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act 9

 

 

 項垂れる肩にぽんと温かい手の平。

「泣くでないぞ…ミナト」

「三代目…」

「四代目とあろうものが、これしきの事でへこたれてどうするんじゃ!」

 カハハと笑った三代目火影を恨めしそうに見つめたミナトは、はう〜と溜息をつく。愛息であるナルトが何かに悩んで落ち込んでいると言うのに…

「枕元にも立つなだなんて…悲しくてたまりませんよ」

 挙句の果てに「苛めるな」と言う捨て台詞。ナルトが親を恋しいと思う年頃を通過してしまったとはいえ、ミナトはまだ完全に子供離れできていない親なのだ。産声を上げた愛しい息子と愛しい妻との、待っている筈だった温かな日々を味わう事なく昇天してしまったのだから。

「ミナト。なんだかんだ言ってお前はナルトと人生を共にしているようなものだろう?」

「自来也先生?」

 酒瓶を手に現れた恩師にミナトは不機嫌だという表情で答える。ナルトの意識の中で眠っていたのは昔の話である。

「………チクショウ、あのくそガキ」

 顔に似合わない科白を口にしたミナトは、自来也の手から酒瓶を取り上げると直接口をつけてゴクゴクとやり始める。

「自来也、最近ミナトはこの墓でひっそりとしておるんじゃ。なんと言うたかの…なぁ、ミナト?」

「ええ、そうですよ!あの何て言いましたかね?奈良のクソ坊主がナルトにオレのナルトに……事もあろうか手を出してから……」

 ミナトはうううっと泣き崩れる。

「三代目…ミナトは泣き上戸だったかのう?」

「意外とヤキモチ妬きなんじゃよ。なんせ、お前がナルトの師匠になった事にも嫉妬したぐらいじゃ」

「ほう…」

 自来也はミナトの言う「奈良のクソ坊主」の事を思い出す。嘘を付けないというか、根が馬鹿正直と言うか…良い言葉で表現すれば素直だったナルトは奈良シカマルとの仲を師匠である自分に隠せるはずもなかった。それなりにいい影響を与えていると感じた自来也はその事についてナルトに触れた事はない。なのに…である。こんな墓石の中でミナトが歯噛みしていたとは思いもよらなかった。

「しょうがないだろう?ナルトの幽霊嫌いは昔も今も健在だからのう。そこにミナトが枕元に立ってでも見ろ…あのナルトの事だ。いくら父親のお前とて許さんぞ?」

「…先生〜〜!」

「な、情けない声を出すな!全く……三代目と一緒になってこんなところでウジウジしておるから、性格まで後ろ向きになっておるのだ。視野を広く持て、視野を!だからナルトが何を悩んでおるのかもわからんのだろうが」

「え?」

 自来也の言葉にミナトは慌てたように顔を上げる。

「先生は…知っていると、そうおっしゃられると?」

「当たり前だ!墓の中で過ごすのはわしの性にはあわん。世界を飛び回り、色々な情報を収集し…」

「先生っ!」

 ものすごい勢いで自来也の胸倉を掴んだミナトは、にっこりと笑った。

「ずるいですよ?そんな楽しい事をオレに内緒なんて♪」

 笑顔の向こうに隠れる殺気に近い何かに自来也は呆れたように溜息をついたのだった。

 

 

 

 

「いいお天気ね!シカマル」

 シカマルはぼうっと瞼を開ける。母親が自分を起こしにくるなんて何年ぶりだろうか…

 開けられたカーテンから差し込む太陽が高い。

「母ちゃん…今、何時?」

「もうお昼近いわよ?シカマルが寝てるなんて滅多にない事だから起こさなかったけど、さすがにこの時間ですものね。起きなさい、シカマル!」

「……分かった」

「食事用意しておくから、顔洗ってきなさいよ。だらしない顔しちゃって…子供みたいなんだから」

 くすくす笑ったヨシノが部屋から姿を消す。シカマルはベッドの上に起き上がると、胡坐をかいたまま「う〜ん」と唸った。いくら疲れていても、こんなに寝る事は殆どない。ましてやヨシノが部屋に入って来た気配を感じることなく寝こけていた自分を不思議に思う。最近は激務の所為か神経が過敏になっている。守られる立場から、守る立場に変わった任務では気を緩ませる暇はないのだ。深い眠りに身を任せるのは、ナルトと一緒に就寝する時くらいだ。それも数時間。どこかで気配を察知する事が日常と化している毎日で、深い眠りを得る事は少ない。

