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act 3 moonlight

 

 

 ヨシノと共に奈良家の門を潜ったナルトは、奈良家当主シカクの熱烈な歓迎を受ける事になる。

「ナル坊!久し振りじゃねえか〜」

 がしがしと頭を掻きまわされて、ナルトはにししと笑った。

「シカクのおっちゃん、めちゃ久さしぶりだってばよ!」

 最近では奈良家へ来る頻度が減って来ている。シカクが任務の為に家を空けていたりすると、会える機会というものも減ってしまう。

「ふふ、お父さん…本当に嬉しそうね」

 ヨシノの言葉に当たり前だと言わんばかりに頷いたシカクは、まだナルトの頭を撫ぜる事を止めないでいた。

「二人とも、お茶を入れるから少し待ってくれる?」

 テーブルに腰を落ちつけたナルトは、ご機嫌なシカクを見ながらにっこりと笑った。

「なんか、自分ちじゃねえのに、すっげー落ち付くってばよ。ヨシノのおばちゃんがお茶淹れてくれて…おっちゃんと飲んで……」

 そして、いつもならばナルトの隣にはシカマルがいる。そう考えて気落ちしてしまった。自分が何故落ち込んでいたのかを思い出してしまった。奈良家に来た時点で、自ずとシカマルの事を思い出してしまうのだろうけど。

「おめーは変なトコで遠慮深い奴だな。気にせずに自分ちだと思ってやってくりゃいいんだよ」

「おっちゃん…」

「そうよ?ナルトくん」

 ナルトの前に置かれる湯呑。それはヨシノの計らいで、家族同様に焼かれた代物だった。

「サンキュだってばよ!」

 ヨシノはにっこりと笑うと、夕飯の支度があると言いながらダイニングから姿を消す。その後ろ姿を見たシカクがにやりと笑った。

「なんだ、母ちゃんも機嫌いいじゃねえか」

「え…そうだってば?」

「ああ、ナル坊が来たから腕の奮い甲斐もあるってもんだろうな」

 ナルトは少しくすぐったい気分になりながら、シカクと他愛のない話をする。経験という上ではシカクは忍の大先輩だ。積んできた経験も、潜って来た修羅場も違う。それに、シカクは話上手だと言える。ナルトでも分かりやすいように話してくれるし、たまには反対にナルトに質問をしながら話の幅を広げて行く。そんな口調がやっぱりシカマルを思い出させた。親子なのだから至極自然な事なのかもしれない。シカマルは嫌がるだろうが、やっぱりシカクと彼は似ている。

 ナルトは無意識に溜息をついた。全ての思考が全てシカマルに繋がってしまう自分に笑えてくる。

「どうした、ナル坊。元気ねえじゃねえか…?」

 シカクは最初から気になっていた事を口にした。

「……そんな事、…ねえってばよ」

「そうか?」

 探る様な視線に威嚇された気分になって、湯呑に口をつけた。

「ナル坊は嘘が下手くそだな。分かりやすくて笑っちまうぜ」

「だ、だから!ンなことねえってば…」

「はいよ、そうゆう事にしといてやるか。ま、色々あるオトシゴロってやつだな?」

「おっちゃん…オレの言ってる事、聞いてる?」

 ナルトがむうっとすると、シカクは楽しそうに声を上げて笑う。そこへヨシノが現れて次々と食事が運ばれた。

「ナルトくん、たくさん食べて元気になるのよ?」

「そうだそうだ。腹が減ってるとな、余計な事まで考えちまうもんよ」

「だから、大丈夫だってばよ!」

 否定しているのに、大人の二人には通用しない。そんなに自分は凹んでいるように見えるのだろうか。なんだかそう言われれば言われるほど、余計と気になってしまう。

「おっちゃんとおばちゃんから見たら、オレってそんなに元気がない様にみえるってば?」

 素朴な疑問を投げかけると、シカクとヨシノは顔を合わせてくすくすと笑った。笑われてしまったナルトとすれば、首を傾げるばかりである。

「おっちゃん、おばちゃん!」

「悪りぃ悪いナルト……ほんとにお前は、すれてなくてシカマルと違って…なぁ、母ちゃん」

「ナルトくんは怒るかもしれないけど、可愛いのよ。私たちから見ればね」

「それって、オレが成長してねえってこと?」

「違うわよ〜。そうゆう事でなくってね。だって、ナルトくん最近シカマルが相手してくれないから拗ねてるんでしょう?」

「え…えええええっ!」

 ナルトは真っ赤になって、立ち上がる。その様子を見て、またシカクとヨシノが笑い始めるのだ。美味そうに食後の茶をすするシカクは、硬直しているナルトに視線を移すとにやりと笑う。

「シカマルは雲みてえな奴だからな。何考えてんのか親の俺でもわかんねえよ。でも、一つだけはっきりしてる事は“友達”を大切にしてるし、仲間っつう繋がりも大切にするようになった。そりゃ、お前…ナルトに感化されたんだろうよ」

