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ENDING 1010

 

 

 いのに急かされたようなシカマルは、ナルトたちに手を振るとすぐに行ってしまった。ナルトはシカマルの背中を見つめながら無意識に口元に笑みが浮かべる。

「ナ、ル、ト〜…シカマルと何話してたの?」

 サクラの怪しむ様な視線をさっと外すと、ぺろりと舌を出す。

「ナイショの話だってばよ〜」

「ふうん。わざわざ、離れてったしすごく重要な話かと勘繰り入れちゃったわよ」

 見透かそうとするサクラの眼差しが痛い。ナルトは誤魔化すように笑った。特に何も話してはいない。話してないけれど、それ以上にシカマルの気持ちを感じる事が出来た。それだけで満足なのだ。今はまだ彼とゆっくり話す事はできないけれど。それでも、ナルトはシカマルの事が好きで…シカマルもそうだと言ってくれた。今は、それだけで十分過ぎるくらいだと感じてしまう。シカマルの事だ。ナルトが落ち込んで居た原因は知らなくても、そうだと感じとってくれたと思う。

「サクラちゃんこそ、いのと話し込んでたってばよ?いっつも、喧嘩ばっかしてるくせにさ」

「…別に、喧嘩なんてしてないわよ。あれは、私といののレクレーションなの!」

「それにしては、仲良く話してたってばよ」

 ナルトに反対に突っ込まれると思っていなかったサクラは言葉に詰まる。

「そ、それは…」

 明日のナルトの誕生会の打ち合わせをしていたとは言えない。今晩には帰ってくるいのと最終的な打ち合わせをする段取りをしていたのだ。

「え〜と…ね、この間…いのの誕生日だったじゃない?」

「へぇ…知らねえ。そうなんだ」

 ナルトは感心したように頷いた。人の誕生日なんてあまり興味がない…シカマルはシカマルだから特別だっただけで。サクラ相手にもプレゼントを渡した事もない事に気が付いた。もちろん、サクラの誕生日は頭の中にインプットされているのだが。

「そうだったんだけど、あのシカマルがいのの誕生日覚えててプレゼントくれたんだって。意外よね、シカマルってそうゆう事に疎そうなのに。けっこうマメだって感心してたの」

「…プレゼント?」

 いのとシカマルは幼馴染だ。なんだかんだと言っても仲が良い事も知っている。元々班員だったいのとチョウジ、シカマルは仲が良い。

「ま、シカマルも忘れようがないか……いのの誕生日、シカマルの誕生日の次の日だもん」

「へえ…そうなんだってば」

 シカマルの誕生日の翌日。ナルトが眠っている間にシカマルは報告書の提出に行った。その間に、シカマルはいのにプレゼントを渡しに行ったと言う事なのだろうか。

帰りにケーキを買ってきてくれて、それを仲良く食べたのだ。ほんの少し前の事なのに、何故か遠い昔に感じてしまう。

「し、シカマル…いのに何プレゼントしたんだろ〜な…なんて、ははっ…」

 冗談を言いたいのに、茶化したいのに声が震える。

「ん〜?なんかね、シカマルの任務先に丁度いのがほしかった物があったみたいよ?シカマルは一応それを覚えてみたいね」

 後頭部をガンと殴られたような衝撃を感じる。ナルトは思わず俯いてしまった。比べる事ではない。比べて良い事ではないと分かっているのに、心の真ん中にぽっかりと穴が開いてしまったような気がする。隙間風がなだれ込んでくる感覚が指先を冷たくさせた。

 明日は奇しくも自分の誕生日だ。シカマルはそれに一切触れて来なかった。期待した訳でもないし、お互いに任務があるのだから……しょうがない事。自分を納得させるには多くの理由はいらないはずなのに、胸が苦しい。シカマルには面倒な事を抱え込んでいると言っていた。だから、しょうがないのだ。

「ナルト、ちょっと…顔が青いけど」

「なんでもねえってばっ!」

 思わず大きな声を出してしまったナルトは小さな声でゴメンと謝る。その姿を見つめていたカカシは、分かりやすいくらいのナルトの心情の変化に苦笑した。サクラに悪気はなかっただろう。それは見てとれるのだが…

