FX

 

 

 

act 8

 

 

 サイと別れたナルトは、自室でベッドにうつ伏せで寝転がる。サスケの事を誰かに話したい。

「違う…」

 誰かじゃない。本当は決まっている。話したい相手は只一人しかいないのだ。サスケが自分の事を好きだと、必要だとはっきりと告げてきた。だけれど、ナルトの心の中にいる好きな人(きっと、サスケの言う意味で)は一人しかいない。

「シカ…」

 この事を話したら、シカマルは何て言うだろう。ナルトはぎゅっと抱きしめた枕を抱く腕に力を入れる。迷ってなんかいない。誰かの手の取るならば、その手は決まっている。サスケの事は好きだが、やはり仲間の枠と言うものを超えてではない。彼には木の葉に帰って来て欲しい。以前の様に、一緒に共に忍びとして……。最高のライバルとして、共に居て欲しい。だから、今回の彼の誘いを受ける事なんて出来ないのだ。自分はサスケの望む様な関係にはなれはしないのだから。そして、自分自身もそれを望んではいないのだから。

寂しい思いはさせないと言ったサスケの、不敵な笑みが頭をちらつく。

「ンな事、ねえもん…」

 寂しくなんかない。一人ぼっちでもない。サスケの言う様な孤独を払拭してくれたシカマルが自分にはいる。だが……サスケにはどうなのだろう。彼の孤独を理解し共に歩む者はいないというのだろうか。

「わ〜〜〜っ…も、頭ン中ぐっちゃぐちゃだってば」

 自分が救われた様に、サスケも救いの手を求めているのだろうか。そして、自分はその手になれるのだろうか。だが、それは偽物の救いだ。サスケを取り戻すために彼と共に行動を共にするという事は、自分を取り巻く仲間を、信じてくれる仲間を裏切る行為にしかならないのだ。それでも、遠回りでも…もしかしたらサスケを取り戻すチャンスになり得るかも知れない。それは、思い上がりに過ぎないのかもしれないが。ナルトは深い溜息をついた。

 サイが、明日は任務が休みだと教えてくれた。けれど、シカマルは面倒事に巻き込まれたと言っていた。一番に相談したいはずのシカマルが捕まりそうにはないのだ。カカシに、サクラに相談すればいいのだろうか。ナルトは無意識に溜息をついた。答えなんて最初から決まっているのに、サスケの元へ行く事もなければ、木の葉を捨てようとも思っていない。

「サスケ……なんで、ダメなんだよ?」

 どうして、生まれ育ったこの里が帰る場所ではいけないのだろうか。サスケの事を真剣に思う仲間たちがいる木の葉をどうして簡単に捨てられるのだろう。

「やっぱり……分かんねえよ。お前の言ってる事なんて」

 サスケは自分の手を取れとナルトに告げた。そうするべきだと、そうする事が正しい事だと言わんばかりの自信満々のサスケの顔を思い出す。いつも纏っている冷たい雰囲気はなかった。少なくともナルトが知っているサスケだったはずだ。

 

『お前が選べよ。この俺を』

 

 サスケの言葉がぐるぐると頭の中を回る。繰り返し繰り返し、頭の中に木霊する声。

 

『お前は、俺と共に来るべきだ』

 

 どうして、彼はあんな風に言いきれてしまうのだろう。絶対の自信を持って言い切れるのだろう?

 

『お前に、寂しい思いはさせない。今のお前みたいにな』

 

 胸が苦しい。サスケの言っている意味が分からない。理解したくない。

「…最悪だってばよ」

 一人きりだった自分に、仲間ができた。アカデミー時代悪戯仲間としてつるんできた、シカマル、チョウジ、キバ。そして、アカデミーを卒業して初めてスリーマンセルを組んだサスケにサクラ。

 困難にぶつかる度に、手を差し伸べてくれる仲間と師匠と、そして……恋人。少しずつだが、自分も成長しているのだと思えていたのに。サスケの嘲笑うかのような表情が言葉が、ナルトの足元をガラガラと崩していく。何度も彼に自分の声を届けたいと思ってきた。あの、終末の谷での別れや大蛇丸のアジトでの再開。いつも、崩れそうになる身体を心を支えてくれたのはシカマルだ。

 もうダメかもしれないと思った折れそうな気持ちを支えてくれたのはサクラで、今はそれにサイも加わっている。

 今、自分の中にある整理できない気持ちが、行き場を失ってナルトの心を侵食していく。

「………決まってんのに」

 サスケの手を、共に歩むと言う意味で掴めない事も。

 彼の気持ちを受け入れられない事も。それでも、彼が帰ってくる場所はこの里だと言う事を信じたい。

 ナルトはぼうっとしながら起き上がると、ふらりと家を出る。一人で部屋の中に居たら息がつまりそうだ。外の空気を吸って気分転換がしたい。心の隅っこに偶然でもいいから、シカマルと会えるのではないか……そんな淡い期待を込めながら、カンカンと古びた階段を下りた。