「アレは夢……だよな?」

 にっこり笑った四代目火影(しかも写真でしか知らない相手)に喉元にクナイを当てられて、恨み事を言われる事数時間。内容は深く覚えていないが、あの青い瞳には殺気が満ちていた。その周りを、自来也と三代目火影が宥める様に居た事まで覚えている。

 青い瞳…それは息子であるナルトと同じ澄んだ青。そして肩にかかった金糸もナルトと同じ色。シカマルの頭の中には、四代目火影に恨み事を囁かれた事より、彼が思い出させる愛しい恋人の姿しか浮かばない。

「チッ…ツケが溜まってやがんな」

 身なりを整えながら自然とカレンダーに視線が辿りつく。ナルトの誕生日まで、後三日。三日も我慢しなければいけないのだろうか。この苛立ちに似た感情を。

 机の上の紙に手を伸ばしたシカマルは、ふっと息をついた。これはサクラから渡されたもので、カカシ班の任務予定だ。彼の誕生日である十日はもちろん休み。それまではみっちりと埋められたタイムスケジュールにうんざりした。

「今日は…他国か。帰ってくんのは明日、ね」

 そして、明日になればすれ違いのようにシカマルは火の国を離れている。まるで、態とそうなるように組まれているように見える予定。そんな事を考えた事はなかったが、これ見よがしに渡された紙を見つめているとそんな気分になってくる。

「それにしても…眠みぃ……」

 寝た気がしない。それとも見た夢が悪すぎたのだろうか?シカマルはぽりぽりと鼻の頭をかいたあと、ぽいっと手にしていた紙を放ると食事を取る為に自室を後にした。

 何故か珍しく食卓テーブルには、父親がいる。呑気そうに茶をすすりながら新聞なんて読んで居た。

「親父…休みかよ」

 どかりと椅子に腰かけたシカマルは手を合わせると、鯵の開きに箸を入れる。

「休みで悪りぃか、馬鹿息子。お天道様がこんなに高くなるまで寝こけてんじゃねえぞ、馬鹿息子」

 二度目の馬鹿息子に力を込められた事にむっとしながら、シカマルはシカクの言葉をスル―する事に決めた。

「せっかくの休みが親父と重なるなんて嬉しくもねえ…」

 本音を口にしたシカマルは熱いお茶をこくりと飲んだ。シカクは目の前でククッと笑った。

「そりゃ、こっちも同じだ」

「へぇ…珍しく意見が合うじゃねえか。雨になるかもな」

「俺はな、これから三日間休みだ、休み」

 シカマルは、ん?と首を傾げた。上忍班長でもあるシカクは何かと多忙な日々を送っている。何カ月も家を開けるなんて当たり前。ヨシノ曰く、小さな頃は時々帰ってくる父親に「おじちゃん、誰?」と真剣に聞いた息子に涙した事もあったそうだ。そのシカクがまとまった休みを手に入れるなんて奇跡に近い。

「アンタ、三日間って…」

 三日後はナルトの誕生会が奈良邸で行われる事になっている。もちろんヨシノ同様シカクもそれに参加する気が満々なのだろう。

「おうよ!男は喧嘩と祭りが好きな生き物でな」

 嬉しそうにほくそ笑みシカクに、シカマルは不機嫌な気持ちになる。ナルトが両親のお気に入りである事は十分に承知している。

「昨日の事なんだがな……」

「…ンだ?」

 急に真剣な声色になったシカクにシカマルも箸を止めた。

「夜中に召集がかかったんだよ。俺様が気持ちよく眠ってるってのによ。その理由、なんだと思う?」

「知らねえよ」

 と言うか、そんな召集がかかった事も気が付かなかった。なんだか、その事も指摘されているような気分になってシカマルは溜息をつく。

「それがよ、この木の葉に不遜な輩が侵入したって言うじゃねえか。それも、それは夕刻だったらしい」

「らしいって…」

 大蛇丸の木の葉崩し以降、木の葉隠れの里のセキュリティは強化されている。曖昧な説明にシカマルは納得がいかない。その口調からシカクも納得していないのだろうが。

「その連絡があったのが、夜中だぜ、夜中。馬鹿にしてんだろ?