「…全く、ねぇ」

 そして、軽い溜息。

「カカシさん?」

「さ、休憩終わりにしようか。ちゃっちゃと帰っちゃいましょ〜」

 カカシの言葉に振り返ったナルトとサクラは無言のまま頷く。何かを察しているだろうカカシの背中をサイも無言のまま追っていたのだ。

 なんだか雰囲気が悪いまま里に到着したカカシ班は、早々に解散することになる。

「サクラちゃん、あのさ…さっきは大きな声出して悪かったってばよ」

 サクラはにこりと笑う。

「気にしてないわよ」

「あのさ…明日なんだけど、時間あったら皆でメシとか行かねえ?」

「みんな?」

 首を傾げたサクラにナルトは慌てたように付け足す。

「サイも誘って…」

「三人で?」

 くすりと笑ったサクラの顔には怒りの感情は見えない。ナルトはほっとしてこくりと頷いた。

「行きたいのは山々なんだけど、明日はダメなのよ。綱手様から用事を頼まれてて…ごめん。ナルト」

「や、用事があるならしょうがないってば!なら、サイは?」

 くるりと振り返ると、彼は困ったように腕を組んで居る。

「なんかいつもボクはついでだよね、ナルト」

「そんなんじゃ…」

 サイにじっとりと見つめられて、へへっと誤魔化す様に笑う。

「せっかくのナルトからのお誘いだけど、ボクも用事があって里を離れてるんだ」

「……ふ〜ん、そっか」

「ナルト?」

 サイの不思議そうな顔を見てナルトはひらひらと両手を振った。

「サイと二人なんて色気ねえもんな〜。サクラちゃんが一緒だったら別だけど!」

「あ、やっぱりボクはついでなんだね?」

 苦笑したサイにナルトはあっかんべーをする。

「ンなことねえってばよ!お前は…今はカカシ班の一員なんだし。な?」

「う〜ん…微妙にフォローになってないような気がするけど?」

「変な勘繰り入れるなっての!じゃあな」

 ナルトは平静を装う様にサイとサクラに背中を向けた。その背中が遠ざかった所で、サイが溜息をついた。

「なに?サイ…」

「うん。なんか、ちょっと気になっちゃって。珍しくナルトが無理してるように見えたから」

「……そうね」

 サクラも何となく感じていた。落ち込んだ二人の前に、先程消えたはずのカカシが姿を見せる。

「先生?!」

「落ち込んでたナルトがやっと浮上したと思ったら、また逆戻りだねぇ」

 カカシの言葉に反論できない。

「あの…そんなつもりは」

「うん、サクラの気持ちは分かってるよ?結果オーライでしょ?明日、ナルトが泣いて喜ぶようなパーティーにしてあげればいいんじゃない?」

「はい、…そうですよね」

 今までの努力を無駄にしたくない。それに、今では面白がる気持ちよりもナルトの喜ぶ顔がみたい。

「先生、私もいのも…その、別にナルトを落ち込ませたいとか、そうゆう風に思ってる訳じゃないんです。ちょっと先走り過ぎた気はするけど…いのは暴走しちゃうタイプだから、本当はそれを私がフォローしなきゃいけないて思ってたのに。なんか、ムキになっちゃって…でも、一生懸命な気持ちは…」

 サクラの頭にぽんとカカシの手が乗せられた。

「はいはい。それもちゃんと分かってるからね♪明日、ナルトの喜ぶ顔が楽しみだよ」

「はい…」

 カカシは落ち込んだサクラを優しい瞳で見つめた。

 

 

 

 

 時計の針がチチタクと進む。帰宅して部屋の電気をつけなかったのは、すぐに寝てしまおうと思っていたからだ。さっさと風呂に入って、いつものようにカップ麺で夕飯をすませベッドに潜り込んだ。嫌な気持ちを忘れるには寝るのが一番だと思ったのに、一向に睡魔は訪れない。

 枕を抱きしめながらごろごろとベッドの上を右往左往しているだけ。

 それでも、時間は過ぎて行く。聞きたくない秒針の音も、厭味なくらいはっきりと聞こえてくる。疲れていないはずはない。だからこそ、すぐに眠ってしまいたいと思ったのだ。眠ってしまえば、嫌な事も忘れられるし、無駄な事を考えなくても済む。現実逃避でもなんでもいい。現状を打破する方法を見つけられないのだから、夢の中に逃げてしまいたい。

「はあ…」

 思わず深い溜息が洩れて、苦笑してしまう。

「忘れろ!オレ!大丈夫大丈夫…」

 ぶつぶつと独り言を口にしてしまうのは、言い聞かせなければ良く分からないこの感情に飲み込まれてしまいそうだから。

「オレは…大丈夫だっての……」

 

 カチカチカチ…

 

 時計の秒針が刻むそのリズムさえ鬱陶しく感じてしまう。ナルトは唸りながら枕に顔を押し付けた。

「元気そうじゃねえか」

 急に近くで聞こえた声にナルトは思わず顔を上げる。

「……な、んで」

 ナルトの視界に入った彼はにやりと笑う。

「もうすぐ、日付が変わるぜ?」

 ナルトは無意識に目覚まし時計を見てしまう。本当だ。もうすぐ、深夜0時を迎える。

「何しに来たんだよ」

「うるさいな。ウスラトンカチ」

「今はサスケの顔なんか、幻覚でもなんでも見たくないんだってばよ!」

「へぇ…お前も成長してるみたいだな。よく俺が幻覚だと分かったな?」

 ナルトはむすりとすると、ベッドの上に胡坐をかいて座る。そして、サスケをぎろりと睨みつけた。

「お前は…待ってるって言ったじゃん。そこまで言っといて、オレんとこ来るとは思えねえ」

 サスケのプライドが高い事は知っている。その彼がわざわざ自分の所へやってくるとは考えにくい。ナルト自身の意志でサスケの所へ来いと、選べと言い放ったのだ。

「なのに、なんで……来るんだよ。すげえ、お前バッドタイミング」

「俺はグッドタイミングに感じるけどな?」

 サスケはきっと遠い所から、瞳術によってこの部屋に存在する幻覚。幻覚でもそれは実体と遜色ないのだろう。ナルトはふっと瞳を閉じる。

「バカ、消えちまえってば…」

「うるせーって。お前に指図される覚えはない」

「それ、オレのセリフ!サスケに指図される覚えはオレにもねえのっ!」

「…そうだな」

 サスケの手がすっと差し伸べられる。思わずサスケの瞳を見てしまったナルトは心の中で舌打ちした。自分の意志で動く事が出来ない。そのナルトの頬に滑る様な手つきでサスケの手の平が当てられる。

