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在処

 

 

 最初から意見が相違していたのだ。

 シカマルとナルトは一緒に歩いているけれど、一言も言葉を交わしていない。

 シカマルはナルトの強情さに、ナルトはシカマルの強引さに怒っていたのだ。仲良く二人で買い物に出かけた数時間前とは反比例する雰囲気が、ますます二人の気持ちを落ち込ませていく。

 たまの休み。それも、同じ日に休みになるなんて事は滅多にない。だから、僅かな時間でも大切にしたい気持ちはある。シカマルはちっと舌打ちした。

「ナルト、着いたぞ」

「見ればわかるってばよ」

 慣れた手つきで玄関にカギを差し込んだナルトは、はあっと溜息をついて扉を開けた。そして、無言のまま中に入る。シカマルは、どうしたものかと思案しながらサンダルを脱いだ。先にあがったナルトはベッドにうつ伏せになって寝ころんでいる。

「茶でも飲むか…?」

「……牛乳でいいってばよ」

 ぽつりと帰ってきた声は、まだ先程の事を引きずったままの暗い声色。

「淹れてくれよ、ナルト。ナルトの淹れた茶が飲みてえし」

 こんな時は、自分が一歩引くのが得策だと、長い付き合いの中で心得ている。ナルトは口をへの字にしたまま振り返った。

「シカマルは自分で淹れられるってばよ」

「俺は、お前の淹れたのが飲みてぇんだよ」

 シカマルは薬缶に水を入れると、ガスコンロの火を点ける。湯が沸くまで、まだ時間がかかるだろうから、本日の戦利品を大きな紙袋の中から取り出した。それを見たナルトの機嫌がまた悪くなった事に、シカマルは気が付かないふりをする。

 ナルトのアパートに存在する椅子という代物は一つ。なにかと不便を考えていたシカマルが、椅子を増やそうと言いだしたのが、買い物へ出かけるきかっけであった。ナルトもその意見に賛同したし、木の葉に点在する家具屋を見回った。だが、事件はそこで起きたのだ。

 ナチュラルなスツールを見つけたシカマルは、第一印象でそれに決めていたのだが、ナルトは首を縦に振らなかった。ナルトの家にあるダイニングテーブルに誂えたような高さも丁度よいし、座り心地もなかなかでシカマルはすぐに気に入ってしまった。だが、ナルトの意見は違ったのである。簡易的な折りたたみ椅子で十分だと言うのだ。

「お前は今ある椅子に座ればいいだろ?」

「オレの家に置くんだから、オレの意見が優先されるのがフツーだってばよ!」

 睨みあった二人は、冷や汗を垂らしている販売員を無視して散々言い合った。喧嘩というものはきっかけはちっぽけなものだったりするのだ。いつものシカマルなら、面倒臭い言い合いなんて避けていたかもしれない。もともと好戦的な方ではないし、人に逆らったり反発するのは、物事を円滑に進めるためには邪魔なプライドだと思っているからだ。だけれど、今回の事では一歩も引く気はない。それはナルトも同じだったようで、シカマルの口八丁にも負けない攻防を繰り返した。結局は、購入するのは自分だとナルトの意見を無視したシカマルが、スツールを購入してその場を去ったのだが。帰り道、文句を言い足りないナルトはむっとしたまま不機嫌をまき散らし、シカマルはそれを無視することに決めた。

 さすがに、強引だったとシカマルは反省してナルトへの態度を崩してみたのだが、ナルトにそれを受け入れる気はないらしい。鼻の頭を掻いたシカマルは薬缶の火を止めて、ナルトに近づく。

 ナルトはベッドのスプリングが軋んだ事で、シカマルが座ったのだと分かった。それでも、彼の方を向く気にはならない。

「ナルト〜」

 呼ばれて、シーツに顔を埋めた。

「いい加減、機嫌直せっつうーの」

 シカマルの口調が優しくなっている。つい先ほどまでは剣を含んだものだったが、今はナルトの事を伺うような声色に変わっていた。この時、ナルトはどうしていいのか分からなくなっていたのだ。馬鹿みたいに喧嘩をするのは疲れるし、本当ならしたくない。だけれど、今回の事では譲る気にもなれなかった。

