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BITTER SWEET 

 

 

 片手でナルトを抱えながら、片足でドアを閉める。

「…よく寝てんな?」

 小さな声で呟いてから、顔を覗きこむ。伏せられた瞼の奥にはきっと大好きな青色がある。自分だけを映してくれる、青い瞳が。今日は非番だったのだろう。ラフな格好に、額当てはされていない。アルコールを口にしている所為か、ほんのりと頬が赤い。今日はアパートに寄ると言ってあったはずなのに、彼が部屋に居なかった事が気にかかった。それでも、タイミングが悪いだけでコンビニにでも行っているのだろうと思っていたのに。

 不意にリーの言葉が頭をよぎる。

 

『ナルトくん。何か寂しそうでした。寂しそうに、雨に振られていたんです』

 

 夕方から数時間降った雨はもう止んでしまっているけれど。その冷たい雨に何故打たれていたのだろう。昨日は機嫌良さそうに見えたと言うのに。…とは言え、なんとなくナルトの感じているものを分かってしまう。むず痒いような感覚。大雑把に見えて、本当は人の気持ちや感情など人一倍に敏感な所がある。それと、最近の情緒不安定が重なっている事が心配だった。

 ナルトが自分を内緒で喜ばせようとしていたように、シカマルもナルトの喜ぶ事をしてやりたかっただけだ。今では、それが良かったのか悪かったのかも分からない。

 ナルトをベッドに寝かせると、布団をかけてやる。唸りながら布団に蹲った様がまるで猫のようだ。縮こまって丸くなる姿がシカマルにそう連想させた。

「ナルト…」

 ベッドの端に腰かけて、柔らかい髪を撫ぜる。それがくすぐったいのか、少し身を捩ったナルトはまたすうすうと気持ち良さそうな寝息を立て始めた。くすりと笑ったシカマルは、ずるずると床に座りこむ。そして、ベッドを背もたれにして天井を見上げた。

「…煙草吸いてえな」

 だけれど、こうやってナルトの傍にも居たい。シカマルはナルトの前では習慣となっている煙草を口にしない。以前に咳込んだナルトを見たのと、その匂いが彼に移ってしまうのが嫌だから。こんな小さな空間で喫煙行為をすれば、普段それに接していないナルトが煙たがるのは当たり前だろう。そして、逃げ場のなくなった煙がナルトの匂いを侵すのも嫌なのだ。本当に自分は我儘だと思う。

ナルトは甘えたがりの癖がある。いつも一緒に居たいから、部屋の中で煙草を吸えばいいというけれど、やっぱり首を縦に触れない。

「禁煙すっかな…」

 考えてもいないような事を口にして、ふっと笑ってしまった。寂しい思いをさせているのだろうか。ナルトに寂しい思いをさせているのは自分なのだろうか。シカマルは数日前の事を思い出す。偶然にナルトに会ってしまった夜の事だ。いのと一緒にいる姿を見て、驚愕に見開いた瞳が忘れられない。それに、昨日。本当に任務だったのかと聞かれ、心の中の点でしかない疑問が全て繋がった。ヨシノあたりからシカマルの任務の予定を聞いていたのだろう。あの日は、夕方キバにお節介な行為をされ、夜は夜で集まった仲間にうんざりしてしまったのだ。完全に面白がっている。そう思うのだけれど、ナルトの誕生日を祝うという行為自体は真剣に考えてくれているので、文句も言えないのだ。だから、一つだけ条件を出した。

 勝手に作戦なるものをたてられ、勝手に引き裂いてもらっては困るのだ。本当の所。それが、たった数日であるとしても、心構えのある自分はいざ知らず、急にそんな事に陥ってしまうナルトはどうなのだろうかと心配になった。否、裏を返せば自分がナルトなしではいられないと言う結論に達してしまったからなのだろう。狡いな、と思う。だからこそ、一日でいいから邪魔をしない日を作れという条件を出したのだ。