「ちっとも、変わらねえな」

「……ンだよ」

「四日前と、何も変わってないって言ってんだ。バカはお前だ、ナルト」

「サスケに言われると、めちゃムカツク……」

 サスケの瞳が優しく細められる。その表情を知っている……それは、彼が里を抜ける前に自分に向けていた視線そのものだ。最近ではお目にかかれなかった、彼の一部と言える顔。

「ナルト。どうして、苦しい選択肢を選ぼうとするんだ?お前は俺と一緒に居る事で、幸せになれる」

「……… ――――― 幸せって、なんだよ」

 幸福の感じ方なんて千差万別だ。自分がそう思わなければ感じなければ、他人から見てどんなに「恵まれている状況」でも、幸せなんて言えない。

「オレは……サスケの求めてるような意味で、お前のトコなんて行けねえよ」

「どうだかな?」

「…え?」

「木の葉に居て、お前は本当に幸せなのか?ここにお前の居場所はあるのか」

 冷静に聞こえる声色にナルトは反論できない。

「俺がお前の居場所になる。そして、お前は俺の帰る場所になってほしい」

 きつい言葉で攻め立てられるよりも、懐柔されているような気分になる。別に懇願されている訳でも媚びられている訳でもないのに、サスケの言葉がすうっと心の中に入ってくるから不思議だ。

「答えは急いじゃいねえよ……俺はお前を待つと言っただろう?」

「サスケ……?」

「お前の生まれた今日と言う日に……お前を、俺のモノにする」

 ナルトはきゅっと唇を噛みしめた。望んでいることでない。なのに、心に染みてくるこの感情に名前をつける事は出来なかった。

「嫌だ…ンな事、勝手に決められるなんて、ぜってーに嫌だ!」

「いつまで俺の背中追いかけてくるつもりだ?」

 サクラとの約束。必ず、サスケを木の葉の里に連れ戻すと、元のように笑い合えるような関係を取り戻す事。自分で決めた事で、それはずっとずっと、彼が里を抜けた時から叶わぬ思い。届かなかった気持ち。なのに、そのサスケが目の前に居る。

 彼の手を素直に取ったならば、今という時を変える打開策になるのだろうか。

「今すぐにでもお前を掻っ攫いたい気持ちだがな…それじゃ、意味がない。お前がお前の意志で俺のとこに来るって事に意味があるんだ。ナルト…」

「……オレの、意志?」

「俺が、俺で決めてこの里を抜けたように…お前もお前の意志で俺を選べよ。俺は、お前に寂しい思いなんてさせないからな。…こんな風に」

 ナルトは心臓の音がドクドクと煩いくらいに大きくなっていることに気が付いた。サスケの言葉はいつでも毒のようだと感じる。性質の悪いドラッグ。一度手を染めてしまったら、抜けられない螺旋。

「寂しくなんかねえってばっ!」

 それはサスケに伝える為の言葉なのか、自分自身に言い聞かせる言葉なのか。隙間風だった冷たい何かが、ごうっと心の中に吹き渡る。

「てめーの顔、マトモに見た事あんのか。ウスラトンカチ」

「お前こそ、どんなだけナルシスト?いっつも鏡で自分の顔見てんのかよ、バカサスケ!」

 サスケはナルトの科白にくすくすと笑い始め、最後には大声で笑う。

「やっぱ、ナルトのウスラトンカチっぷりにはついてけそうにねえな。最高に面白い冗談だったぜ?」

 サスケの腕が伸びて、動けないナルトの身体を抱きしめる。

「ちょ…ヤメロ!冗談じゃねえってばっ」

「うるさい、黙れ」

 静かな声が耳元に届いた。ナルトは言葉を飲み込む。

 抱きしめられて感じる一肌の温もり。これも幻覚なのだろうか。泣きたいくらいに、悲しくなる。

「認めちまえ、寂しいんだってな」

 ナルトは否定する為に首を振りたいのに、それもできない。

「こんな場所に、お前が一人きりで居る意味はない」

「違う…」

「お前を、俺は離さない…こんな思いもさせない。ずっと、共に……」

 サスケの瞳術によって動けないナルトは、サスケの腕を振り払う事が出来ない。だが、もし自分が彼の瞳術の中にいなかったら……この優しい腕を振り払う事が出来たのか。ぞくりと背中に寒いものが走った。今と言う状態に言い訳はいくつもある。だが、そうでなかったら?どうなのだろうか……。

 サスケの顔が近くに見えて、唇が重ねられた。触れるだけのその感覚がサスケと共に部屋の中から消えてしまっても、ナルトはずっと動けないで居た。

 

 

 

 

 虚ろだった感覚が、差し込む太陽によって覚醒される。嫌だと思っても、時間は誰の上にも平等に与えられ朝はやってくるのだ。ナルトは重たい身体を起こして、やっぱり溜息をついた。

 深夜の招いていない客は、ナルトの心に大きな痣を残して去って行った。ナルトは嘲笑する。見透かされていたのだ。一番、見透かされたくない相手に。対等にありたいと思ってきた奴に。

 一時の何かに身を任せても、やってくるのは後悔だけだという事は分かっている。

「シカマル…」

 どうして、彼は近くに居ないんだろう。

 どうして、彼は自分の誕生日に近くに居てくれないんだろう。

 暗くて冷たい感情がどっと押し寄せてくる。

 こんな風に感じた事など一度もなかった。別に生まれた日がどうとか、記念日だとか、そうゆうものに興味はない。なのに、今年は何故か特別なような気がしていたのだ。勝手に、自分だけで盛り上がっていたのかもしれない。自分だけがそう思っていただけで、シカマルは何時もと何も変わりがないのだ。それを責める権利は自分にはないと思う。だけれど、本当は一番近くにいて欲しい。

