胡蝶蘭

 

 

 

act 6 

 

 

 昨日のシカマルは本当にサラリとナルトと別れを告げて、自分の小隊を引き連れて帰ってしまった。それは任務終了後の話である。それから、サクラとサイに誘われて夕飯を共にした。と言うか、無理矢理に連れて行かれたと言う方が正しい。

 そして、今日…10月5日。

 ナルトは公園のベンチに座りながら、ぼうっと怪しい空を見上げていた。昼間には太陽が顔を出していたのに、今では黒い雲が空を覆い始めた。夕暮れに差し掛かっているため、すぐに夜の雰囲気が襲ってくる。公園に設置されている電灯に明かりが灯る。ナルトは人知れず溜息をついた。昨日、シカマルと別れてから彼の気配を感じる事がない。木の葉隠れの里は小さな里でない事は分かっている。道ですれ違うことなんて本当の偶然か、奇跡に近い様な物。それは、たった一人に遭遇すると言う話であって、今日は見知った仲の良い者と全く会っていない。

「ンな日もあるんだなぁ…」

 時間を持て余してしまったナルトは、買い物を済ませた後公園になんとなく立ち寄ったのだ。そして座り込んでしまってから、なんとなく動けないでいる。どんどんと怪しくなる空を見つめながら。

 ここ数日、訳もなく寂しさを感じてしまう。心の隅っこにある疎外感。どうしてそう感じてしまうのか分からない。それは、小さな頃に感じた忌み嫌われているような疎外感ではない事は確かである。ナルトは思わずふっと笑う。

 忍になり、仲間ができた。友達もできた。その中で自分はとても贅沢になってしまっているのではないだろうか。当たり前の様に仲間がいて、シカマルが隣に居て。当たり前になって贅沢になっていたのだ。どうして、こんなに気落ちしてしまうのかも分からない。昨日、シカマルと任務であっても同じ時間を過ごせた事に、浮かれていた気分が急降下している。

 そう、訳もなく寂しい訳ではない。シカマルが居ない事が寂しい。こんな事は初めてではないのに、何日も顔を合わせない生活を今までも送って来たと言うのに。

 ポツリ―――――… 天から落ちてくる雫が頬に当たる。空を見上げていた為に、それは頬を額を濡らしていく。最初は一滴だった雨粒が、次々と天から落ちてくる。それを、意味もなくぼうっと眺めて随分と外気が冷えている事に気が付く。ぶるりと身震いした所で、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。紛れもなく、名前を呼ぶ声。

「ナルトくん?やっぱり、ナルトくんですね」

 にっこりと柔和な笑みを浮かべた彼は、いつものように穏やかな笑顔を浮かべている。そして、その後ろには腕を組んだ上忍と、気が強い紅一点。

「雨が降っている事にも気がつかないでいるのか?お前がそんなに鈍感だとは思わなかったな」

 皮肉を纏った言葉にナルトはくすりと笑う。

「うっせーってばよ。たまには雨振られたい気分の時もあるんだってばよ」

「まぁ、バカは風邪ひかないって言うものね〜…それにしても、これから本降りになるわよ?さすがにこんな所で雨に打たれるのは、風邪を引く前に馬鹿な行為だと思うんだけど?」

 う〜んと唸ったリーはナルトに手を差し出す。

「これから、僕たち夕飯なんですよ?良かったら、温かいものでも一杯どうですか?ナルトくん」

 その言葉を聞いたネジとテンテンは眉を潜めて顔を見合わせた。リーの「温かいものを一杯」という言葉に反応したのだ。

「リー……何度も言うが、いくつ店を壊したら気が済むんだ!」

 アルコールに弱いリーは、おちょこ一杯の酒で見境を失くしてしまう酒乱だ。ネジは窘める様にギロリと睨みつけた。

「あはは、ネジ。心配する事はないです!僕が誘ったのは、ファミレスのドリンクバーですから!」

 その科白を聞いたテンテンがくすりと笑った。

「ほんとに、アンタらしいわね〜ってか何時の間にファミレスに決まってたのよっ。リー!」

 今まで、リーの酒乱の所為で数々の惨事を目にしてきた同期生は、安堵の息を吐いたのだった。座り込むナルトの手を引いたリーはにっこりとナルトに笑顔を向ける。

「温かいものを飲んで、冷えた身体を温めた方がいいですよ?」

「あ…うん、でも」

 今夜はシカマルが少しは顔を出すと言った日だ。彼と時間の約束まではしていないが、なるべく早く家に帰りたい気持ちがある。それでも、自分を気にかけて声を掛けてくれたリーの気持ちを無下にも出来ない。

「うん…なら、ちょっとだけ」

 ようやく重い腰を上げたナルトに、ネジは口元に笑みを乗せる。珍しく不敵な笑みではないそれに、ナルトもお愛想程度の笑みを返す。テンテンはナルトの買い物袋を手にすると、颯爽と背中を向けたのだ。いつもの彼らしくない姿を目にして、気になってしまった事は口にしない。

 ファミレスに訪れた彼らは、適当に料理を頼む。

「えっと、ナルトくんはコーヒーでいいですか?」

「オレってば、コーヒーは苦くて無理」

「お砂糖と一杯入れて飲めばなかなかいけますよ?」

 せっせと世話を焼いてくれるリーにナルトは渋々頷く。

「でも、やっぱ無理。お茶が飲みてえもん」

「じゃ、お茶にお砂糖入れますか?」

 ニコニコのリーにナルトはむうっと口をへの字に曲げる。緑茶に砂糖とはどんな飲み物だろうか。ナルトの常識でも考えられない。

「ノーセンキュ!」

 そのやり取りを聞いていたネジは肩をすくめ、メニューを目にしたままオーダーを取りに来たウエイトレスに適当に料理を頼んでいく。

「なんか、ネジがファミレスとか似合わねえってば…どっちかって言うと、居酒屋とかで一杯ひっかけてそうなイメージなんだけど?」

「うるさい。お子様の舌に合わせてやってるんだ。感謝しろ、感謝」

 どこまで言っても上から目線のネジはいつもの彼らしい。本当に適当に頼まれた料理が、テーブルの上を埋め尽くす。食べ物を目にしたナルトは、目をきらきらさせながら取り皿にそれを取り分けて行く。テンテンは、自分の前に置かれた飲み物をナルトに進めた。