――― おい、母ちゃん!新しい茶淹れてくれよ!」

 ヨシノが台所から返事をする声が聞こえる。シカマルは食事を再開させた。

「足取りはもちろん掴めて居ねえ。この里に侵入したのが夕刻辺り…としか分かってもいねえ」

「そっか…」

「夕刻の出来事を、夜中にしか掌握できてねえって事だ」

 シカクは自分の言いたい事をかみ砕いたように説明した。あまり機嫌は良くないのだろう。

「切れ者の瞳術使いか…なにか詳細は掴めん。痕跡すら残してないんだからな」

 シカマルは静かに箸を置いた。切れ者の瞳術使いだと聞かされ、その鮮やかな手際に頭に浮かんだ人物。

「…まさかな」

 急須を盆に乗せて現れたヨシノは少しも減っていない皿の中身を見て、ふうっと息を付く。空になったシカクの湯呑を取り換え、シカマルのものには新しい茶を注ぎ入れる。

「それで、親父はどう結論付けるんだ?」

「どうもこうもねえよ。…夜が明けるまで労働したってだけだ。日向家の者とも一緒にトラップが仕掛けられてねえかの確認も済んでる」

 木の葉の里全体の踏査を夜が明けるまでに済ませてしまったのはシカクの力量を示している。

「手の込んだ事してるわりには、その理由は解明できてねえのか」

「そう言う事だ、馬鹿息子」

 痛い所を突かれたシカクはむすりと答えた。

「お父さんもシカマルも、そんなに難しい顔してないで!何もなかったのは良い事でしょう?」

「まぁ…そうだな」

 何かあってもらっては困るのだが。シカクの機嫌が悪そうな顔はやはりどこかで納得できていないような顔つきだ。

「シカマル、最近疲れてるの?」

「別に、普通」

「そう?あなたがこんな風に寝てる事は珍しいから心配しちゃったわよ」

「ああ…」

 シカマルは、夢の事を思い出す。悪夢とまではいかないが、目覚めのよくない夢。

「なんか、変な夢みたんだよな…よくわかんねえけど、三代目や自来也様も居た様な気がするし」

 四代目火影にクナイを突きつけられていた事は内緒だ。少し自分が情けない。

「やだ!シカマル、それって夢枕に立たれたって事じゃないの?それも歴代の火影様や自来也様だなんて…最近、アスマ先生のお墓参りにも行ってないでしょう?あなた、今日にでも手を合わせてきなさい」

「はあ?!」

 ヨシノに言われるまで、「夢枕に立たれた」という意識はなかった。恨み事を言いたい様な四代目の笑顔(しかも、瞳はちっとも笑っていない)だけは、瞼に焼き付いているのだが。シカマルが四代目に恨み事を言われる原因として考えられるのは只一つだ。ナルトの事…しかない。一人息子のナルトの恋人という立場を確立した時点で、父親である彼には面白くないはずである。

「何言ってんだ、母ちゃん。人様っつうのはな、死んだら千の風になるって歌にもあるじゃねえか!墓石の下で大人しく眠ってる訳ねえだろ?ましてや、歴代の火影ともなりゃ…」

「いや、父ちゃん。歴代火影を浮遊霊にするのもどうだよ?」

「お父さん!それなら、尚更でしょう?何かシカマルに伝えたかったとも考えられるし」

 真剣な顔つきになったヨシノを目線だけで確認したシカマルはうんざりしてくる。伝えたい事……。あの恨みがましい四代目の目つきはそんな物ではなかった。脅しに近かったような気がする。

「はは…」

 確かにナルトの幸せを奪う事になれば呪い殺されるかもしれない。

「冗談じゃねえぞ……」

 シカマルは深い溜息をつきながら温くなった茶をすすった。

 

 

 

 

「満足そうだのう、ミナト」

「そりゃそうですよ!俺とした事がどうして今まで気が付かなかったんだろうって感じです」

 機嫌のいいミナトに自来也は呆れてしまう。

「死人が人の枕元に立つのに、恨み事はあるか!恨み事とは…情けない」

「まぁ、ミナトの気が晴れたならそれはそれで……」

 うきうきと自分のクナイを手入れするミナトを尻目に、三代目火影が溜息をつく。それをずっとシカマルの首に当てながら延々とナルトとの仲にケチを付け続けたのだから。本当に殺してしまうかと思うくらいの勢いに、三代目と自来也が慌てた事は言うまでもない。

「あ…そう言えば、なんですっけ?言い忘れた事があったんですけど…まあ、いっか♪ 楽しかったし、気晴らしにまた行こうっと」

「うちはサスケの事だろうが!肝心なナルトが悩んでおる原因すらシカマルに伝えておらんとは…」

「まぁまぁ…三代目。この世の事にあの世の人が口を出すのも乙じゃありません」

「…ミナト」

 自分の都合のいいように解釈したミナトは、絶対にまた奈良のクソ坊主の枕元に立つと決めてうきうきした気分でにっこりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと、三代目とミナトを出せました!

ってかね、act8の時点で一応出てます()ナルトの脅えは勘違いではなかったのでした★

奈良一家を書いてなんか楽しかった〜\(^o^)

後少しだよ〜後少しで、ナルトの誕生日だ!

いつまでの10月…って状態を打破できる…(/_;)