「せっかく、あいつらからもぎ取ってみれば…」

 ベッドの上で心地よさそうな寝息を立てているナルトに笑みが零れる。だけれど、この眠りを妨げたくないとも思ってしまう。やっぱり、自分は狡いのだ。

 シカマルはふうっと息をつくと、ナルトの眠る隣に滑り込んだ。慣れてしまった温もりを求めるように胸元に擦り寄って来た金糸をそっと抱くと目を閉じる。この瞬間にも、幸福という感情が心を満たす。だけれど、どこかで苦い思い。すれ違ってしまっているのは、生活だけではないのだろう。疑心暗鬼になっているナルトのフォローをしたいと申し出た所で、所詮は己の感情を満たす事で一杯になっているのだから。

「まぁ…いいか」

 今ある温もりを確かめられるだけで、彼の体温を感じるだけで、鼻孔をくすぐる様なナルトの匂いを吸い込むだけで、こんなに満たされてしまうのだから。シカマルはそっと目を閉じる。疲れているのは身体じゃない。きっと心だ。だから、一番の特効薬を今腕に抱いている。それだけで、安らかな眠りに誘われた。

 

 

 

 

 懐かしいような、そうでないような感覚に目を開ける。今は何時だろう。そして、自分は何をしているのだろう。ふと、昨夜の記憶を探ってみる。

「う…ん…」

 そして、ぎゅうと身体を抱きしめられる感覚にナルトは顔を上げた。間近にあるのは、誰よりも会いたかった人の顔で。ナルトは鈍器で頭を殴られたような痛みを感じた。言葉にできないくらいの後悔。公園に一人でいた所を食事に誘われ、その後の記憶は曖昧にしかない。限度を考えて呑め、と散々ネジに言われた事だけが頭の裏側の隅っこの方に残っている。そんなにアルコールを口にした覚えはない。滅茶苦茶に飲んだ覚えもないのに、今の状態から考えると自分で自宅に帰って来たとは考えにくいのだ。視界の中に映るのは紛れもない自分のアパートの寝室。そして、自分のベッドに眠っている事も確か。そして、自分を抱いて眠るのは……

「シカマル…?」

 小さな声で呼んでみるが反応がない。ベッドの横にある大きな窓はカーテンの閉め忘れか、太陽の光が入りこんで来ていた。もぞりと動いたナルトはシカマルの胸に額を当てる。

「最低だってばよ…」

 シカマルが家に寄ると言うから早く帰宅しようと思っていたのに。なのに、である。溜息もでない。時間を無駄にしたようにしか感じられないのだ。折角、久し振りに二人きりの時間を過ごせるはずだったのに。心の中で「自分の馬鹿野郎!」と何度も叫んでみる。悲しいのを通り越して、かなり虚しい。

 じわりと目尻に涙が溜まる。それを零さないように、ぎゅっと唇を噛みしめた。

「さいてー…」

「寝起きからうるせえな」

 ナルトは降って来た声に驚いて顔を上げる。

「し、シカマル…起きて…」

「今、起きた」

「そっか…」

 眠たそうに眼を擦りながら欠伸したシカマルは、優しい笑みを浮かべてナルトを抱きしめた。

「おはよう、だろ?朝なんだぜ、最低はねえだろ、最低は」

「だって…」

 後悔先に立たずとは上手く言ったものだと思う。

「昨日…悪かったってば、せっかく…」

 ナルトの手はぎゅっとシカマルのTシャツを握り締める。シカマルのくすりと笑う雰囲気を感じる。

「悪くねえよ。いつ来るか分かんねえ俺の事、待たせる訳にゃいかねえ」

「そんなんじゃねえってば!」

 そんな風に思った事など一度もない。シカマルの手がナルトの頬にかかる。そして、顔を覗きこんだ彼の表情が曇った。涙の跡をなぞる指。

「おい…なんで泣いてんだよ」

 少し驚いたようなシカマルの声に、ナルトは答えられない。ただ、ぎゅうとシカマルに抱きつく。もちろんシカマルはそんなナルトの事を抱き返してくれる。

「おいおい。お前を泣かせてんのは俺かよ」

「ちが…」

 否定しようと声を発した瞬間に堰を切ったように涙が溢れてくる。望んでなどいないのに、それは次々と止めどなく溢れて。そんな様子を目にしたシカマルは困ったように、それでも優しい掌でナルトの髪を撫ぜる。