 ナルトは真っ赤なまま、ストンと腰を落とす。

「…ンな大層なもんじゃねえと思うってばよ」

「なんとなく生きてたあいつに、色んな意味が出来た。てめぇで物事考えて、動くようになった。そりゃ、アカデミー時代からつるんできたナルト、チョウジ、キバ…親泣かせの悪戯仲間から、いっぱしの忍が育って、木の葉隠れの里もいい意味で世代交代だ。ナル坊、おめぇってゆう存在が、周りを巻き込んで変えてくんじゃねえのか?俺はそう感じてるがな…」

 ナルトはむすりとしながら、お茶を口に含む。

「ナルトくん、お父さんも拗ねてるのよ?シカマルがナルトくんと食事済ませてきたとか聞くと、いっつも歯痒い思いしてるんだから」

 シカクは飲みかけのお茶を吐き出しそうな勢いでごほごほとむせ返る。

「何言ってんだ!そりゃ、母ちゃんだろうが……外食するならウチに連れて来いってうるせえこと言ってんだろ?」

「あ、あれは…お父さんが寂しそうにしてるから……」

 言い合いを続ける二人を見て、ナルトがくすりと笑う。シカマルにもシカクにもヨシノにも大切な物をいっぱい貰っている。ほわりと温かくなる感情がその証拠。言葉にできない思いが悔しいけれど、やっぱりナルトはシカマルの両親がこの二人で良かったと思う。

「おばちゃん……この前、シカマルの誕生日だったってばよ」

「え?あ…ああ、そうね。あの子ったらそんなのお構いなしよ?小さな頃から感動が薄い子だとは思ってたけど、結局は任務だからって家にも帰ってこなかったし……」

 眉を潜めるヨシノに、ナルトは心の中で手を会わせる。シカマルを独占してしまったのはこの自分なのだ。

「オレ、シカマルと仲良くなれて良かったってばよ。おっちゃんとおばちゃんが居なかったら、オレもシカマルに会えなかったんだし、すっげえ感謝してるってば。だから、なんか…シカマルの誕生日もめでたいけど、おばちゃんにもサンキュなんだってば」

 ナルトの科白を聞いたヨシノは驚いたように目を丸くしてから、ふふっと笑った。

「やぁね、息子にも感謝された事ないのに…照れちゃうわよ」

「ナル坊…やっぱ、お前は母ちゃんのツボ心得てんな」

 シカクもナルトの言葉に笑顔になっていた。自分には親と言うものが生まれた時から存在しない。そんな自分にも家族同然に接してくれるシカクとヨシノの事が大好きだ。その気持ちを伝えただけのに、二人は優しい笑みをナルトに向けた。

 楽しい時間というものはあっという間に過ぎてしまうものだ。ナルトは泊まる様にすすめる二人に丁重にお断りをする。なんだか、心の中にぽっかり空いた穴がある。心のどこかで期待している自分が居た。もしかしたら、自分のアパートにシカマルがいるかもしれない。そう思うと無性に帰りたくなってしまったのだ。キバとの任務の事も気にかかるが、ヨシノの情報によるとシカマルは明日休みだと言う。それならば……という淡い期待が胸に湧きあがった。

 ナルトを見送ってくれるシカクとヨシノに手を振ると、ナルトは口元に笑みを浮かべながら帰路についた。真っ暗になってしまった里には、点々と街灯が灯り始めていた。

 ナルトの手にはお土産だと渡された月見団子がある。ナルトは知らなかったのだが、今日は中秋の名月というやつらしい。首を傾げたナルトにシカクが簡単に説明してくれたのだが、結局のところは月を見て団子を食べればいいのだと笑われてしまった。ナルトは空を見上げる。夜なので、シカマルの好きな青い空と白い雲は見えない。その代わりにまんまるい月がぽっかりと浮かんでいた。ヨシノの話では、中秋の名月だからと言って満月ではないらしい。月には月齢といわれるものが存在するらしいのだ。それも良く分からなかったのが本当のこと。ナルトには丸く見えるのだけれど、満月は明日だと教えてもらった。自分の知らない事を教えてくれるヨシノとシカクは本当の親のような存在になっている。

「団子食いながら月を見るなんて、なんかいいってば……えっと、おばちゃんが歌ってくれたのは〜…」

 ナルトはヨシノが歌ってくれた動童謡を思い出す。懐かしい様なメロディ。知らずに笑顔になってしまう。

「うさぎ、うさぎ…なに見てはねる〜十五夜お月さま見てはねる………」

 機嫌良く歩いていると、暗闇の中から誰かの話声が聞こえた。ナルトからは目視出来ないが、ぼそぼそと話す声が聞こえてきた。それも、どうも男女の声のようだ。ナルトはなんとなくその前を通り過ぎようと早足になる。

