、いつかお前に分からせてやるよ。……ナルト」

 名前を呼ばれてサスケに視線を移したナルトは、風に攫われて聞こえなかったサスケの科白に首を傾げた。肩から落ちる金色の長いさらさらの髪が、ナルトの表情をあどけない者に見せる。

「なぁ、サスケ。遊びに行こう!」

 ナルトは変化を解くと、妖狐の姿になる。この方が野山を駆け回るのに都合がいいからだった。サスケは初めて見た時から、少し大きくなった狐のナルトを見て、やっぱりきれいだなと思ったのである。

 とことこと進むナルトが思い出したように、サスケを振り返った。

「そういや、イタチの兄ちゃん元気?」

「イタチ?なんで、兄貴の名前が出てくるんだ?」

 サスケは嫌そうな顔つきになる。

「この前、珍しいお菓子もらったんだってばよ。今度はオレが遊びに行こうかな〜」

「お前、勝手に餌付けされてんじゃねえ!ウスラトンカチ!!」

 サスケの恋心を知っていて、わざとナルトにちょっかいをかけ弟の反応を楽しむ兄の不敵な笑みがサスケの中に浮かんだ。

「別に俺が来るから、お前はうちはに来なくてもいいからなっ」

「サスケじゃなくて、イタチの兄ちゃんに会いに行くんだってばよ」

「いちいち人の神経逆なでするんじゃねーよ」

 ナルトが自分に向ける気持ちの中に、恋情なんてものはこれっぽちもないことは分かっている。それがいつかは……というか、絶対に自分に向けさせてやるというのがサスケの願望だったりするのだ。

 機嫌が悪そうなサスケを尻目に、ナルトは視界に入った雄大な自然に駈け出して行ってしまった。

「しょうがねえ奴だ…」

 そう言いながらも、結局最後までナルトに付き合ってしまうのは、サスケの惚れた弱みと言う奴だったりする。サスケは溜息をつきながら、青い空を見つめた。

 

 

 

 

 

 

番外編のサス→ナルです。

うちのサスケは全然報われなくて() カワイソウ…

本編でも、サスケは登場します〜

もうちょっと先だけど。