「やだってばよ…」

 ぽつりと呟く。

「なにがそんなに気に入らねぇんだよ。他に目ぇつけてたのでもあったのかよ?」

「違うってば」

 椅子は椅子でも、折りたたみ椅子で十分だと何度も言ったのだ。シカマルが選んだスツールはセンスがいいと思ったけれど、この部屋に必要ない。

「お前に話をする気がねえなら、俺は帰るわ。これ以上、喧嘩もしたくねぇしな。お前としてもめんどくせぇだけだろ。意味もねえしな…」

 譲歩したシカマルの意見にナルトは言葉に詰まる。どうしようか迷って居ると、身体をシカマルに起こされた。ナルトはそれに逆らわない。どうしていいのかは分からなかったけれど、このままシカマルと別れるのは嫌だった。喧嘩をしていても、シカマルと一緒に居たい。それくらい、シカマルの事が好きだったりする。顔を覗きこんできた彼の表情は、言葉とは裏腹に優しいものでナルトはじいっと見つめてしまう。ナルトが好きな大きな手が、髪を撫ぜる。指先に金髪を絡めたシカマルが困ったように笑みを見せた。

「どうすんだよ?」

 聞かれて、シカマルの胸に顔を寄せる。耳に心臓の鼓動が聞こえた。とくんとくんと規則的な脈を打っている。

「いつもみたいに、するってばよ…」

 シカマルはしょうがないと言うように溜息をついた。ナルトの言う何時もの様に、というのはナルトを背中から抱きしめる態勢の事を言う。いつだったか、その時もくだらない喧嘩をした。お互い顔を見合わせたくもないが、離れたくもない。そんな勝手な感情から、そのスタイルが生まれたと言える。それに、お互いの温度を感じられる方が素直に話せたりする事もあるのだ。シカマルは自分の足の間にナルトを引き寄せると、背中から抱きしめる。前に回した手にナルトの手を絡めた。

「これでいいかよ?」

 ナルトはこくりと頷く。シカマルは自分に体重をかけてきた身体を愛しいと思いながら、抱きしめていた。

「それで?お前の怒ってる理由を話せよ。俺が勝手に買った事が、そんなに気にいらねぇのかよ」

「違うってば…」

「じゃあ、なんでムクれてやがんだ?」

 シカマルの言う事は本当だ。ナルトは「違う」とは言うけれど、何が違うかのは言わない。

「オレってば、折りたたみ椅子でいいって言ったのに…」

「なんで、あんな簡易性のもんがいいんだよ。買うならいいもの買った方がいいだろ」

「シカマルってば…分かってねぇってばよ」

「何が違って、何が分かってねえのかちゃんと説明しろ」

 ナルトはきゅと唇を噛み締める。そして、反対に質問をした。

「シカマルはなんであれが良かったんだってばよ?」

 ナルトの視線の先には、シカマルの購入したスツールがある。

「お前んちのテーブルの高さに合ってるし、派手でも地味でもねえ。造りはよくて値段も手頃だ。そんだけ」

「でも、仕舞えないってばよ…」

 シカマルは溜息をつきたくなった。ナルトは折りたたんで、仕舞いたいらしい。それに拘っていた事は知っているが、なんだかそれが悔しい。

「そんなにこの部屋に、俺の居場所があるのが嫌なのか?」

 しかも簡易性で仕舞えてしまえる簡単さは如何なものだろう。自分の存在が無視されているようで、正直カチンと来た。

「シカマルが居る時はいいってばよ。じゃあ、居ない時はどうするんだってば?」

「居ない時は簡単に仕舞える存在かよ、俺は」

「だから、違うって何回も言ってるのに…」

 ナルトの指がシカマルの手の甲に食い込む。

「バカシカ!」

「馬鹿はお前だろうが、バカナルト」

「シカマルが居ないって事、居ない時に感じるオレの気持ちはどうなるんだってばよっ!シカマルは自分の存在をこの部屋に置いてくのに、シカマルは居ないのに…そんなんオレ、やだってば」

「ナルト…?」

 意外だった。そんな事を言われるとは思って居なかったのだ。自分の存在を残したいと思ったシカマルは、自己満足の結果ナルトに与える気持ちまで考えてなかった。

「寂しいじゃん…」

「寂しいのか?」

「うん」

「お前が寂しいって思ってくれるのは、正直嬉しいけどな。寂しがらせるのは…嫌かもな」

 会いたい時に、簡単に会えない時の方が多いから。一人ぼっちの部屋にシカマルの存在を感じてしまう事が寂しい。多分、シカマルの買ったスツールを見る度に思うのだ。

彼はどうしているのだろうか、元気でいるのか、任務中なのか、笑っているのか、寝ているのか、戦っているのか、何をしているんだろう。そして、自分の事を考えてくれているのだろうか。きっと、そんな我儘な気持ちになってしまう。会いたくなってしまう。抱きしめたくなって、抱きしめられたくなって、キスしたくなって、抱き合いたくなる。