 醜い感情が心の中を支配しようとしている。否、もうしているのかもしれない。シカマルを取り囲む全てのモノに嫉妬している。どうして、いのの誕生日にはプレゼントをあげたのに、自分の誕生日には近くにいてくれないのかと無駄な事を考えてみる。任務で里を離れているのだから、無理な事は分かっている。そんな事、百も承知ではないかと自分を叱咤する気持ちもある。モノなんかいらない。たった一つ欲しいものは、シカマルという存在。それが、今日と言う日に一致してしまったのは自分の我儘。

 昨日はサクラに食事でもと誘ったが、断られて良かったとホッとしている。こんな最悪な感情のまま誰かに会いたくない。それに、シカマルにも会いたくない。勘のいいシカマルの事だ。知られたくないこの感情もすぐに気が付いてしまうだろう。そんなのは嫌だ。知られたくない。

「はは…オレ、めちゃ嘘つき…」

 会いたいのに、一番にシカマルに会いたいのに。凹んでいる理由も聞かずに抱きしめてくれるシカマルに甘えたいのに………

 自分に嘘をつかなければ、弱気な気持ちに潰されてしまいそうだ。逃げだしてしまいたい。ナルトはばたりとベッドに倒れる。今日は一日寝て居た方がいいのかもしれない。そして、明日を迎えて、何もなかったように普通の自分を取り戻せばいいのだ。もちろん、サスケの元へ行くなんて事を考えてもしなかった。彼の手を取ると言う事は、シカマルとの別離という意味になる。シカマルと離れるなんて考えられないのだ。どんなに魅力的な言葉を聞かされても、サスケから真剣な思いを向けられても。ベクトルはサスケに向かう事はなく。抽象的な気持ちや感情は、サスケに向けられるものではなく。はっきりと具象化した気持ちがシカマルに向いているのだから。

 手の平から零れおちて行く感情は、全てシカマルに向かっているのだから、しょうがないのだ。ごそごそと布団を頭まですっぽりと被り、目を閉じた。やってくるのは心地よい睡眠ではない。ただ、歯痒いような時間だけだ。ちっとも進まない時計の針を睨みつけているより、殻の中にこもっている方が良い様な気がしている。祈る様な気持ちでぎゅっと手を握り締めた。そして、無理やりに目を閉じる。苦しい時間が過ぎ去ってしまえばいいのにと思いながら、シカマルに次に会う時は笑って居られるようにと。

 ナルトの意識が次に覚醒する時、気分はもっと最悪だった。何の夢を見たのかも覚えていないが、寝汗をかいていることからロクな夢でなかった事は確実だろう。

 倦怠感を伴う身体を無理やりに起こすと、視界に入って来たのは萌える様な真っ赤な夕焼け。

「……夕方?」

 変な睡眠をとった頭が重たい。と言うか、痛い。奥の方で鈍痛を感じる。滅多に飲む事のない鎮痛剤を飲もうとした所で、自分が何も口にしていない事に気が付く。冷蔵庫の中を見たが、牛乳の買い置きもない。

「…最悪だなぁ」

 日用品の買い物も兼ねて、外へ出るのもいい気分転換になるかもしれない。ナルトはさっとシャワーを浴びると、着替えを済ませてポケットに錠剤の薬を忍ばせる。

「一楽で味噌チャーシュー大盛りにしよっかな」

自分のご褒美にはそれくらいが相応だ。食欲がない日も、一楽のラーメンは別格のはず。好物なのだし、空っぽの腹の虫がぐうぐうと鳴り始めるに違いない。ナルトは暗い気分を引きずったまま、家の鍵をかけた。

 

 

「ナルトくん、動き出しました!」

 遠くからナルトの様子を伺っていたヒナタが無線のスイッチに手を掛ける。

『あのバカ、ようやく起きたのね〜。ヒナタ、ありがとう。もう、会場に戻って来ていいわ。後は、あの人に任せておけば大丈夫なんだし』

 無線機から聞こえるサクラの声に苦笑した雰囲気が交っている。ヒナタはふふっと笑った。

「ナルトくん、喜んでくれるといいね」

『喜ばなかったら、火影岩の上から突き落としてやるっつーの!』

 次はいのの声だ。ヒナタは無線機を外すと、背中を丸めて歩くナルトの背中を見つめた。

「ナルトくん…良かったね」

 今ではナルトは誰からも認められる存在になっている。それをナルトが自覚してるのかは分からないが、ナルトの事を考えて動いてくれる仲間も沢山いる。ヒナタがナルトの姿を見て、自分を変えたいと思った様にナルトも必死に毎日を過ごしていたのを知っているのだ。同士のような感覚と言っては、ナルトに悪いだろうか。ヒナタにとってはナルトは特別な存在だ。ヒナタは温かい感情を胸に感じながら、ナルトの誕生会の行われる会場―奈良邸―への道を急いだ。

 

 

 

 ぷらぷらと道を歩くのだが、珍しく知った顔の者と会う事はない。こんな状況は数日前にもあったなぁなんて呑気な事を考えてみる。思い返してみれば、そんな風に考える事なんて余りなかったような感じがする。

