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ENDING 10月9日
気分が重たい。休日を終え、体力的には万全と言えるはずなのだが。精神的にはちっとも晴れていないのだ。林を抜けて整備された道を歩いているが、目前には険しそうな森が広がっている。 「ちょっと、シカマル〜。眉間にシワよってるわよ?」 良いのか悪いのか、今回の任務はいのが一緒である。 「うるせえよ」 「わ〜機嫌わるっ!もう、可愛い後輩たちがびびってんじゃないの。にこやかにしろとは言わないから、普通にしてよ普通に」 「…悪りぃ」 不機嫌の理由なんて、いのには分かっている。分かっていて楽しんでいる節があるのだから、シカマルからしてみれば溜息しかでない。 「やっと、明日よね〜」 いのは伺うようにシカマルに話しかけた。シカマルは曖昧に返事を返しただけだ。いのが言っている明日とはナルトの誕生日の事である。 「なによ。もっと、嬉しそうな顔しなさい」 「疲れてんだよ」 「あっそう。私もすご〜く疲れてるわよ?」 「有難くていのに足向けて眠れねえな」 「ほんとにシカマルって……厭味っぽい」 シカマルからしてみれば、厭味の一つも言わせて欲しい心境だ。自分が始めた事だとしても、こんな大掛かりなものになるなんて誰が予想しただろうか。ナルトに秘密にして、仲の良いメンバーを集めて誕生日を祝ってやろう…くらいの気持ちだったのに。気が付いた時には、盛り上がってしまった外野たちを止める術はなくなっていた。 「ま、シカマルにそこまで喜んでもらえたら、私も憎まれ役を買ってでた甲斐があるってもんよ!」 握りこぶしを見せられたシカマルは、ふっと笑うと不器用な(でも、友達思いの)幼馴染に肩をすくめて見せたのだった。 休憩がてら、近くの茶屋へ寄る事になった。シカマル的にはそんな事よりも、さっさと任務を終えて帰りたいのだが、後ろから付いてきていた後輩の顔が緊張で強張っているのをみて了承した。いの曰く、シカマルの不機嫌そうな態度が原因だと言う。 「ったく…なんだってんだ」 人並みに不機嫌になる事だってあるのだと逆切れしたい気分だ。それでも、団子と茶をすすっている班員たちの顔を見て、シカマルも少し反省する部分もあった。公私混同しない自信があったはずなのに、今日の自分は完全に自分のルールを破っている事になる。いののフォローがなければ、最低な気分で里に帰ることになったかもしれない。 すっと立ち上がったシカマルにいのが驚いたように声をかけてくる。 「タバコ、ちょい吸ってくる。いいだろ?」 「あ、…うん。別に構わないけど、いきなりどっか行こうとするんだもん。びっくりしたわよ!」 「悪りぃ、悪りぃ…」 今日はいのに謝ってばかりだ。くすりと笑ったいのの視線がシカマルを飛び越えて一点で止まった。シカマルもそれにつられる様に振り返る。 「…ちょ、最悪」 二人の視線の先には、任務帰りだと見てとれるカカシ班ご一行様が居たのである。
「奇遇だね〜ぇ」 にこにこと笑うカカシに、いのとサクラは不満そうな顔をしている。 「カカシ先生。私たちの邪魔しようとしてませんか?」 「まっさかぁ〜。ンな野暮な事する訳ないデショ?」 「「してる!!」」 いのとサクラの声が重なる。そして、むすりとしながら見つめた視線の先にはシカマルとナルトがいた。 「も〜すれ違い大作戦が!」 「ん〜…でも、サクラ。ナルト見てる分には十分に成功して見えるんだけどねぇ。センセにはさ」 「え?」 カカシはナルトの元気がない原因がシカマルと会えない事だけだとは思えないのだ。いつもの彼らしくない。その事には、ナルトの隣に座るシカマルも感じているのではないだろうか。 ナルトは言葉少なめに、皿にある串団子に手を伸ばしている。 「最近、調子どうだよ?」 「…最近って。ついこないだ会ったじゃん!」 そう言われてシカマルも「そうだったなぁ」と返す。一日が異様に長く感じてしまうのだ。会えないのと、会ってはいけないの違いは雲泥の差だとシカマルは思う。 「…なんかさ」 「ん?なに…」 「一日会えねえだけで、こんなに辛いとか思わなかったって感じなんだよ」 シカマルの言葉にナルトは返事を出来ない。