 

 

 

 ナルトは目的もなく歩く。そう、最初からどこかに行きたいとか思って外へ出たのではないのだ。ただ、今はシカマルと会いたい。全て、心の中に渦巻くどす黒い感情を払拭してほしい。

 ふと気が付くと、そこは木の葉の者が眠る場所だった。小さな子どもたちが花を手にしながら墓を清めている姿が見える。

「ナルトの兄ちゃん!」

「おう!」

「今日は誰のお墓参り?」

 聞かれて返答に困ってしまう。誰とか決めていない。ただ、ふらふらと歩いていたらこの場所に辿りついてしまっただけなのだ。

「ん〜と……火影、かな?」

「そっかぁ」

 顔に見覚えがあるが、名前が出てこない。屈託のない笑みを浮かべる少女がナルトに花を差し出す。

「手ぶらじゃダメだよ〜。ナルト兄ちゃん」

「そうだなぁ…花の一つくらい持ってくるべきだよな?」

「でもね、先生が言ってたよ。気持ちが一番大切なんだって。今日は、私のお花分けてあげるね!」

 少女は手を振ってナルトに背を向ける。ナルトは手渡された白い花をじいっと見つめた。それから、火影がまつられる塔の前に立つと、墓前に花を手向ける。

「悪りぃな…火影のじいちゃん。今度はちゃんと花くらい持ってくるから…今日はこれで勘弁してくれってばよ」

 そして、どかりと地面に座り込んだ。

「オレ……どうしていいのか、わかんないんだって……あ〜、違うかな。どうしたいのか決まってんのに、どうしたらいいのか分かんないんだってばよ」

 感情がまとまらない。そして、考えもまとまらない。

「オレ…すげえ、思い違いしてんだよな。オレが…サスケを救いたいとかさ。救うとか…すげえ大層なこと言ってんけど、きっとなんもわかってないんだって………オレ、どうしたらいいと思う?」

 独り言だ。答えなんか帰ってくるはずもない。本当は、この気持ちをシカマルに聞いてほしいのに。

「じっちゃん…悪りぃ。オレ、煙草吸わねえから…今度はシカマル連れてくるし。そん時まで我慢してくれってばよ」

 ナルトの頬を生ぬるい風が撫ぜる。その瞬間、背筋にぞくりとするものが走った。自分を取り囲む空気が一瞬変わった様な気がして、思わず立ち上がった。

「あのあのあのさ!オレは幽霊とかそーゆうの、ぜってーにノーセンキュだから。お願いだから枕元に立つとか……止めしてくれってばよっ!」

 大声で言葉を切ったナルトは、はぁはぁと肩で息をつく。一瞬感じてしまった。異形の影。それが三代目火影であると言う確信はないけれど、自分と同じくらい人を驚かすのが趣味だった三代目である。こちらからお断りしても、勝手に枕元に立ちそうだ。

「……分かったってば?」

 強い風が吹いた。ナルトの金糸が風に揺れる。

「ううう……もう、じっちゃんまでオレの事、苛めんな!!」

 ナルトは蒼白した顔で、それでもむすりと口を歪めると火影の塔に背を向ける。

 

 答えが決まっているのに、どうして心に引っかかるものがあるのだろう。

 サスケの存在は大切で、でもそれは仲間以外のものではなくて。

 

「ちくしょっ…」

 寂しくなんかない。いつも自分を見て居てくれる人がいる。抱きしめてくれる人がいる。

「シカマル…」

 その手を掴みたい。ただ、顔を見るだけで良い。勘の鋭い彼の事だ。言葉にしなくても、渦巻く気持ちを分かってくれるはずである。そして、その手は自分を繋ぎ止めてくれるもので。思い上がった気持ちを諫めてくれるだろう。そして、優しいキスをしてくれるだろう。きっと、きっと…自分の気持ちをくみ取ってくれる。

「もうっ!……なんでだよ」

 一つ一つ悪い事が重なっている。面倒な事になったのだと苦笑していたシカマル。それでも、彼ならその忙しい時間をぬって自分の相談にも乗ってくれるはずで…………

「だめだ…ンな事できねえ」

 ナルトは思わず座り込んで頭を抱える。堂々巡りな思考が落ち付いた頃、木の葉には夜がやって来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナルトがぐるぐる〜ぐるぐる〜…

シカさんと、再開なるか!きっと今の状態のナルトを見たら、

シカマルならピンとくると思うんだけどな。

ナルトがサスケに向けるのは友情なんだよ…