「なんだってばよ?」

「ホットワイン、少しくらいならいいでしょ。もちろん、リーは禁止だからね!」

 釘を差す事を忘れないテンテンは、リーににっこりと笑いかける。リーはむうっとしながら「わかってます!」と返事をして、カップに緑茶を用意している。

 ナルトは、テンテンに進められたワインを口にする。それは仄かに甘い。

「あったまるわよ?とりあえず、ね?」

 一応、ネジもテンテンもリーも、いつもと様子の違うナルトを心配していたのだ。

「あんたから元気を取ったら、なあんにも残らないでしょ?」

 ウインクされたナルトはバツが悪そうに、ちびちびとワインに口を付けた。そこそこに食べられる料理を口にしながら、食事を進める。漫才にしか聞こえないネジとリーのやり取りを聞きながら、ナルトはほうっと温かい気持ちになる。一応、料理を口にしながらテンテンに進められたワインをお代わりした。ちっとも酔いが回らない。それにうんざりした所で、ネジが口を開く。

「呆けるなら自分の家で呆けるんだな。あんなバカ面をさらされたら、誰でもほっとけないぞ」

「……ンなつもりねえけど……」

 苦手な生野菜をよけながら、鉄板で焼かれたジャガイモのチーズ焼きを箸先でつついた。

「別に……たまには、こん日もあるんだってばよ」

 早口でまくし立てたナルトを不思議に思いながら、ネジは首を傾げた。いつもならば、煩いくらいの仲間に囲まれているナルトが一人で公園にいたことも気にかかる。

「ま、何にしても…腹が減ると余計な事も考えるものだ。先に腹を満たせ。それと、飲みすぎるなよ」

 ソフトドリンクを口にしているリーとは反対にナルトは、少しずつであるがアルコールを口にしている。だが、ちっとも楽しそうでない。食い物をあてがっておけば、少しはいつもの彼に戻るのではないかと食事に至ったのだが、それは余り彼の役には立っていないようだ。

「…全く、手のかかる奴だ」

 食事をとるよりもアルコールを口にしている方が多い様な気がする。店を後にするころには、ナルトの足元はおぼつかない。

「リー、テンテン…しょうがないから、ナルトをアパートまで運ぶぞ?」

 事の成り行き上、そうするしかない状態なのだ。ナルトの肩を抱えたリーは「しょうがないですね?誘ったのは僕なんですから」そんな事をぶつぶつ言いながらも、少し楽しそうだ。

 夕方に降った雨はもう止んでいた。雲の合間に見えるのは、欠け始めた月と小さな星の光。

「リーのお人好しにも参ったものだ」

「とか言いながら、ネジもけっこう楽しそうでしたよ?そうですよね、テンテン」

「たまには変わった食事もいいんじゃないの?」

 他愛のない会話を続けていると、すぐにナルトのアパートに到着した。リーはじっとその扉を見つめる。

「電気……ついてますよね。ってことは、誰かいるってことなんでしょうか?」

 首を傾げたリーにネジは失笑する。

「誰かもなにもないだろう。俺から言わせれば、自己顕示欲の塊のような奴にしか見えないがな」

「ネジの言葉は難しくて、僕にはわかりませんよ」

「…リー。アンタには分からなくていいから」

 テンテンが笑みを浮かべた所で、見つめていた扉が開く。そして、よく見知った顔。

「うるせえから、ナルトが帰ってきたと思ったら…お前たちかよ?」

「あ!どうも、こんばんは」

 リーの手から眠っているナルトを受け取ったシカマルは、軽く会釈だけ返す。きつい言葉とは裏腹に、抱えたナルトに対する瞳は優しく見える。

「夕方、一人で公園に居る所を見かけて食事に誘ったんですよ」

「…公園に?」

 ナルトを手渡したネジはこれからの事に興味なさそうに、シカマルに背中を向けた。それに見習いテンテンも軽く手を振るとネジを追う。リーはじっとシカマルを見つめた。

「あの…僕が言うのもおかしい話かもしれませんが、ナルトくん。何か寂しそうでした。寂しそうに、雨に振られていたんです」

 シカマルの心にズキンと響いた言葉。リーは真実を述べているに過ぎないだろうに、溜息がもれる。

「どうも」

「いえいえ、では。おやすみなさい」

 人の良い笑顔を向けたリーを見送ってから、シカマルはナルトを抱えなおす。すうすうと寝息を立てる頬に唇を寄せた。

「悪りぃ…これでも、後悔してんだぜ?」

 人に何かを任せるのではなかったと。それも、自分とナルトの事を。寂しい思いをさせているでのはないかと言う危惧はここ数日考えている事である。今では、やる気が漲る仲間たちの暴走(…に見える)を止める事も出来ない。言いだしが自分である事から、引き下がれないのだがシカマルの中に少しの迷いが生まれた。

 本当にナルトは喜んでくれるのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナルトの誕生日が終わってしまいそうな今日。

うちでは、まだ10/5ですよ(笑)

ああ、おかしいなぁ

時間配分、完全に間違えてます!

そんなこんなでグダグダで続くのでした〜(^^