「だって、シカマルの事好きだから…気になんじゃん」

「寂しいだけかよ。俺の事考えて、寂しくなるだけなのか?」

「違う、けど……」

「俺はお前の事思う時、寂しいだけじゃねえぞ」

「シカマル?」

「ここに俺の居場所があったらいいって、簡単に思ったんだ。それに、メシ食う時も茶飲む時も便利だろうが」

「まぁ…そうだってばよ」

「お互い様だろ?きっと…」

「シカマルも寂しいってば?」

 甘えたような口調にシカマルは苦笑を浮かべる。それから、ナルトの項にちゅっと唇を落とした。

「めんどくせーこと聞いてんじゃねぇぞ。バカナルト」

 恋人に会いたくない訳がない。毎日だって、抱いて眠りたい。毎日だって彼を支配したい。それくらいの独占欲は持ち合わせている。

「そんな事考える暇がねぇくれーにしてやるよ」

 柔らかい肌に舌を這わせて歯を立てる。それから、きつく吸って所有印を残す。

「あ…」

 ナルトの声に艶が混じる。掌を移動して、顎を上げた。俯いてばかり居るナルトの顔が見たい。そして、唇を重ねた。顎を固定した事で、うっすらとその唇が開く。中から覗く赤い舌が自分を誘っているような眩暈を覚えた。貪るように舌を絡め合って、二人でベッドに沈む。

 それからは、お互いを感じ合う事で一杯になる。何度も名前を呼んで、何度も絶頂を味わい、触れない場所がないくらいに舌も掌も体中を這わせる。

 いつか形を失ってしまうものに、興味はない。壊れてしまわない感情に全てを任せて、何度も好きだと耳元に囁いた。

 

 

 

 

 ナルトは朦朧とする意識の中で、シカマルの温もりを感じる。身じろいだ事で、ナルトの意識が覚醒してきた事にシカマルも気が付いたようだ。

「ナルト…?」

「ん…?」

「考える暇あったか?」

 ナルトはくすりと笑う。シカマルは自分の胸元で空気が揺れる気配を感じた。

「なかったってばよ」

 シカマルは考えたように呟いた。

「椅子、返しに行くか?」

 この際折り畳みだろうが段ボールだろうが、なんでもいい気分になっていた。どうして、あんなに強引に物事を進めてしまったのか、その意地の源が消えてしまっている。

「行かないってばよ!あ…なんか、オレってば、なんであんなに怒ってたのかも忘れたって言うか…その、実を言うと、気にってるんだってば。シカマルっぽいなぁとか、思うし」

 ナルトはがばりと起き上がると、シカマルの顔を覗きこむ。寝そべったシカマルの胸に顔を寄せてじっと見つめた。

「寂しくなんだろ?」

「なんねぇと…思う」

「思うだけじゃ、分かんねえしな」

「……なんか、悪い方ばっかに考えちまって。でも、今は違うって思うってばよ」

「違う事?」

「うん」

 ナルトは恥ずかしそうに笑った。

「なんか、シカマルの言ってた居場所っての…なんとなく意味が分かるっつうか。別に椅子がどうのとかじゃなくって、ちゃんとオレん中にシカマルの居場所はあるんだってばよ。だから、大丈夫だってば」

 必死になっているナルトの頭に掌を滑らせる。その柔らかい髪をすくと、こてんと頬が胸に落ちた。たまに見せるそんな子供っぽい仕草が可愛いと思える。

「寝るか?」

「もったいない気がするってばよ…」

 一緒に居るのに眠ってしまうなんてと言う気持ちと、この優しい腕を感じて眠りたいと言う気持ちが交錯する。ナルトはやっぱり自分は我儘だと思ってしまう。事、シカマルに対しては特に。

「少し寝ろよ。起きたら、メシでも食おうぜ」

 それでも自然と瞼が下りてくる。ナルトが望む事が分かっているのか、シカマルの腕が身体を抱き寄せた。

 

 お互いを感じられるこの距離が、自分の居場所だと存在する場所だと感じる事が出来る。

月並みな言葉でしか言えない事が悔しいけれど。

きっと、この温もりが二人の在処。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曲識様より、リクエストいただいた「シカナルでラブラブ」だったんですが…

激しく勘違いしてるRUIの所為で、ラブラブになってるか不安です。

ってか喧嘩してるし。

いいでしょうか?いつも通り、きっとシカもナルもお互い「好き過ぎ」って感じですね。

えっとRUIの中では基本なんで、温くて甘いですが(ばかですが…)お許しください。