 そして、街灯から離れる様にある気配の前を通り過ぎようとした時、ナルトの耳に聞きなれた声が聞こえた。

「だから、それは分かってるって言ってんだろうが…」

 少し面倒臭そうに呟く声に思わず反応してしまう。だから、反射的に確かめるつもりで顔を上げてしまった。

「なによ!私だってね、いろいろ考えてんのよ?!」

 暗闇の中でも視線が合った様な気がした。呆然としてナルトが立ち止まると、影だったはずの人影が動く。

「ナルト?」

 ナルトはじっと名前を呼んだ影を見つめる。

「えっ?…ナルト?」

 そして、後ろから現れたもう一つの影。

「どうしたんだよ?……もしかしなくても、俺んちからの帰り道だよな?方向的に…」

「シカ、マル…?」

 暗闇から現れたのはシカマルで、その後ろに居るのはいのだった。ナルトは何故か胸の奥が痛くなる。理由の分からない感情が胸に込み上げた。

「おばちゃんに……夕飯に誘われたんだってばよ」

 それでも普通に話をしようとしている。なのに、声が上ずってしまったのは動揺しているからだ。ひそひそと秘密の話をするような二人に、何故か動揺してしまった。

「そっか…悪かったな」

 夕方の事だろう。キバとの打ち合わせがあると、誘いを断られた。ナルトは力なく首を振る。

「任務なら、しょうがないってば」

「……ああ」

 歯切れの悪い返事にナルトはきゅっと唇を噛みしめた。

「シカマル、明日は任務なんだってば?」

 シカマルは一瞬戸惑った様に感じたが、すぐに肯定の返事が返ってくる。

「いのとも任務の話してんのか?」

「ナルト!そうよ、そう。すっごく大切な話してんのよ〜…ね!シカマル」

「ああ…」

「そっか!ならオレは邪魔しねえように帰るってばよ。じゃあな、シカマル。いの」

 ナルトは無理やりニコリと笑うと、シカマルといのの前から走り出してしまった。シカマルに呼びとめられたような気がするが無視して背中を向ける。シカマルといのが幼馴染で、元々小隊としても組んで居た仲だ。二人が一緒に居る所なんて何度も目にしてきたと言うのに、何故だか今日は胸が痛い。

 息が切れるまで走って、見慣れた公園に差し掛かった所で止まる。乱れた息を整えるように大きく胸で息を吐いた。それでも、振り返ってしまう。

 そこには、自分が欲しいものはなにもなかった。あんな不自然な別れ方をしたのだ。シカマルならば何かを感じているだろう。だけれど、自分を追ってくる気配はないのだ。それを心の隅で望んでいる自分が居る事は確かで。

ナルトはぎゅうっと紙袋を握り締めていた。くしゃくしゃになったそれを開けると、ヨシノから貰った月見団子が無残にも潰れている。それを見て悲しい気持ちになった。

「団子……潰れちまったってばよ」

 白くて丸い小さな団子が不細工な形になっている。それを一つ摘まむと口の中に入れた。

「へへ…っ、しょっぱいってば……なんでかなぁ」

 甘い団子の味が口の中に広がるはずなのに、胸の奥から湧きがる苦い思いが涙となって頬を伝った。唇がわなわなと震えて頬を伝った涙が地面に落ちる。

「オレってば、めちゃだっせー……」

 ごしごしと目を擦ると、ぎゅっと口元を引き締めて月を見上げた。やっぱり、ナルトにはまんまるの月に見える。ほんの少し欠けているなんて分からない。

「分かんねえって…………やっぱ」

 上を向いた事で目に溜まっていた雫が限界に達した様に、ぽろりと目尻を伝う。

「…丸いってばよ」

ヨシノの話ではシカマルは明日の任務は入っていないと言う事だった。なのに、シカマルはそれを否定する答えを返した。何が真実なのかは知らない。それすらも、どうでもいい事のような気がしてくる。

 ただ、小骨がつっかえた様な違和感をシカマルとの間に感じるのだ。それは本能なのだけれど。

「う〜さぎ、うさぎ!…なに見てはねる……」

 ナルトは鼻をスンとすする。

「十五夜、お月さま……見て、は…ねる」

 涙を止めたいのか、違うのか。どうして自分は泣いているのか。何もかもが分からない。しゃくりあげそうになって、手で掴めるだけの団子を口の中に頬張る。

 自分はこんな泣き虫ではないはずだ。明白な理由がなく泣いているなんて、本当にバカバカしい。しょっぱい団子を咀嚼しながら、ナルトはとぼとぼとアパートまでの道を歩いて帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当は103にアップ予定だった話。過去形。

今年の中秋の名月は3だったのですよ〜……ああ、悔しい。

思ったよりもact3が長い話になってしまった。

しかも、早々にナルト泣かせてんじゃん!!

あはは(笑って誤魔化す)

でも、ラストはハッピーで!!