どう答えていいのかわからないのだ。会いたかった筈のシカマルを目の前にして、本当は言いたい事もたくさんあるはずなのに。口にするのは任務の事や、天気の事や…本当に下らないことばかりで。一番話したい事を口にする事は出来てなかった。 「おいおい、ナルト。ここは笑うトコだぜ?黙られると、反対に俺が恥ずかしーだろ…」 「笑えねえもん…」 「ナルト?」 シカマルは考え込む。ここで鉢合わせしてから感じていた違和感。それを無視しようとしていたのだが、なぜだがそうしてはいけないような気がしてきた。ナルトが真っ直ぐに自分を見てこない。気になってはいたが、明日になれば全ての誤解が解けるのだと自分に勝手な良い訳を言い聞かせていた。 シカマルは湯呑に伸ばした筈の手で、ナルトの手首を掴む。 「いの!」 サクラと雑談していたいのが、不思議顔で振り返る。 「ちょっと、外す」 「ええっ!シカマル?」 立ち上がったいのは抗議の眼差しをシカマルに向けてきた。 「カカシ先生、悪いんすけど…少しだけ、こいつ借りてもいいっすかね?」 「いいよいいよ〜。ウチは帰りだから、そんなに急いでないしねぇ。シカマルんとこに支障ないなら煮るなり焼くなり好きにしなさいな」 カカシの言葉に呆然としたサクラはあんぐりとしたままカカシを見つめる。 「お…大アリ!シカマル、休憩はもう終わりよ」 「いの。5分くらいで戻ってくる」 シカマルの真剣な眼差しにいのは渋々頷くしかない。 「……シカマル。早くしてよね!“明後日”までに、帰って来られなくなるわよ〜」 いのはナルトに聞かせるように態と大きな声を出す。明後日までなどとは大ウソだ。今日中にでも帰って来られる任務内容。シカマルはいのの言葉の意味をすぐに理解する。ナルトには明日、シカマルが木の葉にはいないと言う事を意識づけたいのだ。 「…ったくよ」 シカマルはナルトの腕を引っ張る。 「行くぞ、ナルト」 「あ…でも、いいのかって!いのはああ言ってるけど…」 「関係ねえよ、これくらい。俺がすぐに挽回すっし問題ねえの」 急かされたナルトは自分を睨んでいるいのに早々と背中を向けた。カカシは何故かご機嫌で「ごゆっくり〜」と手を振っている。 シカマルの背中を見つめる。茶屋からはそう離れていない、それでいて道から外れた森の中に連れて来られたナルトは一言も口を聞けないでいる。くるりと振り向いたシカマルがいきなりナルトを抱きしめた。 「…シカマル?」 驚いたナルトは一瞬身じろいだが、シカマルの声を聞いて落ち付いたように腕の中に収まる。 「今は少し…黙ってろって」 「ん…」 シカマルに抱きしめられて彼の温もりを感じる。数日前にもこの温もりを感じていたというのに、人間とは本当に貪欲な生き物なんだろう。特別な言葉を交わさなくても、抱きしめ合うだけで言葉にできない何かが伝わる様な気持ちになる。 「ナルト欠乏症」 「へ?…なに言ってんだってば?」 腕の力が弱まってシカマルの身体が離れた。顔を覗きこまれて、優しい笑みが浮かぶ。 「そのナントカってのなんだってばよ?」 「俺の中で、ナルトが足りてねえって事」 「オレ…?」 自分を指差したナルトは言葉の意味を理解したのか真っ赤になって俯く。 「お…オレも、シカマル足りてねえよ…」 小さな声で答えたナルトにシカマルはくすりと笑った。そして、もう一度抱きしめた後ナルトの唇に自分のそれを当てた。触れるだけだっただけの口付けが、すぐに深いものに変わる。 「シカ…マ、ん…っ」 ナルトの言葉すらも全て飲み込みたくて、シカマルは熱い舌を絡め取った。一瞬、いのの激怒する顔が頭に浮かんだがすぐに消えてしまう。今は…今だけは、目の前にいるナルトの事だけ考えたいのだ。彼だけで心を埋め尽くしたい。 それはお互いが心のどこかで感じていた事なのかもしれない。言葉もなく、聞こえてくるのはさわさわと葉を揺らす風の音と、口付けの合間に漏れる水音に似た音だけ。 ひとしきりキスを繰り返した二人が、言葉もなくお互いの顔を見つめ合う。 「足りたってば?」 「ば〜か、こんなんで足りるかよ」 「はは…オレも同じみてえ」 シカマルの優しい笑みを見て、その温もりを感じて、ナルトの中に湧き上がった思いをぐっと抑え込む。