「やっぱ、オレ…寂しいのかな〜」

 誰でもいいから会いたいなんて、今まで気に留めた事もないのに。太陽が沈んでしまえば、すぐに木の葉にも夜がやってくる。賑わしく思える街灯りを尻目に、見知ったスーパーの入り口に立った所で肩にポンと誰かの手が乗せられる。

「ナ〜ルト!」

 柔らかいその声にナルトは思わず振り返った。

「イルカ先生!!」

 にっこりと笑った彼は、まるで冬の寒い日の日だまりの様だ。一番適任の「誰か」に会えた事に、ナルトは心の中で感謝する。

「買い物か?」

「うん、なんかさ冷蔵庫の中も空っぽで。牛乳飲もうとか思ってもないし。とりあえず、買い物しよっかなって」

「ふ〜ん、そっか。急いでないなら、先生に付き合わないか?」

「へ?」

 ナルトは首を傾げる。イルカにしては珍しくナルトを伺う様な口調。

「構わねえけど…?」

 イルカはくすりと笑うと「捕獲完了」と意味の分からない言葉を口にした。イルカに誘われたのは、見慣れた公園のベンチ。

「先生、一楽でも行かねえ?あのさ、今日…」

「ナルト!今日の良い天気だったなぁ〜」

 遮る様に言われてナルトはまた首を傾げた。

「なんか、今日の先生はヘンだってばよ」

 ぷうっと膨れてイルカの横顔を見つめる。自分から誘わなくても、イルカのほうから一楽へ誘ってくれるのに…いつもならば。それに、なんだかんだ言ってもナルトの話を最後まで聞いてくれる。どんなに下らない事であっても、最後まで聞いて「ナルトはバカだなぁ」と笑うのだ。

「オレ、今日は一日寝てたから天気なんて知らねえもん」

「ん?そっか、今日の夕日。すごく奇麗だったぞ?」

「それは…見た」

「なんだ、見てたんじゃないか」

「うん。奇麗すぎて、反対にむかついたってばよ」

 反面鏡。ぐるぐるしている自分の中とは反対に奇麗な夕日が眩しすぎて、理由もなく思い溜息をついてしまったのだ。

「せんせ〜…いつまでここにいるんだってばよ」

「えっと、準備が整うまでかな?」

「も〜…意味不明だってばよ、イルカ先生」

 噛みあわない会話でもイルカと一緒にいると、気持ちが穏やかになれる。だから、バイバイなんて言わない。ただ、座っているだけだけど、こうしていると嫌な事も忘れられるような気がしていた。ナルトはポケットに忍ばせていた薬を取り出す。

「ナルト、なんだ?」

「なんか、起きがけから頭痛てーの…だから薬飲んどこうとか思って」

「今もか?」

「頭の奥の方が痛い様な気がするってばよ」

 素直に口にすると、イルカの表情が曇る。何かを考え込む様なポーズを取りながら、ナルトを見つめた。

「木の葉病院行くか?」

「は?ただの頭痛くれえで、なんで病院?ってか、オレは病院なんて嫌いだってば」

「じゃあ、サクラに診てもらうか。サクラは優秀な医療忍者になって先生は鼻が高いよ」

 ナルトは唇を尖らせる。

「サクラちゃんは、今日は用事あんだって!それに、そんな大袈裟なもんじゃねえって…」

「ナルト」

 イルカはにっこりと笑った。それは、ナルトが知っている大好きなイルカの表情のひとつ。

「なんだってばよ…いきなり」

「サクラだけじゃない。ナルトも頑張ってるって先生は知ってるし、ナルトが俺の生徒で俺は鼻が高い!折れそうなくらいにな。自慢したくなるよ。アカデミーでは頭痛の種でしかなかったお前らも、立派に成長して木の葉の未来を担う大切な一部になっている」

 照れたように頭をかいたイルカをナルトは不思議な気持ちで見つめた。

「先生より、言われたオレのが照れる…」

 照れ隠しにへへっと笑うと、イルカも一緒になって笑ってくれる。

「ん?でも、お前らってオレだけの事じゃねえよな?」

「ちゃんと、ナルトも中に入ってるだろ?揚げ足取るんじゃない」

 二人の上空を大きな鳥が飛んでいく。それを見たイルカはナルトの手を取った。いきなりの事にナルトは驚く。

「先生?」

「準備完了みたいだよ」

「なにが、かんり……」

「お楽しみさ」

 ナルトが聞き返そうとした所で、煙幕がイルカとナルト二人を包んだ。思わず目をぎゅっと瞑ったナルトが恐る恐る目を開けたのは、くすくすと笑う誰かの声が聞こえたから。

 そして、目を開けてびっくりする。

「…な、なんだってばよ……?」

 きょろきょろと辺りを見回して、この場所がシカマルの家であることがすぐに分かった。襖にある鹿の絵柄には見覚えがある。それよりも、一番に驚いた事は自分の見知った顔ぶれが揃っている事だ。