「泣くなって……」

 ぽんぽんと宥める様に背中を叩くシカマルの手。その温かさにリズムに安心してしまう。

「シカマル…オレ…」

「…ったく、なんで泣き顔なんだよ」

「ごめ…」

「謝んな。すげえ、俺情けねえから」

 昨夜のリーの言葉を思い出してしまった。ナルトが寂しそうにしていたと言う事。きっと、声を掛けられずに居られない様な、そんな様子だった事が頭に浮かんでしまったのだ。最近は、ナルトにそんな顔ばかりさせている。たった数日の事なのに。挽回できないままで次のゲームが始まってしまった様な気分だ。

 ナルトはずずっと鼻をすすりあげる。

「落ち付いたか?」

「シカマルと一緒なんだから、ドキドキだってばよ」

 ぐずぐずしながらも笑いながら冗談を言ってくるナルトにシカマルの顔も緩む。

「なんか、いっぱい話したい事とかあったはずなんだけど…忘れちまったってばよ」

「お前らしいな〜」

「シカマルが居てくれるから、それでいいんだってばよ」

「ナルト?」

 しおらしい科白を聞いたシカマルは身体をずらすと、ナルトの顔を真正面から見られる位置に移動する。

「ナルト…最近、忙しくてなかなか来られねえし…悪りぃな」

 ナルトはむっと口を歪める。

「謝んなってばよ…オレが情けねえってば」

 そんな事はいつもの事で、そんな事はお互いの立場を理解すれば当たり前の事で。

「しゃーねえだろ?俺だって寂しいんだぜ」

「シカマル…」

 意外な言葉を聞いたナルトは目を見開いてシカマルを見つめた。

「はは…実を言うと、オレも寂しかったんだって。よく分かんねえんだけど、なんか寂しかった」

 ナルトはにこりと笑う。

「なんだよ、過去形か?俺は現在進行形だぜ?」

「だ…だって、オレらしょうがねえじゃん!仕事とかあるし、それに……んんっ!」

 精一杯の強がりを見せるナルトの唇を奪う。強張った身体から力が抜けて、シカマルの舌が甘い熱を絡め取る頃にはナルトの腕もシカマルの首に回っている。言葉では伝わらない感情もなにもかも、溶けてしまえばいいのだ。一つになる事はできないけれど、分かりあえる事はできる。

「シカ…マ…」

 何度も何度も口付けを繰り返す。息をする暇も与えないようなそれに、ナルトが先に根を上げた。ふるりと震えた指が、ぎゅっとシカマルの上衣を握り締める。

「は…ぁ…」

 解放されて呆けているナルトの頬に、もう一度唇を落とす。

「なぁ、ナルト」

「ん?」

 ぴったりとシカマルにくっついて、その体温を感じていたナルトが現な返事をする。その様が可愛くてしょうがない。

「なんか、めんどくせー事になっちまってよ……色々忙しい感じなんだわ」

 まるで他人事のように呟いて、溜息をつく。

「それは…しょうがねえってばよ。うん…しょうがねえの!」

「そう思うか?」

 ナルトはこくりと頷いた。

「シカマルと一緒だと、不思議なんだってばよ。頑張れるってか、なんてーか…上手く言えねえんだけど。わかる?」

「ま、なんとなく?」

「ちょっと後ろ向きになってたってか、凹んだりとかしても復活するのがオレだから。オレが、シカマルを寂しくさせねえようにしてやるってば」

「頼もしいこった…でも」

 シカマルはしっかりとナルトを抱きしめる。

「今は甘えてろ。次は俺が甘えるからな」

 くすりと笑ったナルトは、ほわりと温かい感情が心に生まれたのを感じる。

「うん…」

 そして、そっと目を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり、すれ違い〜な感じのシカナル。

なんか、久し振りに二人を書いた様な気がする。

勘違いではないよね…本当に久し振りだ〜(*^_^*

やっと、作中10/6ですよ!あと、4日でナルトの誕生日まで行きつける!

山あり谷あり…なんだろうけど(笑)