言いたい事の一つを思いだしてしまって気分が落ち込んでしまったのだ。 「シカマル、今回の任務…長くなるみてえだな」 「あ?…ああ」 いのの言葉を思い出したシカマルは心の中で舌打ちする。ナルトの前では、明日彼の誕生日だと言う事を「忘れているふり」をしなければいけない。 「気を付けて行ってくるってばよ!」 精一杯の笑顔をシカマルに向けたナルトはピースサインを作る。シカマルは何とも言えない罪悪感に苛まれた。 「ナルト」 「ん?なんだってばよ、そんな怖い顔しちゃってさ」 「そうか?」 ナルトは自然にシカマルの腕の中からすり抜けると、地面に腰を下ろした。金色のつむじを見つめたシカマルは、先程感じた違和感を思いだす。 「ナルト…」 呼んでも彼の顔がシカマルに向けられる事はなかった。手元の雑草をぶちぶちと抜いているナルト。シカマルは、ああ…と思った。簡単な事だったのだ。感じた違和感の正体はすぐに確信に変わる。 シカマルはナルトの隣に腰を下ろす。何かに迷うように地面に視線を向けているナルトはシカマルを見る事はない。ふうっと息を吐いたシカマルは空を見上げた。木々の向こうにある青い空。 「…なぁ、ナルト。お前が俺の事を真っ直ぐ見ない時は、俺に何か隠してるか後ろめたい時だ。今はどっちだ?」 「…そんなんじゃ…」 うろたえた声色で、シカマルは自分の言っている事が間違いでないと言う事に気が付く。じっとシカマルに見つめられたナルトは、バツが悪そうにそっぽを向く。 「今は、言いたくないってばよ」 「そっか」 「うん…」 ナルトはこれから任務に当たるシカマルに余分な心配をかけたくない。本当ならば全てをぶちまけて楽になってしまいたかった。でも、シカマルに抱きしめられて彼の心を肌で感じる事で、何か安心してしまったのも本当だ。彼に次に会う時は、冗談話的な昔話にして笑えそうな気がした。 「ナルト」 「もう、なんだってばよ。何回も呼ばなくても、聞こえてるっての!」 シカマルはククッと笑う。それから、ごろりと寝ころんで瞼を閉じた。 「好きだぜ、ナルト。これが俺の気持ち…」 「シカマル?」 「リーに…」 「ゲジ眉?」 「ああ、お前が寂しそうにしてるって言われたからな」 ナルトはどきりとする。そっと伺ったシカマルは目を閉じていた。その横顔を見つめて、彼の事が愛しいという気持ちが溢れてくる。 「……シカマル」 寂しそうにしている。そう言われたのは、リーからだけではない。サスケにも同じような事を言われた。 「違うってばよ」 「寂しい思いをさせてんのは、俺なんだよな?」 「シカマル!違うって…… ――――― 」 器用に片目だけ瞼を上げたシカマルは、ナルトが自分を見ていることにニヤリとした。不意にあった視線からナルトは逃れる事ができない。 「それくらい、俺を自惚れさせてくれよ。俺がいねえと、お前は寂しいんだってな」 ナルトの頬が瞬時に真っ赤に染まった。 「同じだぜ、ナルト。お前が居ねえと俺は寂しい。もっと、自惚れてくれよ…お前も」 衝動的に全てを口にしたくなったナルトはきゅっと唇を噛みしめる。我慢してしまった事に意味はない。シカマルの言葉には、今感じた気持ちを信じろというメッセージが込められている気がして、それを裏切りたくなかった。ナルトはシカマルの手を探すとぎゅっと握る。ぴくりと反応したシカマルもナルトの指を自分の指に絡めると握り返してくる。 「あ〜あ、タイムリミットか…」 シカマルがしょうがないと言う様に起き上がった。シカマルを呼ぶいのの声が聞こえる。 「軽く5分は超えたってばよ」 二人して顔を見合わせてくすりを笑い合う。 「キスする時間くれえあるかな?」 ナルトの言葉を聞いたシカマルは、大切な恋人の唇を乱暴に奪ったのである。
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本当はact10にあたるのでしょうが…
あえて、ENDINGに分類しました。
まだつらつらと続きますよ(笑)
途中で切る予定はなかったのですが、場面がコロコロ入れ替わるので。
キリのいいところで切ってみましたよ。読みやすさ重視。
なので、ENDINGパート1って感じですね。
ちょっとだけ浮上した感じのナルトです(*^_^*)