「ナルト、鳩が豆鉄砲くらったような顔してるね〜」

 チョウジの呑気な声が聞こえる。

「間抜け面はいつもの事だろ〜?コイツの場合」

 キバの辛辣な言葉も普段聞きなれたもので。

「え?」

 ナルトはただたじろいでしまう。

「状況把握、できてないみたね」

 サクラの嬉しそうな声が聞こえた。

「あの、なに…なんで……」

「口寄せしてもらったんだよ、ナルト」

 イルカの声が聞こえて隣に視線を向ける。

「ほら、中忍試験でもあっただろう?逆に口寄せしてもらったって訳」

 イルカの顔はにこにこ笑顔だ。

「せ〜のっ!」

 いのの声が聞こえて、ナルトの意識もはっきりとする。爆音に近いクラッカーがナルトに向けられた。色とりどりの紙吹雪が舞う中で、ナルトが見たのは苦笑するシカマルの顔。

「誕生日、おめでと〜〜〜〜っ!!!」

 沢山の人からの「おめでとう」。ナルトはぽかんと口を開けている。

「ナルトの席はコッチよ!」

 いのに急かされて座ったのは、シカマルの隣だ。ナルトは驚きと喜びを噛みしめたままシカマルをそっと見上げる。

「どーゆう事だってばよ?」

 シカマルは首を傾げる。

「あのさ……なんで。今日は任務でいねえはずだったのに…」

「いのに、ナルトの誕生日を内緒で祝いてえって漏らしたら、こうなった」

「ナイショ?」

 シカマルは頷く。そして、ぽんぽんとナルトの頭を撫ぜた。

「ナルト、誕生日おめでとう」

 大きな青い瞳がどんどん潤んでいくのをシカマルは愛しい気持ちで見つめた。そして、ナルトの顔を自分の肩口に引き寄せる。

「泣き顔、見せるんじゃねえよ。俺意外にはな…」

 鼻をすする音が聞こえる。そして、ナルトが頷いた気配を感じた。

「なんか、こんな大仰な事考えてた訳じゃねえんだけどよ。知らない内に大事になってたんだよな」

 瞼を腫らしたナルトはくすりと笑うと、うんと頷く。

「滅茶苦茶嬉しいってばよ!」

「お前が、俺の誕生日祝いてえとか言ったし…俺もな。柄にでもないこと考えちまった」

 ナルトの前にいのが現れる。もちろんその手には酒瓶が握られていた。

「飲みなさいよ〜ナルト!飲んでる?楽しんでる?」

 テンションの高いいのは、笑いながら空になっているナルトのグラスに酒を注いだ。

「も〜大変だったのよ?」

「ありがとだってばよ、いの。すげえ嬉しいってば!」

「何が大変って、この男よ、コイツ」

 いのはシカマルを指差すと、ふふっと笑った。

「癇癪起こす寸前だし、宥めてすかして今日まで来たって訳。すぐにシカマルが拗ねちゃうから大変だったんだからね」

「シカマルが、拗ねる?」

 ナルトは復唱してシカマルに視線を移すと少しだけその頬が赤い。

「おい、いの。酔っぱらってある事ない事言うんじゃねえよ!」

「あっら〜。ない事?ある事だらけの事しか口にしておりませんけど?」

「いの!」

 それから、次々とナルトの前に仲間が姿を現す。ナルトには良く分かっていなかったのだが、「色々と大変」だったのだそうだ。シカマルと会えなかったのも、今日の為だとキバに言われ赤面してしまった事は言うまでもない。今までの「苦労」をサクラに愚痴られ、それでも嫌な気持ちにはならなかった。こんなに嬉しい誕生日は生まれて初めてだ。それも、考えてくれたのがシカマルだと言う事が一番嬉しい。

 和室の襖が取り外され、大広間状態と化した部屋の中には同期以外の仲間の姿も見える。視線が一瞬だけあったカカシにはグラスをひょいっと上げるポーズでお祝いをされた。途中参加だと言う、ガイやネジ、リーにテンテン。ヨシノやシカクも大袈裟な抱擁でナルトを驚かせた。その隣ではシカマルが苦虫をつぶしたような顔をしていた事を知らない。

「やっぱ、おばちゃんの唐揚げサイコー」

 そして、目の前にある大きなホールケーキ。

「予約、してくれたんだってば?」

「当たり前だろ?予約しねえと、用意しねえっていうんだからよ」

 シカマルはナルトの質問に終始照れたような表情を見せている。くすぐったいような感情が胸に溢れた。

「なぁ、ナルト〜」

 すっかり出来あがっているキバがへらへら笑いながらやってくる。

「楽しんでっか〜?飲み会」

「キバ…だから、ナルトの誕生日を祝う会だっていってるじゃない」

 その隣ではチョウジがにししと笑う。

「でも、久々にみんなで大きな悪戯してるみたいで楽しかったよ。ナルトも楽しんでる?」

 ほっぺたが赤いのはチョウジも酔いが随分と回っているからだろうか。

「うん!すっげー楽しい“飲み会”」

「シカマル、ナルトが喜んでくれるかどうかすっごく心配してたんだよ?」

「おい、チョウジ!それ以上言うなよ!」

「あ〜シカマルが照れてる〜…珍しい事もあるんだねぇ。やっぱ、ナルト効果ってすごいや」

 キバとチョウジが行ってしまうと、ナルトはちょいちょいとシカマルの袖を引っ張る。

「なんだよ?」

「オレ効果?」

「…かもな」

 にんまりと笑ったシカマルはナルトのよく知っている策士の顔付き。そのナルトの手に、シカマルの指がそっと絡まる。

「シカマル?」

「盛り上がってるとこで抜け出すぞ、ナルト」

「え?抜け出すって…」

 訳の分からないナルトにシカマルは、後からそっと部屋を抜け出すように指示すると先に席を立ってしまった。ナルトはトイレに行くふりをして席を立った。外で待っているシカマルの元へ小走りに急ぐ。

「シカマル!」

 シカマルの指がそっとナルトの唇に当てられる。

「シッ、静かに……あいつらに気が付かれるとめんどくせえからな?」

 嬉しくてつい声が大きくなってしまっていたようだ。昼間はまだ汗ばむ時もあるというのに、外気温は思ったよりも低い。

「秋なんだな〜って、雲見て思ってたってばよ。でも、やっぱ寒いなって感じるって事は秋なんだよな?」

「雲?」

「シカマル、雲見るの好きじゃん。なんでって聞いたら、雲も色々って言ってたから、本見てみたんだってばよ。そしたらさ、雲にも色んな呼び方あったり形あったり、面白れーなって思った」

「そっか。俺はそんなめんどくせえ事考えながら、雲見てねえけどな」

 自然とシカマルはナルトの手を取る。些細な事に喜びを感じながら、ナルトはシカマルを見つめた。奈良邸から抜けだした理由を今でも教えてもらえない。

「どこに行くって、隠してる訳じゃねえし…お前だって嫌でも気が付く」

 そう言われて特に気にもせず頷いたのだ。ただ、シカマルと一緒に居られると言うだけで嬉しい。今まで感じていた違和感は考え過ぎではなく、ズバリそのものだったのだとサクラやいのの話から想像する事が出来た。何より嬉しいのは、シカマルが自分の事を考えてくれていた事。それだけで気分が上昇する。

「シカマル」

「ん?」

「好きだってばよ」

「…ば〜か。俺もに決まってんだろ」

 心地よい沈黙が流れる。シカマルに手を引かれながら二人で暗い道を歩いているだけなのに。特に言葉は必要もない。そして、理由もいらないような気がした。二人でいるだけで完結してしまう世界。繋がっている指先から溢れてくるのは、優しい温もりだけ。

「途中で、どうでもよくなった…」

 その沈黙を破る様にシカマルがぽつりと呟く。

「え?なんだって?聞こえなかった!」

「言っただろ?ナルト欠乏症だって……途中で、何もかも投げ出したくなったんだっての。無理するもんじゃねえな」

「無理、してたってば?」

「任務とかで会えないのはしょうがねえって諦めもつくけどな、人為的にそうされてるってのはストレスもたまるってな。俺のガラじゃなかったんだよ。きっと」

「同じ事、考えてたってばよ。オレの場合は、任務で会えないのに…なんか寂しかったけど」

 へへっと笑ったナルトの手をぎゅっと握る。

「寂しい思いさせたんだな…悪りぃ」

「あの!でも、すげえ嬉しかったし…勝手に寂しくなってたのオレだし…!」

 そう言うナルトの視界に入って来た場所は、木の葉の勇士たちが眠る―――― 墓場だ。ざっくり言ってしまうと。

「なんで、夜に墓場?」

 最近来て、背筋の凍る思いをしたナルトは近づきたくない場所の一つだ。昼間ならまだしも、何故に夜なんだろう。

「お前と一緒に、来たかったんだよ」

「だから、なんで墓?!」

「ホラ、付いてこいよ。怖くねえし、幽霊も出ねえ」

 シカマルは火影に夢枕に立たれた事はナルトに言わない事に決める。怖がりの彼の事だ。そんな事を言ったら、回れ右してダッシュして行きそうな雰囲気がある。渋るナルトの手を引っ張って、墓の奥に連れて行った。そこは歴代の火影の眠る、木の葉の象徴的な場所だと言える。

「手、合わせようぜ」

「シカマルのやりてえ事、分かんないってばよ…」

 ナルトはシカマルに習い、膝をついて手を合わせた。暫くして、チラリとシカマルを伺うと彼は真剣な面持ちでまだ手を合わせている。

「シカマル、煙草…持ってる?」

「ああ」

「この間さ、火影のじいちゃんに言ったんだよな〜。今度はシカマル連れて来るって。オレ、煙草とか持ってねえし」

 シカマルは愛煙家だった三代目火影の笑顔を思いだす。成程だと思い、煙草に火を点けると墓前に置く。

「花は…今回も忘れちまったってばよ。ゴメン、じっちゃん」

 ナルトの笑う姿を見て、シカマルも口元に笑みを乗せる。シカマルが腰を下ろすと、ナルトも隣に座った。

「なぁ。意味、教えてくれるよな?どうして、ココに来たのかっての…」

「簡単な事だっての」

「え〜…オレには難しくて、分かんねえもんっ!」

 シカマルはクククっと笑った。

「今日がお前の誕生日って事は、四代目火影の命日だろ?」

「え…?」

 生まれたばかりのナルトに九尾を封印した四代目火影は、ナルトの父親でもある。そして、力の全てを使った火影・波風ミナトは絶命したのだ。

「俺は……上手く言えねえけどな。きっと、お前を残していく事に悔いがなかったかってのはないと思ってる。だから、命日くれーよ…お前が元気でやってるって、俺が言いたかったんだ。お前の幸せにしてる顔を親父に見せて、無理やりにでも納得してもらうしかねえじゃねえか。きっと、文句は言い足りないくらいあるだろうしな。大事な息子の恋人が俺だなんてよ」

 シカマルの言葉が気持ちが嬉しい。ナルトはそんな風に考えた事はなかった。自分の事ばかり考えて、両親の事を思う事はなかった。

「そっか…命日か」

 シカマルはナルトを見て驚いたように目を丸くする。

「お…おい!泣くなよ」

「嬉しいからだってばよ。オレの事だけじゃなくて、父ちゃんの事も考えてくれるなんて…すげえ嬉しいじゃん。オレがシカマルを好きになったの、父ちゃんは分かってくれるってばよ」

「だといいがなぁ…」

 視線が絡まる。指先も絡まる。ナルトがそっと瞼を閉じたのが合図になって、シカマルの唇がナルトのそれを塞ぐ。今まで二人を隔て居た透明な壁がさっぱりとなくなってしまっているようだ。深くなる口付けに、熱い舌を絡め合って抱きしめ合うのもとても自然で、身体は熱くなり心は温かくなる。

「シカマル…」

「ナルト、生まれてきてくれてありがとう…」

 背中に回した腕で、彼の身体を抱き寄せる。

「ん…っ、あ…」

「さすがに親父さんの前では、これ以上無理」

 おどけたように笑ったシカマルの胸に額を埋めたナルトは「ありがとう」と囁いた。

 

 

 少しだけ抜け出したつもりだったが、急いで奈良邸に帰った時にはいのはオカンムリであった。

「あのね〜…お楽しみは取っときなさい!」

「悪りぃ悪りぃ…」

「シカマル、ちっとも悪いなんて思ってないじゃないの!主賓が居なくちゃ、ケーキも食べれないでしょ〜!」

 ナルトが居なくなった事に気が付いたのが「ケーキ」だったとは、シカマルは思いつかなかった。

「たらふく呑んで食っても、ケーキは別腹ってやつか?いの」

「うるさ〜いっ!」

 むくれたいのの前にヨシノが現れる。

「ナルトくん〜探したわよ!はい、これ。届いてたから」

 ヨシノはご機嫌だ。二つの包みを貰ったナルトは首を傾げる。

「おばちゃん、なんだってば?」

「誕生日に届くんですもの、プレゼントじゃないの?」

「あ、そっか…」

 ナルトが慌てて宛先を見る。それを一緒に覗きこんだシカマルがふっと笑った。

「我愛羅か。風影様も、お前にゃマメだな?」

「……我愛羅は友達なんだってばよ!」

 いつもならアパートに届くはずの物がどうして、奈良の家に届けられたのかは考えたくない。そして、もう一つを見る。

「差出人がねえよ…」

「開けてみたらどうだ?」

 シカマルの言葉に頷いて、その包みを開ける。だが、中に入っている小さな箱の中身はからだったのである。肩透かしを食らったようないのは、「つまらない」と言うと誕生祭会場に戻って行ってしまう。

「あらあら、入れ忘れたのかしら。プレゼント…?」

 ヨシノは首を傾げているが、ナルトには差出人が誰なのかピンとくるものがあった。こんな厭味な事をする奴を一人しか知らない。

「こんな事をする奴を俺は一人だけ思い当たるな」

「ええ!」

 ナルトは自分の心の中を読まれているのではないかとドキリとする。

「まぁ、その話はゆっくり“二人で”しようぜ?」

 にやりと笑ったシカマルに、ナルトは無理に口角を上げてみた。

「…ゆっくり?」

「時間はたっぷりあるからな」

「そうそう、夜は長いわよ?ナルトくん、戻りましょう?」

 ふふっと笑ったヨシノにナルトは脱力してしまったのは言うまでもない。なにはともあれ、最高の誕生日になった事に変わりないのだし、目の前にシカマルが居てくれるのだからそれでいいのだ。

 ナルトはシカマルの手を取る。

「ケーキ、食うってばよ!」

 満面の笑みをみたシカマルは嬉しそうに笑う。それを見たナルトも、シカマルの知っている笑みを口元に浮かべた。

 

 

 

 

「シカマルはいい奴じゃのう…」

 三代目火影の言葉にミナトはぴくりと反応する。

「うるさいです」

 ずずっと鼻をすすったミナトは膨れながら、三代目に視線を向ける。

「ナルトの目は間違っておらんじゃろ?ミナトもそろそろ諦めたらどうだ。わざわざナルトをお前に合わせに来るいい奴ではないか」

「…親の前でキスするような奴に、ナルトは渡せません!」

「まぁまぁ三代目、四代目は首を縦には振らんだろうから放っておくのが一番だ!」

「先生っ!」

 ミナトは現れた自来也も睨みつけた。

「私の息子なんですのも。その目に狂いはないのよ?」

「く…クシナ!?」

「そうでしょ?ミナト」

「俺の息子でもあるんだし、そんなの当たり前だよ」

 クシナと言い合いを始めたミナトを見た自来也は苦笑しながら、三代目に酒を進める。

「犬も食わないものを見るより、酒でも」

「うん、それは尤もじゃ…」

 アイコンタクトを取った二人は、ミナトとクシナを背に杯を交わしたのだった。

 

 

 

end

 

 

 

 

 

ATOGAKI

な…長かったです。やっとラストだ〜!

どうでしょう?あの一応、ハッピーバカップルな感じで終わらせてみた感じなんですが。

入れたかった事は全部入れました!

最後までお付き合い頂きましてありがとうございました〜

終わらないんじゃないのかと、途中本気で挫けましたが()

それを支えて下さったのは、これを読んでくれているアナタです★

心からの感謝をvv(*^_^*

そして、やっぱり思う事は「二度とこんな事やらね〜!!」って事です(^^

最後まで読んで下さりありがとうございました。